⑥聖銘記イタダキマス:黄金の真理と銀河の盾
⑥聖銘記イタダキマス:黄金の真理と銀河の盾
プロローグ:予約の刻
一週間後。厨房の電話が鳴った。
「はい、鍋島です」
「私だ。老賢者だ」
「予約ですか」
「そうだ。来週の火曜、午後三時から異世界に来てくれ」
「普通に予約してきた……」鍋島は驚いた。「あの、何かあったんですか」
「都だいこんで、選挙がある」
「選挙?」
第一章:民主主義の刻
指定の時刻、鍋島は光に包まれて都だいこんに転移した。今回は初めて、心の準備ができていた。
「お、時間通りだ」
広場には、垂れ幕が張られていた。「第一回 都だいこん長老選挙」。
「長老って、選挙で決めるものなんですか」宗谷が呆れ顔で説明した。「先代の長老が引退することになってな。後任を、民主的に決めようという話になった」
「立候補してるのは?」
「からしと、たまねぎだ」
からしが黄色いマントを翻して演説していた。
「私は、魂の真理を見通す者だ! この目で、都の未来を見通す!」
対するたまねぎは、層になった体を震わせながら訴えていた。
「私は、涙を流しながらでも真実を語る! 辛い時ほど、剥いて見せよう!」
「二人とも、キャッチコピーが強い」鍋島は感心した。
おかわりが小声で耳打ちした。
「実はな、二人とも長老になりたいわけじゃない。互いに『お前がやれ』と押し付け合った結果、選挙になった」
「え、そうなんですか」
「本人たちに聞いてみろ」
鍋島はからしに近づいた。
「本音は、やりたくないんですよね?」
からしは一瞬固まり、声を落とした。
「……ばれたか。杖を突きながら演説するの、地味に肩が凝る」
たまねぎも認めた。
「私も、本当は歌ってる方が好きなんです。長老の仕事、書類が多いと聞いて」
「じゃあ、辞退すればいいのでは」
「今さら格好悪くて言えない」二人が同時に言った。
第二章:第三の候補
鍋島は考えた。
「あの、こんにゃくさんと竹輪麩さん、どうですか」
門番二人が、目を見合わせた。
「我々が?」こんにゃくが言った。
「適材適所、得意でしょ。力仕事はちくわぶさん、繊細な判断はこんにゃくさん。長老の仕事も、分担すればいいのでは」
竹輪麩がぼそりと言った。
「悪くない。ただ、私は麩だから、疲れるとふやける」
「休憩挟めばいいんじゃないですか」
こんにゃくが震えた。それは、乗り気の震えだった。
「二人で長老、というのは、前例がない」
「前例、作ればいいんじゃないですか。この都、けっこう前例のないこと多いですよね。門番二人体制とか」
宗谷が笑った。
「鍋島、お前、意外と政治向いてるな」
「向いてないです。ただの厨房の人間です」
終章:二頭体制
結局、都だいこんの長老は、こんにゃくと竹輪麩の共同体制で落ち着いた。からしとたまねぎは、晴れ晴れとした顔で選挙戦から降りた。
「肩の荷が下りた」からしが伸びをした。
「歌に専念できます」たまねぎも笑った。
新長老二人が並んで挨拶した。
「これより、我々二人で都を守る」こんにゃくが言った。
「力仕事は私に、細かいことはこんにゃくに」竹輪麩が続けた。
「順番、逆じゃないですか」鍋島がツッコんだ。
「あ、そうだった」
広場の人々が拍手した。祝いの席は、今回は控えめに、屋台程度の規模だった。
「今日は静かでいいすね」鍋島がおでんを一口食べた。
「静かなのが一番いい」おかわりが頷いた。「毎回世界の危機だと、こっちの寿命が持たん」
「あなた、寿命あるんですか」
「知らん。考えたことがなかった」
宗谷が空を見上げた。
「次は、いつ呼ばれるんだろうな」
「呼ばれない方がいいと思いますよ、正直」鍋島が言った。「平和な話、初めてじゃないですか、このシリーズ」
「確かに」おかわりが笑った。「魔王も出てこなかったし、誰も浄化しなかった」
「それが一番いいことだと思います」
鍋島は光に包まれ、厨房へ戻った。
「いただきます」
今回も、光らなかった。
「うん、平和だ」
―完―
