シューベルトと太鼓の達人
シューベルトと太鼓の達人
「ひっ……! な、なんですかこの画面の速さは……!? まるで魔王に追いかけられているみたいだ……!」
気弱な歌曲の王、フランツ・シューベルトは、メガネの奥の目を丸くして震えていた。
友人に連れてこられたゲームセンターの喧騒の中、無理やりバチを持たされて『鬼コース』の前に立たされている。
彼が選ばされたのは、自身の名曲『魔王』を極悪な高速BPMに改造した鬼畜アレンジ譜面。
「あ、あの……! 父さん、父さん、僕の画面に赤い音符の群れが見えるよ……!」
イントロのピアノ連打を模した「ドドドドドドドド!」という超高速連打が押し寄せる。
シューベルトは怯えながらも、必死でバチを振った。
「ド、ドン! カッ! ドン! ああっ、追いつかない! 馬の足音が……魔王の足音が速すぎるんです!!」
シューベルトの十八番である連打ピアノの悪夢が、今度は自分自身の腕に襲いかかる。
手首の筋肉が悲鳴を上げ、メガネが汗でズレ落ちて鼻の頭で留まった。
「あ、足音が……! 坊や、しっかりしなさい! じゃないと『不可』になっちゃう……ッ!」
視界が歪む中、画面右から流れてきたのは「カカカカカカカカ!」という鬼のフチ連打。
「ひいいいッ! 青い音符が! 青い音符が僕を連れ去ろうとしているーーーッ!?」
パニックに陥ったシューベルトは、右へ左へよろめきながら、体を折り曲げて太鼓にしがみつくようにバチを乱打。
足をもつれさせて筐体に膝を打ちつけ、「うぐっ!」と情けない声を上げながら七転八倒。
『不可』『不可』『不可』『不可』
「お願いいい! 誰か助けてえええ! 画面の坊やの命(魂ゲージ)が削られていくううう!!」
もはや音楽を奏でる余裕など微塵もなく、魔王から逃げ惑う哀れな父親のごとく、悲鳴を上げながらバチを振り回す。
しかし、無情にも最後の大連打を前に手が完全にストップ。
ポロロン……(絶望のゲームオーバー音)
「ああ……坊やは……坊やは逝ってしまった……(魂ゲージゼロ)」
シューベルトは膝から崩れ落ち、筐体の足元で小さく丸まった。
メガネは完全に傾き、息も絶え絶えである。
「……うう、僕の『魔王』はこんな、腕が引きちぎれるような曲じゃないのに……」
しくしくと泣きそうな顔で床を見つめていたシューベルトだったが、ふと顔を上げた。
「……でも、もしこの譜面に『歌』をつけたら……僕の旋律で、あの魔王(鬼コース)を鎮められるかもしれない……!」
友人の制止も聞かず、ポケットから小銭入れを取り出すシューベルト。
「もう一回……もう一回だけ挑戦させてください! 今度は歌いながら叩きますから!!」
