雨の魚藍坂から神楽坂へ
軽井沢町追分をぬけだし東京へ向かった。しとしと雨のなか2回ばかりタクシーを拾い所用を済ませるとはや夕刻、少し雨粒は大きくなっていた。
3回目のタクシーは白金界隈で手を上げ「神楽坂まで」と伝えた。運転手さんは「魚藍坂をくだって、お堀のわきを走りましょうか」とバックミラー越しに笑った。
濡れた魚藍坂をさーっと滑り降りていく。魚籃寺があるからだろうか、どこか信心深いしっとりした空気が、窓の外を流れていく。そのまま車は夕暮れの東京をすーっと滑り、三十分ほどで神楽坂の坂下に着いた。
「このふたつの坂、なんか似てるんですよね」と運転手さん。「魚藍坂で気持ちをちょっと落ち着かせて、神楽坂の路地で一杯やる。東京の坂って、大人のちょっとした寄り道にちょうどいいんですよ」
支払いを済ませて車を降りると、濡れた石畳に街灯がぽっと滲んでいた。坂の残像を背中に感じながら、黒塀の路地へと足を踏み入れる。
馴染みの割烹の暖簾をくぐると、馴染みの笑顔が迎えてくれた。
今夜はなかなか小粋なタクシーを拾えたな。
「大人の寄り道ですか。」
東京には今も色気ある町名がたくさん残っている。

石畳によばれて…
