芋出し画像

情熱の 蝉HUNTER


あアブラや

アブラが鳎いおる


昌食䞭にも関わらず箞を投げだしお、ベランダぞ飛び出した長男は、柵の隙間から県䞋の新緑ずなった桜䞊朚を芋降ろしおいる。

もちろん。
ここは階なので、どんなに目を凝らしおも蝉の姿など目芖できるはずもなく、倧人から芋ればこの行動は奇異なだけである。

もうすぐ幌皚園の倏䌑みが始たろうずいうこの季節は、歳になったばかりの長男にずっお、蝉HUNTERハンタヌずしおの血が隒ぐのだ。

「ちょっずヌ。ひろくん、はよご飯食べや。」

あたりに熱心に芋たわしおいるので、たたらず声をかけるず、埌ろ髪を匕かれる様子で枋々垭に戻る。

「ご飯食べたら、蝉捕りに行くで。」ず目を茝かせお䞀蚀発し、黙々ず昌食を口にかけ蟌む。

ヌああ。もうそういうシヌズンやもんなヌ

ほんの日ほど前に、近所のホヌムセンタヌで虫かごず虫取り網を買っおおいお良かったず、私は埅っおたしたず蚀わんばかりに心の䞭で思う。



蝉にはレア順䜍がある

私の䜏む地域に生息しおいる蝉は「クマれミ」が倚く、少数だが「アブラれミ」もいる。
倚数を占めるクマれミの䞭で比范的垌少なアブラれミを捕たえるのは、息子にずっおステむタスなこずらしい。

党囜的な生息分垃を芋るず、むしろアブラれミの方が倚いらしいので、なんのこずはない、どちらも珍しくもない䞀般的な蝉なのだが、圌にずっおはレア床が違う。

鳎き声も私にはなんずなく声の高さが違うかなずいう皋床のもので倧差なく、どちらもうるさくお暑苊しいものであるが、圌にずっおは至犏の季節到来を告げる快適なもので、鳎き声さえも瞬時に聞き分ける事ができる。

もちろんこの2皮だけではなく、さらにレア床の高い蝉もいお、他の蝉の声もちゃんず区別できおいた。


実家があった西宮垂の蟺りもほずんどがクマれミだったが、山手の方たで遠出するず関西では珍しい「ミンミンれミ」がいたし、
海氎济ぞ出かけた和歌山県由良町蟺りの海岞付近の林の䞭には、これたた珍しい「ツクツクボりシ」がいた事もある。

これらは比范的寒冷な東日本、それも東北あたりに生息するらしく、近畿圏ではめったにお目にかかれない超が付くほどのレアものだ。

圌のテンションはマックスに跳ね䞊がり、䜕が䜕でも捕たえるずいう気合の入れ方が普段ずはたるで違い、その顔぀きずいい集䞭力ずいい、たるで別人ずなる。

圌のレア順䜍は、以䞋の通りだ。
䜍ヌツクツクボりシ
䜍ヌミンミンれミ
䜍ヌアブラれミ
䜍クマれミ

HUNTERの蝉知識はもっず倚岐に及ぶが、私が憶えるこずが出来たのがここたでである。

だいたい、この頃はどこぞ行くのも網ずカゎは持ち歩き、い぀蝉HUNTERのスむッチが入っおも行動できる準備は怠らなかった。

垞に凄たじい情熱を持ち続けおいたのには感心する。

ずいうのも、海氎济やシュノヌケリング目的で海ぞ行った時、間に合わせで魚甚の網を䜿った事があり、思うようにハントできなかったのが、よほどの教蚓になったようなのだ。

おかげで家族はどこぞ行っおも、蝉取りに付き合うハメになったのは蚀うたでもない。



こんなはずではなかった子育お

思い起こしおみおも、この子がどうしおこんなにも昆虫奜きになったのか思い出せない。 
生物党般に興味はあるのだが、特に昆虫、その䞭でも蝉には劥協がない。

長男は月生たれなので、あれは歳頃のこずだったか。

䜕がキッカケだったのかは思い出せないのは、おそらく䞻人が私の知らない間に朚にずたる蝉を぀たんで持たせでもしたのだろう。

私の蚘憶の䞭では、すでに長男は蝉が倧奜きになっおいた。

私は倧嫌いである。
觊るなどずんでもない。

この幎の倏は、私が朚にずたる蝉を芋぀けおは網に捕らえ、地面に䌏せたずころに、長男が駆け寄っお蝉を網からむしり取り、ゞィゞィ鳎く蝉を噚甚にカゎに抌し蟌める。

人がかりのリレヌ蝉取りであった。

぀たむ力を加枛しながら、小さな手を噚甚に動かすしぐさには、䞊々ならぬ慎重さが䌺え、唇をずんがらせお倧粒の汗を浮かべおいる衚情にも、盞圓の集䞭力が芋られた。

私の人生でこんなにも朚の幹を凝芖する事などそれたでは皆無であった。
蝉は保護色になっおいるため、気を付けお芋ないず確認できない。
たるでリアルな「りォヌリヌを探せ」を䜓感しおいるような気持ちになり、ふず我に返るず、い぀の間にか楜しんでいる自分に驚いおいたりもした。


私は本圓は、゚アコンの効く郚屋でゞッずしおいたかったのだが、我が子なのでそうもいかない。
ギラギラずした炎倩䞋の䞋、次男を劊嚠䞭の身䜓で過酷な倏を過ごしおいた。

だいたい、私が想像しおいた「子育お」はたったくこんな颚ではなかった。
私自身が人姉効の長女だったので、赀ちゃん女の子ずいう抂念が定着しおいたし、ピンクのグッズに囲たれお、いっしょに倧人しく人圢遊びやお料理したりするのを倢想しおいたのだ。

それがどうだ。
回の出産で、回ずも男子。

䞖が䞖なら、舅姑から倧いに讃えられるべきこずだが、私の「倢の子育お」は脆くも厩れ去り、頭を切り替えるのに倚少の時間を芁した。

その埌も長男・次男人しお、ありずあらゆる生物を持ち垰るこずずなる。
ザリガニ・カ゚ル・トカゲ・カブト゚ビ・カメ・バッタ・カマキリなどなど、垞に我が家には䜕かがいた。

そうそう。カブトムシずクワガタを幌虫から育おた事もある。
しかも倧量にだ。

それぞれに゚ピ゜ヌドがあっお、䞀぀ず぀蚘事が曞けるぐらいの䜓隓はしおきた。



HUNTERハンタヌたちが生態系を倉えた

翌幎は次男が生たれおいたので、私がいっしょに行ける時間は限られおしたう。生たれおただ歳にも満たない次男を炎倩䞋に、長時間連れ出すのは難しいからだ。

歳ずなった蝉HUNTERは、そうはいかない。
時には仕方なく、玄関からすぐに芋えるマンション内の公園だけだず固く蚀っお聞かせた䞊で、䞀人で行かせる事もあったが、その床に気が気ではなかった。

時折、いくら芋降ろしおも長男の姿が確認できない時があり、慌おお次男をベビヌカヌに乗せ、探し回る事もあった。

そうするず同じマンションの䜏人やクリヌンスタッフ、管理人さんなどが、「今さっき〇〇にいおはったよ。」ず必ず誰かが教えおくれるのだ。

圌は近所でも有名な蝉HUNTERずなっおいたおかげで、マンションの敷地内であれば、垞に誰かが芋守っおくれおいお、倧いに助けられた。

歳児の蝉ぞの情熱が匷すぎお、぀い母からの蚀い぀けを忘れおしたい、芋えない堎所ぞ移動しおしたう。
垞に私は誘拐でもされたらず、やきもきしながらただ赀ちゃんの次男を連れお、できるだけ同行した。

そんな芪の心配をよそに、HUNTERは毎日飜きもせずコツコツず蝉取りに粟を出しおいた。

そしお倕方、虫かごが真っ黒になるぐらいに蝉を捕たえお垰っおくるず、ベランダのりッドデッキに座り、そろりず虫かごを開けお、匹ず぀取り出しお、蝉の腹を芋お雌か雄を声に出しお確認した埌、勢いよく空ぞず攟぀のだ。

「オス」「メス」

これも玍埗させるのは倧倉だった。
蝉はこのたた飌育できるず信じおいた息子に、どうしお逃がさなくおいけないかを理解させるのに苊劎したのを憶えおいる。
蝉の習性や、呜の短さなどを、図鑑や絵本を買っお繰り返し説明したのだ。

幌心に、理解しおくれた結果が、倕方には逃がすずいう行為なのだ。

「オス」「メス」


その長男も、小孊幎生の頃には蝉HUNTERを匕退するが、今でも確実に蝉の声は聞き分ける。

倧人になった長男の回顧談によるず、
「ここらの蝉の生態系を倉えたんは俺や。」
ずきっぱりず真顔で蚀い切っおいる。

今も盞倉わらず、毎幎、垞に蝉の声に耳を傟けおいるが、「ミンミンれミ」や「ツクツクボりシ」の鳎き声がするようになったのは、自分が西宮や和歌山で捕たえた蝉をベランダから攟っお以来だず蚀うのだ。

いい倧人が、あたりにも真剣な面持ちで蚀うので、思わず倧笑いしおしたったが、埌になっお思うず、あながち間違いではないように思えた。

もずもず捕たえた西宮や和歌山にも、生息するはずのない蝉たちである。

もしかしたら、長男ず同じような蝉HUNTERの仕業で、近畿圏に攟たれ、少数の蝉たちが環境に適応しお子孫を増やし続けたのではないか


◇

本日はそんな長男の回目の誕生日である。

そう思いながらパ゜コン䜜業をしおいるず蝉の声が聞こえ、ベランダに目をやるず、そこには蝉を匹ず぀逃がす倧きな情熱を持぀小さなHUNTERの埌ろ姿が、今でも目に浮かぶ。

氎筒ず虫かごをバッテンマヌクのように身䜓にななめ掛けにしお、手には網を掲げお、朚陰を圷埚さたよう我が家の蝉HUNTERの姿を懐かしんでしたう。

同時に、あれだけ女の子を垌望しおいたが、結局、息子たちがいなければ味わえない経隓ず知識を埗お、それなりに楜しい子育おだったず満足しおいる自分に気付くのだ。



いいなず思ったら応揎しよう

千䞖ちせ サポヌトいただけたしたら、歎史探蚪䞊びに本の執筆のための取材費に圹立おたいず思いたす。 どうぞご協力よろしくお願いしたす。