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夕方の水族館で乾杯を

今日は仕事が早上がり。


いつもなら仕事が終われば
そのまま真っ直ぐに家へ帰るところだけれど、
今日は少しだけ違う。

お昼休みに携帯電話を取り出して、
さちえに連絡をしてみた。


「ねぇ今日、早く終わるんだけど」

しばらくしてからメッセージが返ってくる。

「私も早く終わるよ〜」

それなら。

行っちゃいますか!


こういう時の決断は2人とも早い。


江ノ島駅で待ち合わせをして
2人で向かったのは、
私の大好きな「えのすい」。

そう、新江ノ島水族館だ───

今日のお目当ては夕方からのお楽しみ。

先着500名様限定の「夕方割」で、
チケット+ビールにチキンまで付いて、3,200円。


水族館でのんびりと お魚を眺めて
その後にチキンとビールまで飲めるなんて、
これはもう行くしかない!


「今日は大人の水族館デートだね」
私が言うと、さちえがすぐに返してくる。

「ただ飲みたいだけじゃない?」
「…… 違います」

「今さ、間があったよ?」
「私は、水族館が大好きなんです!」

「ビールも?」
「…… 大好きです」

「ほらね!」

そんなやり取りをしながら、館内へ入る。


夕方の水族館は、
昼間とは少し雰囲気が違う。


家族連れや子どもたちの姿も少しずつ減り、
館内にはゆったりとした時間が流れている。

照明を落とした水槽の中では、
魚たちが青い光の中を静かに泳いでいる。

水の揺らめきが壁や床に反射して
まるで館内そのものが、
海の中に沈んでしまったようだった。


「見て、あの魚かわいい」

「どれ?」
「あそこ」

「…… ちさ、魚より水槽の反射見てない?」
「だってキラキラしてて綺麗なんだもん」

「写真撮る?」
「撮る!」

気が付けば、さちえもカメラを構えている。


二人で水槽の前に立ち止まって、
魚がこちらを向くのをじっと待つ──


一匹が近づいてくる。

「今!」

パシャ。

「撮れた?」
「だめ。……魚、後ろ向いちゃった」

「ふふっ」


また次の水槽へ───


クラゲの展示では、二人とも足を止めた。

暗い空間の中で、
透明な身体がゆっくりと上下している。

白や青の光をまといながら、
何も急ぐことなく漂っている…

「クラゲっていいよね」
「分かる。ずっと見てられる」

「何も考えなくていい感じ──」
「それ、ちさが今一番必要なやつじゃない?」

「…… そうかもしれない」


───二人で笑った。


水槽の前に立っているだけなのに、
仕事の疲れが少しずつ抜けていく…


ウミガメの水槽ではさらに長く立ち止まった。


大きな身体をゆっくり動かしながら、
水槽の中を優美に泳いでいく。

「ウミガメって、なんかいいなぁ」

「何が?」
「急がないところ」

「ちさも見習った方がいいね」
「私?だって、急いでないよ」

「駅まで歩くの早いじゃん」
「それは……」

「この前さ、私置いていったでしょ」
「ごめんって」

くだらない話をしながら歩く、
そんな時間が楽しい───


何か特別なことを話しているわけではない。


でもこういう何気ない会話が、
後からの良い思い出になるのだと思う。


ひと通り館内を見終える頃には、
窓の外もすっかり夕方になっていた。

海の向こうに陽が傾き、
空が淡いオレンジ色に染まっていた──



───そして、お待ちかねの時間。



チケットと一緒にもらった商品交換券で、
チキンとビールを売り場から受け取る。

「きた!」

思わず声が出る。

紙袋を開けると、
香ばしい匂いがふわっと立ち上がった。


チキン表面はこんがりと焼けていて、
手で持ち上げるとまだ温かい。

ひと口かじる…

外側は香ばしく中は柔らかい、
肉の旨味と塩気が口いっぱいに広がる。

そこへ冷えたビールを流し込む。


「ふぅ、ビール最高!」
「さちえ、顔が完全におじさんだ」

「いいじゃん。今日は仕事頑張ったんだから」
「そうね、じゃあ私も」


二人の間に、小さな乾杯の音が響いた。

「お疲れさま」

「お疲れさま」


冷えたビールが、夕方の身体に染みていく。

目の前には江ノ島の海と、
少しずつ暮れていく夏の空。

さっきまで水槽の中を泳いでいた魚たちの姿が、
まだ頭の中に残っている───


「今日、来てよかったね」と、さちえが言った。

「うん」

「仕事終わってから水族館って、なんか贅沢」
「しかもビール付きだし」

「結局そこ?」
「大事です!」


また笑う───


夕方の水族館は、
少しずつ夜の顔へ変わっていく。

館内の照明が静かに水槽を照らし、
クラゲは相変わらずゆっくりと漂っている。

外では海が夕暮れの色を映していた。


仕事を早く終えた、ただそれだけの日 ───


でもほんの少し寄り道をしたことで、
今日1日の終わりが特別な時間になった。

忙しい毎日の中では
こういう偶然の余白が、
案外大切なのかもしれない…


「また来ようね」
「うん。次はもっと早く来よう」

「じゃあ、次はビール二杯?」
「……やっぱり飲みたいだけじゃん」


さちえが笑う。


私も笑う。


やがて外は、ゆっくりと夜へ向かっていく。

水槽の中では魚たちが、
変わらずに泳いでいる。


私たちも、そろそろ帰ろう───


でも、もう少しだけ。

この青い光の中にいたかったな…


海の近くの夜は、
時間までゆっくりになる気がした───

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ちさほ ありがとさま‼️ これで美味しい珈琲豆を買いにいきます☕️✨