旅日記 #001 夜逃げに間違われた四国
夏は毎年1週間程度の旅行に行くことにしている。今年は娘が受験生だから自粛したが、毎年どこいくか娘と相談しながら決めている。
4年前の夏休みは、愛車のハスラーにパンパンに荷物を詰め込み、娘と船で四国へ向かった。四国一周するつもりだったが、どれくらいの距離を何時間で移動できるのか全くわからなかったので7日間の予定にした。ホテルの予約はしなかった。
車で行ったのは、どうしても四国カルストでキャンプがしたかった。何かの旅行系YouTubeを見て「こんな風景が日本にもあるのか」とどうしても自分の目で見てみたくなったのだ。
船は東京の竹芝から徳島港まで、車と2人、個室を予約して往復10万円だった。そこから船中泊除いても5泊のホテル代を考えると海外旅行もあり得たが、娘がうどん好きなこともあって行ってみることにした。
徳島までの船の旅は快適だった。少なくとも私は船酔いはしない。大学時代に3ヶ月の調査船に乗ったこともあったが酔わなかった。
フェリーどうごには大きな湯船もついていて、船が揺れるたびに大量のお湯がこぼれるので、そのたび娘とはしゃいだ。自動販売機の冷凍食品を全種類試したころで徳島に着いた。

車がぎゅうぎゅうに積まれた車庫から順番に船から降りて、旅が始まる。とても天気が良い夏の日だった。
初日は香川まで移動したかった。
目的地の四国カルストは愛媛と高知の境目にあって、愛媛側から行く予定だったからまだ先は遠い。せっかくの旅だ。1日3時間以上は運転していたくないという漠然とした指標があったので、とりあえず徳島は道の駅に寄って芋を食べた後、香川へ向かった。
香川まではさほど遠くなく、ほぼ一本道の高速道路ですんなり到着した。さぁ、うどんうどん!と検索すると、有名どころは午後2時で閉店しているところばかりだった。セルフでゆでる系のうどんはリベンジするとして、いかにも観光客的なうどん専門店に渋々行ったがちゃんと美味しかった。(後日また行った)

この日は香川の安いビジネスホテルに泊まってだらだら映画を見ながら過ごし、移動の疲れもあってかぐっすり眠った。
翌日、松山へ向かった。せっかくだから松山城も見てみたいなと。あまり城には興味ないのだが、聖地巡礼と思い向かうと、スキー場にあるようなリフトに乗って城まで行けるらしかった。娘が大変気に入り、城などほとんど見学せずに、リフトを2往復して帰ってきた。

松山に友人がいたため、この日の夕飯は友人が郷土料理の美味しいお店に連れて行ってくれた。鯛めしと聞くと私の中では鯛の炊き込みご飯だが、松山では鯛刺身セットのことだった。こだわりはタレのようだ。この卵の黄身が醤油につけて一晩たったような濃厚な黄身で、たっぷりタレをつけて食べる鯛は最高に美味しかった。最後は薬味を乗せてお茶漬けでいただく。宇和島鯛めしと言うらしい。このあとも他の店で宇和島鯛めしを食べたがここが一番おいしかった。

翌日、道後温泉で足湯を堪能し観光した後、いよいよ四国カルストへ向かった。
その前にそろそろ給油かと山に登る前にガソリンスタンドへ寄った先で、ガソリンを入れてもらってる最中におっちゃんが心配そうな顔で覗き込んで、神妙な面持ちでこう言った。
「夜逃げ…やないよな?」
私と娘は顔を見合わせて大笑いした。
「いやいや!これはキャンプ道具です!これからカルストに行くんです!」
「ほんま?困ってることあったらおっちゃんに言ってな。」
ガソリンスタンドの従業員が集まってきた。
「なにしにいくん?」
「湘南ナンバーって、神奈川から来るほどのもの、なんもないで」
「まって。四国カルストに向かうならいい道がありよる。」
「いやおっちゃん今はあの道もナビででるから大丈夫やで」
「娘ちゃんは山なんか行って楽しいんか?」
なんてことを話している。隣の娘は目を輝かせて話をしていた。やはり旅先の出会いは何よりも楽しい。
私は四国カルストがとても魅力的で、もっと誇ってもいいこと、おすすめの道の駅の話などを聞いた後、そのちいさなガソリンスタンドを後にした。
道の駅で食材を買い込み、1時間ほど山道を走ると念願の四国カルストについた。

牛が放牧されていて、岩肌が地面から突き出している様子を見て、スイスみたい!と、スイスに行ったことなどないのだがおおいにはしゃいだ。ここは標高が1,500メートルはあって夏でもやや肌寒く過ごしやすい。雲が近くて雨が降ったり止んだりしていた。
カルストは何個かの山が連なっていて、尾根に道路が一本通っている。尾根を走るだけでも来た甲斐があったと思った。

目的のキャンプ場は、売店に雑多に置いてある紙に名前を書いて、500円を箱に入れるという自己申告制のキャンプ場だった。テントとタープを設営し、椅子に座って一服すると優雅な牛が草を食べている。脳みそのシワが伸びるわぁ。


この夜、大雨に見舞われ、強風でタープをしまわなければならずびしょびしょになりながら作業したり、大雨が上がったと思ったら、人生の中でダントツ一番の満天の星空にいくつもの流れ星が見れたり、牛の鳴き声で起きたり、パンを作ってみたり、みかんを食べたり、焚き火しながら恋バナをしたり、たっぷり2泊ゆっくりすることができた。

心底満足し、山を越えて高知へ向かった。
その道で、とんでもなく大きなオブジェがあって通り過ぎた後にわざわざ戻るほどインパクトのあるものだった。

謎すぎる。ひとしきり写真やら動画をとって楽しんだ。後から知ったことだがこの与作狸の脇道をいくと綺麗な池があったらしい。行けばよかった。
最後にもう一度香川でうどんを堪能したかったので高知は仁淀川を見たり、かわうその里に行ったり、かつおの藁焼きを食べたり、ポイントを押さえて通過した。この時どうしても欲しいとねだられた、ご当地ゆるキャラしんじょうくんの抱き枕は、なぜか私が今も使っている。

四国にはそれぞれの県をつなぐ高速道路があるのだが、なんだかどこも景色が一緒だった。小さい山が重なって奥行きのある景色。青々とした緑。のどかで、豊かで、走っているだけで時間を忘れるような景色。

最後に香川でうどんを堪能して1週間の旅を終えた。
思い返してみるとフェリー乗り場が徳島にあるということだけで徳島を遊び忘れていたが、本当に楽しい旅だった。
私はこの行き当たりばったりの、急がない気ままな旅が好きだ。天気や気分で決まる旅先の物事を、一緒に面白がってくれる娘と行けて最高に楽しかった。帰ってからしばらく娘は、田舎に移住するなら松山がいい、と言っていた。楽しんでくれているようでよかった。
こんなマイペースな、ちょうどいい歩調で、もっといろんなところへ行ってみたい。
