馬の背に乗った人類史④ 揃うということ
個の技術は、そのままでは広がらない。
揃った瞬間、それは別の力になる。
文・垣内吾郎
一人で乗れるようになっても、
それだけでは変わらない。
馬の上で体を保つ。
揺れに遅れない。
落ちない。
それは個人の技術だ。
その技術を持った人間が、
複数集まる。
同じ場所にいる。
同じ方向を見る。
同じタイミングで動く。
そこで、別の問題が生まれる。
揃うかどうか。
一人で動くとき、
他の人間の動きは関係ない。
自分の体だけを見ればいい。
集団になると、それができない。
隣に人がいる。
前に人がいる。
後ろにもいる。
それぞれが、別の揺れを受けている。
同じ馬でも、揺れは同じではない。
地面が違う。
歩幅が違う。
一歩ごとの高さが違う。
その中で、動きを揃える。
一人が速ければ、前に出る。
一人が遅れれば、後ろに下がる。
ばらける。
ばらければ、間ができる。
間ができれば、そこに入られる。
入られれば、止まる。
止まれば、次の動きができない。
動きが止まった瞬間、
個人の技術は意味を失う。
だから、揃える。
自分の体を合わせるのではない。
全体に合わせる。
全体がどこに向かっているか、
それを見る。
見る前に、動く。
周囲の動きに遅れない。
遅れないためには、
自分の動きを少しだけ捨てる。
完全に合わせることはできない。
だが、ずらさないようにする。
そのために、同じ動きを繰り返す。
同じ場所で止まる。
同じ場所で曲がる。
同じタイミングで速度を変える。
繰り返す。
何度も繰り返す。
そのうち、揃う。
なぜ揃うかは、分からない。
揃うまで繰り返す。
揃った動きは、外から見ると単純に見える。
一つの塊が動いているように見える。
だが内側では、それぞれの体が、
少しずつ違う動きをしている。
違う動きをしながら、
結果だけが揃う。
それが維持される。
維持されたまま、動く。
速くなる。
止まらない。
方向を変える。
ばらけない。
ばらけないまま、
位置を変える。
ここで、別の性質が生まれる。
個人ではなく、
集団としての動き。
一人を止めても、止まらない。
前の一人が落ちても、
後ろが埋める。
穴が開かない。
穴が開かないまま、進む。
進みながら、形を変える。
広がる。
縮む。
回る。
形を変えても、
ばらけない。
ばらけないものは、
扱いが変わる。
一つの単位として扱われる。
一人ではない。
一つの動きになる。
その動きが、
距離を変える。
近づく必要がなくなる。
離れたまま、影響を与える。
動きそのものが、圧になる。
圧は、触れなくても伝わる。
見えるだけで、動きを変える。
相手の位置をずらす。
ずらした位置に、次の動きを入れる。
繰り返す。
その繰り返しが、前提になる。
一人で乗る技術とは、別のものになる。
乗れる人間が集まると、
別のものになる。
それはもう、
人間の集まりではない。
一つの動きだ。
その動きが、
戦場の形を変える。
