感情の衣類


感情の衣類
朝。
日の出の光が、
窓から差し込んでいる。
昨日まで洗濯機の中で回っていた、
感情の衣類が干されている。
怒り。
悲しみ。
寂しさ。
悔しさ。
言えなかった言葉。
誰にも見せなかった感情。
太陽光に照らされて、
風に揺れている。
濡れていた感情が、
少しずつ乾いていく。
私は、 それを眺めている。
無理に乾かそうとはしない。
朝の光に任せる。
時間に任せる。
風に任せる。
やがて乾いた衣類を、
一枚ずつ取り込む。
畳む。
怒りを畳む。
悲しみを畳む。
寂しさを畳む。
きれいに四角くできるわけではない。
皺も残っている。
それでも、 畳んでしまう。
記憶装置という引き出しへ。
忘れるためではない。
いつかまた、 取り出すために。
人は、 過去の感情を着て生きている。
あの日の怒りを、 袖に通す。
あの日の悲しみを、 胸元に重ねる。
あの日の寂しさを、 背中に背負う。
それは、
感情のコントロールの衣類になる。
今日は怒りを着るのか。
悲しみを着るのか。
それとも、 何も着ないでいられるのか。
自分で選ぶ。
けれど、一日を過ごせば、
衣類はまた汚れていく。
汗。
埃。
涙。
人とのすれ違い。
言葉の棘。
小さな嫉妬。
言えなかった悔しさ。
知らないうちに、
また感情の衣類は重くなっている。
だから、 洗濯すればいい。
また洗濯機に入れる。
そして今度は、 感情を選択する。
何に傷ついたのか。
何に怒ったのか。
何を悲しんでいるのか。
何をまだ手放せないのか。
選択する。
そして、 洗濯する。
洗剤を入れる。
言葉という洗剤。
「なぜ?」 と問いながら、
感情を水の中で回す。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
絡まっていた感情が、
少しずつ浮かんでくる。
すすぐ。
そして、 赦しという柔軟剤を入れる。
誰かを赦すためだけではない。
自分の心を、 少し柔らかくするために。
硬くなった感情を、
そのまま着続けないために。
そして、 脱水する。
洗濯機が激しく回る。
余分な水分が、 絞り出されていく。
怒りが全部なくなるわけではない。
悲しみも消えない。
記憶も消えない。
ただ、 少し軽くなる。
また干す。
日の出の朝日が、
新しく洗われた感情の衣類を照らしている。 光の中で、 衣類が揺れている。
昨日と同じ感情なのに、
少し違って見える。
乾いたら、 また畳む。
また記憶装置にしまう。
そしていつか、
必要になったときに取り出す。
袖を通す。
昔の感情を、 今日の自分が着る。
もう一度、 歩いてみる。
汗をかく。
埃がつく。
また汚れる。
それでいい。
人は、 毎日きれいな感情だけを着て生きることなどできない。
汚れたら、 また洗えばいい。
選択して。
洗濯して。
言葉の洗剤を入れて。
赦しの柔軟剤を入れて。
脱水して。
日の出の光に干す。
乾いたら、 畳む。
記憶の引き出しにしまう。
そしてまた、
今日という一日に袖を通す。
感情は、 なくならない。
だからこそ、 洗えばいい。
何度でも。

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