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raizou
「カチンの森」と、あの人との記憶
昔、憧れていた人に誘われて、一緒に映画を観たことがある。
作品は『カチンの森』。
第二次世界大戦中、ソ連軍によって多くのポーランド人将校が虐殺された――そんな重い歴史を描いた作品だった。
デート映画とは程遠い。
笑いもなければ、ハッピーエンドもない。
けれど、その暗い映画館の中で、私は静かにドキドキしていた。
隣にいるその人の存在が、ただそこにあるだけで、胸が高鳴っていた。
目をそらせない映像と、心に沈むセリフ。
でも、本当の意味で記憶に残っているのは、映画そのものじゃない。
あの空間の空気。
何も話さなくても通じ合っていたような錯覚。
そして、映画が終わって明るくなったときの、
あのちょっと気まずいような、名残惜しいような静けさ。
今思い出すと、胸が締め付けられるような切なさがある。
もう戻れない時間。
あの人とはもう、別々の道を歩いている。
でも、あの夜の記憶だけは、私の中に静かに残っている。
『カチンの森』は今でも観るのが少し怖い。
あの時の気持ちが、一気に押し寄せてきそうだから。
でも同時に、これは私の宝物でもある。
切なさと、温かさと、過去の私が持っていた大切な感情が、全部詰まっているから。
人生の中には、そういう記憶がいくつかある。
特別な中の、ひとつ。
忘れたくない、忘れられない、心の奥の小さな灯り。
