日々俳句鑑賞391 「絶えず人いこふ夏野の石一つ」 正岡子規
「夏野」は夏の季語。草いきれの立つ広々とした夏の野。その道端に、大人が腰を下ろしてしばし脚を休めるのにちょうどよい石が一つある。
この句の魅力は、「人いこふ」の一語にある。「座る」でも「休む」でもない。「憩ふ」である。その言葉からは、人々の話し声や笑い声、炎天下を歩き続けた者たちの安堵まで聞こえてくるようだ。
しかし、子規が最後に据えたのは「石一つ」である。
「絶えず」という無数の人々の営みに対して、「一つ」の石。その対比が鮮やかである。人は入れ替わり、世代が変わり、時代が流れても、石だけは変わることなくそこにあり続ける。何世代にもわたる「多」に対して、時代を超えて存在する「一」。その静かな対照が、この句に深い時間の奥行きを与えている。
子規は石を描いただけである。しかし、その一つの石の背後には、数え切れない人々の往来と、悠久の時間が映し出されているのである。
季語解説参照・例句引用:『角川俳句歳時記 第五版』
