日々俳句鑑賞381 「梳る人もありけり門すずみ」 白雄
くしけづる ひともありけり かどすずみ
「門すずみ」は夏の季語。暑さの残る夕暮れ、涼を求めて人々が家の門先や軒下へ出て過ごす風景である。
夜の闇に包まれるには、まだ少し間がある。門先には、それぞれに夕涼みを楽しむ人の姿がある。その中に、髪に櫛を入れ梳いている人もいる。
この句の味わいは、「も」の一字にある。
「梳る人ありけり」であれば、ひとりの女性の姿が強く浮かび、静かな孤影のようにも読める。しかし白雄は「も」と置いた。そこには、門涼みをするさまざまな人々の気配が広がっている。その中の一人として、髪を梳る姿を見つけたのである。
風呂上がりの浴衣姿で、涼風を受けながらゆっくりと櫛を通す。その何気ない仕草が、江戸の庶民の夏の暮らしを鮮やかに蘇らせる。
特別な出来事を描いているわけではない。しかし、門先に人が集い、夕暮れの時間を共有する。その生活の一瞬が、まるで浮世絵の一場面のように立ち上がってくる。
「も」の一字が寂しさを消し、江戸の夏の温かな人の営みを句の中へ招き入れている。
これぞ俳句というべき、日常の中に美を見出した一句である。
季語季語解説参照・例句引用:『角川俳句歳時記 第五版』
