【偉人に学ぶ】70年前に出されたAI思考の基礎 ノーベル経済学者サイモン 「General Problem Solver」人間の知性設計図とは・・・・
AIの話をするなら、本当は、いまどきのGeminiやらChatGPTやらから始めてはいけない。
いま私たちは、
「AIは人間を超えるのか」
「AIは考えているのか」
という問いを、あらためて突きつけられています。
けれど実は、この問いそのものは、最近生まれたものではありません。
1950年代、すでにAI研究者たちが、
“人間の思考はプログラム化できるのではないか”
と考えていました。
その代表が、
1957年にアレン・ニューウェルとハーバート・A・サイモンらが開発した
General Problem Solver(GPS)です。
こここにはAIの原点があります。(*位置情報のGPSではないよ^^)
https://www.bizsci.net/seminar/simoncomparison.pdf
この中心人物であるサイモンは、後にノーベル経済学賞も受賞しています。
サイモンは、
「人間はどう考え、どう判断し、なぜ最適に動けないのか」
認知科学・経済学・組織論にまたがって学際的に解き明かした人物でした。
いま、私たちがAIと、その先にある役割、人と機械の共生の未来をを考えるうえで、サイモンは、あらためていま、私たちが学びなおすべき、もっともホットな研究者のひとりと言えます。
ということで、今回は、このGPS周りを見ていきましょう!
General Problem Solverとは何だったのか
General Problem Solver、略してGPSは、1957年に開発された初期AIプログラムです。
「個別の問題ごとに専用の解法を作るのではなく、問題解決そのものの一般的な仕組みを作れないか」
つまり彼らが目指していたのは、
単なる“計算機”としての機械の仕組みづくりではなく、
人間のように問題を解く知性としての機械づくり でした。
数学の定理証明、論理問題、パズル。
そうした比較的構造化された問題を対象に、
GPSは「現在の状態」と「目標の状態」の差を見つけ、その差を埋める手続きを探索していきました。
ここで使われた中心的な考え方が、
Means–Ends Analysis(手段目的分析)
です。
たとえば、
現在:目的地に着いていない
目標:目的地に到着する
差:移動が必要
手段:電車に乗る、タクシーを使う、歩く
というように、
人間は「いまとゴールの差」を見ながら、その差を一段ずつ縮めていく。
この発想をコンピュータ上で再現しようとしたのがGPSでした。
ここには、AI史のかなり本質的な問いがあります。
知性とは、正解を知っていることではなく、
差分(目的に対するギャップ)を見つけて埋めていく能力なのではないか。
この問いは、2026年のいま読んでも、少しも古びておらず、むしろ、問題解決、仮説思考、イシューに基づく課題解決、ファクト思考といった言葉で今も学ばれている考えの原点といえます。
なぜこの研究はそんなに重要だったのか
GPSが歴史的に重要なのは、
「初期のAIの礎になったから」だけではありません。
もっと大事なのは、
この研究が
“人間の思考はどのような構造を持つのか”
という認知科学の核心に踏み込んでいたことです。
サイモンとニューウェルは、
人間の知性を、曖昧な“ひらめき”ではなく、
一定の手続きと表現で記述できるものとして扱おうとしました。
この流れはのちに、
Physical Symbol System Hypothesis(PSSH)(物理記号システム)
──知能とは、記号を操作するシステムである──
という考え方にもつながります。
◎参考:関連論文
https://ai.stanford.edu/~nilsson/OnlinePubs-Nils/PublishedPapers/pssh.pdf
知性の本質は、
記号を表現できること
その関係を操作できること
目標に向かって推論できること
にある、と定義しています。
いまの大規模言語モデルは、当時とは仕組みが違います。
けれど「知性を再現したい」という夢の原型は、すでにここにありました。
言い換えると、
今日のAIブームは、突然空から降ってきたものではなく、
サイモンたちが作った“問いの地層”の上に立っているのです。
でも、General Problem Solverは世界を解けなかった
ここで話は一気に進みます。
GPSの発想は壮大でした。
しかし、現実世界は彼らが思っていた以上に複雑だった。。
情報が増えれば増えるほど、その難易度も上がります。
パズルや定理証明のような、ルールが比較的明確な問題では機能しても、
現実の意思決定はそうではありません。
経営判断。
政策形成。
組織運営。
人間関係。
市場の読み。
不確実性の高い投資。
未来予測。
こうした世界では、そもそも
ゴールが一つではない
情報が足りない
選択肢が多すぎる
途中で環境が変わる
判断する人間自身が迷う
ということが起きます。
ここで出てくるのが、AI研究の有名な壁、
組合せ爆発(combinatorial explosion) です。
可能性を全部探索していたら、計算量が膨大になりすぎて、現実には解けない。
人間の脳みそや、昔のコンピューターの演算能力ではとても追いつかない。
つまり、
“すべての問題を一般的な手続きで解く”という夢は、
現実の複雑さの前で一度つまずいた
のです。
けれど、ここで終わらなかったところがサイモンのすごさです。
彼は「AIが未熟だった」で片づけず、
もっと深い問いに進みました。
そもそも、人間自身が、そんなに合理的に問題を解いていないのではないか?
サイモンが経済学を変えた「限定合理性」
ここから、サイモンはAIの人であると同時に、経済学の革命者になります。
当時の主流派経済学では、
人間は合理的に行動し、利用可能な情報をもとに最適な選択をする、
という前提が強く置かれていました。
しかしサイモンは、現実の人間や組織を見て、そうは思わなかった。
人間には限界があります。
情報を全部は集められない
集めても全部は理解できない
比較検討する時間がない
計算能力も注意力も有限
組織の中では利害や役割も絡む
だから人は、理論上の最適解を選んでいるのではなく、
多くの場合、十分に納得できる解を選んでいる。
これがサイモンのいう
Bounded Rationality(限定合理性)
です。
そして彼は、最適化ではなく、
ある一定の基準を満たした時点で意思決定することを
Satisficing(満足化)
と呼びました。
ここが本当に重要です。
サイモンは、
「人は非合理だからダメだ」と言ったのではありません。
そうではなく、
人間の合理性は、現実の制約の中で働く“有限な合理性”である
と言ったのです。
この視点は、経営にも、政策にも、採用にも、営業にも、人生設計にも、そのまま刺さります。
与えられたノーベル経済学賞
ハーバート・サイモンは1978年、
経済組織における意思決定プロセスの先駆的研究
によってノーベル経済学賞を受賞しました。
ここで評価されたのは、単なる抽象理論ではありません。
彼は、企業や官僚組織の意思決定が、教科書的な「完全合理性」では説明できないことを示し、現実の組織がどう判断し、どう動くのかを、より実態に近い形でモデル化しました。
これは経済学にとってかなり大きな転換でした。
なぜなら、経済学の対象が
「理想化された合理的人間」から、
「制約の中で判断する現実の人間」
へと近づいたからです。
この流れは後に、行動経済学にもつながっていきます。
つまりサイモンは、
AIの源流にいた人であると同時に、
行動経済学以前に“現実の意思決定”を持ち込んだ人
として評価されたのです。
そしてKahnemanへつながる
ここでダニエル・カーネマンが出てきます。
サイモンが明らかにしたのは、
人間が「情報・時間・認知能力の制約」を持つ存在だということでした。
一方でカーネマンは、そこにさらに踏み込みます。
人間は単に制約されているだけではなく、
判断そのものが心理バイアスに歪められる
と示したのです。
損失回避
利用可能性ヒューリスティック
アンカリング
代表性ヒューリスティック
などは、その代表例です。
この流れをざっくり整理すると、
Simon:人間は最適化できない。合理性には限界がある
Kahneman:しかもその判断は、かなり偏る
となります。
この二人を並べると、
現代のAI時代にものすごく重要な問いが見えてきます。
AIは人間より賢いか?
ではなく、
AIは人間の限界をどこまで補えるか?
という問いです。
いま再び、General Problem Solverの考えが議論の真ん中に戻ってきている
私たちはいま、LLMやAIエージェントの時代にいます。
大規模言語モデルは、単なる検索ではなく、
文脈理解
推論補助
要約
計画支援
対話による問題分解
のような働きを始めています。
これはある意味で、
General Problem Solverの夢・その考えの再来
にも見えます。
もちろん、当時と具体的な事象の中身はかなり違います。
1950年代の記号処理型AIと、現在の統計的・深層学習ベースのモデルは、方法論も異なります。
けれど、本質的な問いは驚くほど似ています。
人間の思考を機械は支えられるか。
機械は問題解決の一般的な補助者になれるか。
この点で、いま起きていることは
“新しい”だけでなく、
“古い夢が別の形で戻ってきている”
とも言えます。
いまのAI時代にサイモンを読む意味
サイモンをいま読む意味は、
単なる歴史学習ということではなく、原点に立ち返って、
人間の知性の限界を正しく知ること
につながると考えられます。
人は万能ではありません。
情報を見落とします。
比較を省略します。
面倒になると考えるのをやめます。
時間がないと雑な意思決定をします。
組織の中では、正しさより調整が優先されることもあります。
でもそれは、愚かだからではない。
有限だからです。
この視点に立つと、AIの役割も変わってきます。
AIは「人間を置き換えるもの」というより、
まずは
人間の限定合理性を補助するもの
として見た方が本質に近い。
情報を整理する
選択肢を広げる
論点を構造化する
見落としを減らす
バイアスに気づくきっかけを与える
そう考えると、AIは“超知能”というより、
思考の補助線
なのかもしれません。
そして、その発想のかなり早い段階に、サイモンがいたわけです。
結局、AI(機械)は人間を超えるのか
この問いに対して、サイモンは、
いま流通しているような単純な言い方では答えなかった。
AIが人間を超えるかどうか、というより先に、
人間は何が得意で
どこでつまずき
どういう制約の中で判断し
何を人間の肉体の外に外部化し預けるべきか (つまり機械に・・・)
を見よ、と言う議論を繰り広げてきました。
きっと今もって同じことをおっしゃるでしょう。
そう考えると、AI時代の本当の論点は、
「人間 vs AI(機械)」ではありません。
人間の有限な知性と、機械による思考支援を、どう組み合わせるか。
General Problem Solverの考えを現実に落とし込むに、
1960年代は、早すぎました。
けれどいま、別の形で再起動しています。
そしていま、
サイモンの問いはむしろ、ますます新しく見えてきます。
そしてその答えの道は、私たち一人一人が機械と向き合いながら、自分自身を大切に見つけていくことと思います。
これからも、そんなお話や考えを皆様と、共有していけたらうれしいです。
◎参考
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