記憶の枝葉
かき氷
知り合ったばかりの人と、遊園地に行ったことがある。
真夏で、地獄のように暑かった。
私たちは入園してまずかき氷を食べた。
今どきのフワフワでオシャレなやつじゃない。
白いような青いようなカップに入った、お祭りなどで見かけるようなかき氷だ。
そして、アトラクションをひとつこなしては、またかき氷を食べた。
暑さのせいでそんなに混んでおらず、アトラクションはサクサクと進んだ。
そのぶんかき氷もたくさん食べた。
私はかき氷はいちご派だが、その日だけは全種類のかき氷を食べたかもしれない。
炎天下の遊園地で、ひたすらかき氷を食べた。
そんな変な思い出を共有してしまったせいか、その人とはそれ以上親しくなることもなく縁が切れた。
もう顔も名前も思い出せない。
しかし、夏になると「ああ、遊園地でひたすらかき氷を食べたなぁ」と思い出すのだ。
バオバブの木
星の王子さまを、子どもの頃読んだ。
でも、話のほとんどを覚えていない。
名言も、残っていない。
私の中に残ったのは、「バオバブの木」だ。
バオバブの木は、小さなうちに摘んでしまわないと、大きく育って星を破壊する。
でも小さなうちは、大事なバラと見分けがつきにくい。
そんなエピソードだ。
たしか、バオバブの木のシーンには挿絵もあったと思う。
バオバブの木が育って、根をはって、星を破壊する。
それだけが私の中に残った。
先生も必死
全然勉強をやる気がない子どもたちに、勉強させるのは大変なことなのだろう。
私はそんな先生が苦労の果てに作ったであろう歌を、今でも3つ覚えている。
1つ目は、国語、浦島太郎のメロディで「いろはにほへと」
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
ういのおくやま けふこえて
あさきゆめみし えひもせす
2つ目は、家庭科、桃太郎のメロディで「必須アミノ酸の歌」
イソロイシン ロイシン(さん)
リジンに メチオニン
フェニルアラニン
スレオニン トリプトファン バリン
(ヒスチジン!)
3つめは、歴史の「時代覚え歌」
アルプス一万尺のやつだ。
先土器 縄文 弥生 古墳 飛鳥……というやつだ。
これは有名らしい。
調べたらYouTubeにもある。
私はけっこうなんでも忘れるほうなのだが、歌にしてくれたらずっと忘れない。
記憶の不思議
どうにも、大事なことは覚えてないのに、出来事の些細な枝葉ばかり覚えている気がする。
覚えていたいことと、覚えていることが、別なのだ。
声も忘れてしまった人の、吸っていたたばこの銘柄。
あんなに近かった友達の、お気に入りのハンカチのブランド。
どこかへ出かけた帰り道、長く明るいトンネル。
そんなことばかり、覚えている。
