「冬になったら、お風呂に入れますか?」~ケアマネが看取り支援で、いつも悩むこと~
「冬になったら、お風呂に入れますか?」
その質問に、私は言葉が詰まりました。
ケアマネ10年目。
これまで、ご自宅でがんの看取りを支えるご家族と数え切れないほど関わらせていただきました。
そして今も、担当しているご家族が悩まれています。
「自宅で看取るのか。」
「最後は入院するのか。」
そんな選択に向き合っています。
お父様ご本人には認知症があります。
頭が痛い、体がだるい、苦しい。
そんな体の変化をご自身の言葉で伝えることが難しい状態。
それでも、ご家族は献身的に支え続けています。
少しでも様子がおかしいと思えば、すぐに受診。
「最近、痰が出るので痰切りを処方してもらいました。」
そんなお話を伺ってから約2か月後。
デイサービスの職員さんが首の腫れに気付き、すぐにクリニックを受診。
紹介状を持って大学病院を受診した結果、
「舌がんがリンパに転移しています。」
そう診断されたそうです。
ご家族は、
「本人の目の前で”がん”と告知するんですね…。」
と驚かれていました。
そして、続けて私にこう話してくださいました。
「でも、余命については何も教えてもらえないんです。」
そこから、ご家族の質問は次々と続きました。
・緩和治療って何ですか?
・抗がん剤と放射線治療はどう違うんですか?
・放射線治療が終わったら訪問診療に切り替えた方がいいと言われました。
・父はまだ一人でトイレに行けます。どうなったら家では難しくなりますか?
・今は夏なのでシャワーで済ませていますが、冬になったら湯船に入れますか?
・一度入院しても、また家へ連れて帰ることはできますか?
・ステージ4と言われました。でも、末期って、どのくらいの事なんですか?
私は介護福祉士からケアマネになりました。
もちろん医師ではありません。
余命を判断することも、医学的な説明をする立場でもありません。
それでも、これまで多くの看取りに関わらせていただき、その都度会社の看護師さんや訪問看護師さんからたくさんのことを教えていただきました。
だからこそ、私に分かる範囲で、ご家族が少しでも安心できるようお話をしました。
今、目で見て分かる変化。
首の腫れは大きくなっています。
食事はペースト食になりました。
昼間も横になって過ごす時間が増えました。
声を掛けなければ食事や水分が進まない。
ご本人は「痛くない」と話されます。
でも、認知症があるからこそ、その言葉だけで判断してはいけないこともあります。
横になっている時の酸素飽和度は低下しています。
腫れによって気道が狭くなり、息苦しさを感じている可能性もあります。
苦しくても、それを言葉にできないだけなのかもしれません。
放射線治療の副作用で口内炎もできています。
それでも娘さんは笑顔で、
「リンパの腫れが少しでも引いて、楽になるかもしれないと言われました。食事は食べられているので、放射線治療を受けて良かったです。」
そう話してくださいました。
訪問診療へ切り替われば、訪問看護師さんと連携しながら点滴などの対応ができること。
食事が取れなくなった時の選択肢。
そんなお話もしました。
でも…。
毎回、看取りのケースになると悩むのです。
何を、どこまで、伝えるべきなのか。
これまで多くの看取りに関わってきた経験から、病状が急速に変化する可能性があることは理解しています。
ただ、それがこの方に当てはまるかどうかは誰にも分かりません。
予後を判断したり、余命をお伝えしたりする立場ではありません。
だから私がお伝えできるのは、
「転移したリンパが大きくなると、食道や気道を圧迫することがあります。」
「別の場所へ転移することもあります。」
そんな一般的なお話までです。
一方で、ご家族にとっては初めての経験です。
先が見えないのは当然です。
「トイレへ行けなくなったら。」
「食事が取れなくなったら。」
一つ一つが不安になります。
そして、
「冬になったら、お風呂に入れますか?」
という質問をいただいた時、私は胸が苦しくなりました。
これまでの経験から、病状が大きく変化する可能性が頭をよぎります。
でも、それがこの方に当てはまるとは言えませんし、私からお伝えできることでもありません。
ですが、もし、お父さんとの時間があと少しだと分かっていたら。
もっと仕事を休んで一緒に過ごしたかもしれない。
もっと話をしたかもしれない。
もっと親孝行ができたかもしれない。
そう思うご家族も、きっと少なくありません。
だからこそ、私はいつも考えます。
主治医が余命について詳しく話されないのにも、きっと理由があります。
医学的に予測が難しいこともありますし、ご本人やご家族がどのように受け止められるかを考え、伝える時期や伝え方を慎重に判断されているのだと思います。
訪問看護さんも、ご家族の気持ちに寄り添いながら、少しずつ理解を支えてくださいます。
そして私たちケアマネも、その間に立つ存在です。
私は答えを持っているわけではありません。
余命を伝える立場でもありません。
でも、ご本人とご家族が後悔の少ない時間を過ごせるよう、一緒に考え続けることはできます。
医師、看護師、ケアマネ。
それぞれ役割は違います。
だから、一人では支えられないのだと思います。
それぞれの専門性を尊重しながら、ご本人とご家族にとって最善の時間を一緒につくっていきたい。
私は、そう思っています。
あなたが、ご家族の立場だったら。
主治医に、何を聞きたいですか。
そして、大切な人と、どんな時間を過ごしたいと思いますか。
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