ベートーヴェン《ヴァイオリン協奏曲》ヒラリー・ハーン を振り返って 2025年5月29日@サンフランシスコ
このプログラムは、ベートーヴェンが2曲のペアリング。
この2つは、そんなに頻繁に演奏されないそうですが、両方共大変素晴らしかったです。
ヒラリー・ハーンを生で聴ける贅沢も勿論ですが、交響曲 第4番はあまり頻繁に演奏されないそうなので聴くことができて幸運でした。
2025年5月29、30日、6月1日
会場
デイヴィス・シンフォニー・ホール(サンフランシスコ交響楽団本拠地)
演目
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
出演者
エサ=ペッカ・サロネン: 指揮
ヒラリー・ハーン: ヴァイオリン
サンフランシスコ交響楽団
まず、始めにヒラリー・ハーンの《ヴァイオリン協奏曲》からでした。
ヒラリー・ハーン
今世代のアメリカの人気ヴァイオリニストと言えば、ジョシュア・ベルとヒラリー・ハーンが人気を二分していると言えるかもしれません。
ヒラリー・ハーンは、10歳でカーティス音楽院に入学を許され、
1995年にわずか15歳でロリン・マゼール指揮のバイエルン放送交響楽団と共演し、ベートーヴェン《ヴァイオリン協奏曲》を弾いています。
そして、1998年に19歳で、ベートーヴェンの《ヴァイオリン協奏曲》を含むCDが録音されています。私は、これを予習用に聴いていました。
ベートーヴェン《ヴァイオリン協奏曲》
ベートーヴェンの《ヴァイオリン協奏曲》は、ティンパニーのソロ連打が4つ聞こえて(5つ目は他の楽器も入る)始まります。これが、何とも独創的でCDを初めて聴いた時にすぐ気に入りました。
私はサンフランシスコ交響楽団のティンパニストのファンなので、ティンパニーが活躍できるベートーベンの交響曲はどれでも好きですが、《ヴァイオリン協奏曲》は、曲の最初からティンパニストが大活躍です。
ヴァイオリン・ソロが入るまでに3分ぐらいありますが、オーケストラはとても優美でその間、聴衆が丁度いいムードになったところで前奏が終わり、いよいよソロが登場。
ヒラリー・ハーンが弾きだすと、やはり、もうすぐに引き込まれました。コントロールされた音と動きがテラス席だと良く見えるので、耳だけでなく、目でも音が感じられ、澄んだ音色にうっとりしました。
ベートーベンもこんなに甘美なメロディーを書いたんですね。もう本当に、別世界へと連れて行かれたような感じです。
ベートーベンのヴァイオリン協奏曲はオンリーワンと言うのもわかります。そういえば、ベートーベンは、オペラもオンリーワンです。
地元新聞のレビューでは、「ベートーヴェン《ヴァイオリン協奏曲》は、一見すると簡単そうですが、観客の前で完璧に演奏するのはほぼ不可能に近いのです。」とありました。
「ほぼ不可能に近い」!!
これを15歳で弾いていたヒラリー・ハーンはまさに神童だったんですね。(その時の動画がありました)
私が行ったのは、初日で、木曜日のマチネ2pmからのプログラムでした。
アンコールには、現代音楽を一曲弾いてくれました。知らない曲だったので帰ってから調べたら、スティーヴン・バンクス(演奏家であり作曲家でもあるサクソフォン奏者)が作曲した《Through My Mother’s Eyes》と言う曲だそうです。(動画がありました)
ヒラリー・ハーン《ヴァイオリン協奏曲》、最終日の出来事
私の行った木曜日のあと、金曜日の夜と日曜日の2pmの2公演がありました。
後から、日曜日に行った友達と話していたら、ヒラリー・ハーンがミスしたのが分かったと言っていたので、「私が行ったときは完璧で、ミスなどなかったと思うけど、私にはわからなかっただけかしら?」と思っていました。
しかし、あとで、ファンのレビューを読むと、ヒラリー・ハーンは日曜日の演奏で、ベートーヴェンの第1楽章で大きなミスをし、さらにいくつか細かい指のすべりもあったそうです。そのファンは右側のステージに近い席に座っていたので彼女の表情が見えてしまったそうで、そのミスの瞬間、彼女は指揮のサロネンに何とも言えない表情を投げかけていたそうなのです。
さらに、別のファンのレビューにはもっと詳しく説明がありました。「彼女は第1楽章のほぼ中間、カデンツァの数分前あたりで弾き損ね、パッセージワークの1〜2小節を飛ばしてしまった。まるで左手の指が思うように動かず、本来弾くはずの音を外してしまったように見え、元に戻るまでに1小節ほどかかったようだった。」
日曜日は体調があまり良くなかったのかもしれません。
ところが、日曜日のアンコールでは、ヒラリー・ハーンは、予想外だったバッハの最高傑作の一つシャコンヌを弾き始めたんだそうです。
とても感激したのが伝わってくるので、ファンのレビューを載せますね。
「私は完全に圧倒された。これまでに体験した中で間違いなく最高の生演奏だった。なぜシャコンヌだったのか、あのベートーヴェンでのミスを埋め合わせるための「お詫び」だったのか?
観客に対して、あるいは自分自身や共演していた音楽家たちに対して、自分の力量を示すためだったのか?
それともただ弾きたい気分だったのか?
残念ながら観客の一部は途中で拍手してしまい、ハーンやオーケストラの団員が「まだだよ」というジェスチャーをしていたが、それでもこの体験の価値を損なうことはほとんどなかった。」
私は、この日に起きた出来事を見ていませんが、やはり生のステージ。同じアーチストの同じ曲目でも、まるで全く違う体験が出来るんですね!
熱狂的なヒラリー・ハーンファンの中には、3つの公演にすべて行ったと言う人もいましたが、それがどうしてかが理解できました。
確かに、二つとして同じ演奏は存在しません。生演奏の良さは、二度とないその「瞬間」を体験できる事ですね。
滅多に起こらないけれど、世界レベルのアーチストも、人間です。ミスももちろんある。
プロの舞台上での失敗と言えば、つい最近、ベルリン国立バレエ団のプリンシパルダンサー、イアナ・サレンコが、自分が舞台で滑って転んだ時の動画を、自身のインスタグラムでシェアしましたが、他のプロダンサー達は、生の舞台の現実と演者の人間らしさを伝えることはとても重要なことだと大絶賛でした。
ライブ・コンサートでは、アーチストの感情の動きや観客との一体感が生み出されます。そして、その場にいる人達だけが見て感じるエネルギーがアーチストにそのまま帰って来る。
その場でしか生まれない感動や体験を得られることが、どれだけ貴重かわかります。
本当に、ヒラリー・ハーンを聴きに行って良かったと思いました。
ヒラリー・ハーンの《ヴァイオリン協奏曲》があまりにも素晴らしかったので、エサ=ペッカ・サロネン指揮のベートーヴェン《交響曲 第4番》が少し霞んでしまったかもしれませんが、そのレビューは次回に。
最後に、おまけ。ヒラリー・ハーンのシャコンヌ(自宅で練習)の動画です。
