HPVワクチン薬害訴訟 厚労省の資料が明かす被告側主張の「無理やり感」
HPVワクチン薬害訴訟では、被告(国と製薬会社2社)は原告117人の症状はすべてワクチン接種とは関係ない「心因性」だと主張しています。けれども、厚労省の審議会では、原告に起きているような「多様な症状」を「ワクチン接種との因果関係が否定できない」と専門家が評価した症例もありました。なぜ専門家の意見をもとに、類似の症例をもっと詳しく調査・研究しようとしないのでしょうか。11/17に原告本人尋問を傍聴しましたが、被告側は「心因性」にこじつけようと、原告の過去をほじくりかえしているだけのように見えました。
2013年12月25日開催の審議会
今回は「ADEM」(急性散在性脳脊髄炎)に着目して、厚労省が公開している資料を掘り起こしました。
資料2 子宮頸がん予防ワクチン(ガーダシル)の副反応報告状況について 18ページ

字が小さくなってしまったので、必要なところのみ引用します。
(※)は私が書いた補足です。
他院Bで子宮頸がん予防のため、本剤(ロット番号:9QN05R)筋肉内初回接種。
接種73日後、他院Bで子宮頸がん予防のため本剤(ロット番号:9QN06R)を筋肉内接種(2回目)。
接種96日後、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)発現。背部痛、歩行障害出現し、別の病院Cに入院。
(※1回目接種から96日後という意味で、2回目接種からは1ヶ月以内)
接種97日後、四肢の筋力低下、感覚障害あり、報告医師の病院Aに転院。ルンバール、採血は異常なし。呼吸困難はあり。
接種97日後~接種101日後、ギランバレー症候群としてγグロブリン投与し、呼吸困難は改善。筋力低下は改善したものの残存。感覚障害も変わらず。
接種128日後、脊髄MRIでC5-Th12に脱髄所見あり。頸椎のアライメントは保たれており、明らかな椎体、椎間板の異常は指摘できない。
C5およびTh1-2 levelにおいては脊髄前方優位に緩和延長部分が存在する。
接種132日後~接種134日後、急性散在性脳脊髄炎としてステロイドパルス療法を3日間施行。
接種143日後~接種145日後、2クール目のステロイドパルス療法施行。
接種152日後、心窩部以下の感覚障害は残るものの退院。リハビリと外来での治療を継続。
接種198日後、他院Bで子宮頸がん予防のため、本剤(ロット番号:未記載)を筋肉内接種(3回目)。
接種325日後時点で、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)は回復したが後遺症あり。心窩部以下の温痛感覚障害が残存。改善傾向にはある。外来で通院中。
運動障害:あり、両上下肢および体幹の筋力低下と呼吸障害。
感覚異常:あり、横体幹以下の感覚低下、報告時点でも臍以下の感覚障害あり。
深部腱反射の変化:あり、両上下肢の反射減弱。
●専門家の意見
○A委員
ワクチン接種後1月以内の発症で、画像的にもADEMと合致する。臨床症錠も多彩でADEMに相当する。
○B委員
ワクチン接種後のADEMとしてよい。
○C委員
時間的関係から因果関係はあると思われる。ADEM(/GBS)の可能性は高く、因果関係は否定できないと考えられる。しかし、画像所見以外の検査所見が詳しくは提示されておらず、足クローヌスが出ているのに深部腱反射は減弱?との記載等、確認が必要なことはまだあるかもしれない。
●ワクチンと副反応との因果関係
ADEMの可能性は否定できない。
ワクチン接種との因果関係が否定できない。
この患者さんがこの後どうなったのか、下記の資料に書かれていました。
資料2-6 薬機法に基づく製造販売業者からの副反応疑い報告状況について(HPVワクチン・集計対象期間における基礎疾患等及び症例経過)
年齢や症状などから、症例28が同一人物だと思います。上記の資料で最下部が文章の途中になっていますが、それもこの資料で確認できます。ぜひ、上記のリンク先でご確認ください。
2014/10/24 時点で、患者は 1~2 ヶ月で通院中。患者の日常生活には支障なし。全身麻痺、下肢の麻痺などもなし。たまに下肢のしびれみたいなものはあるが、それが ADEM からのものかは不明。ADEM(急性散在性脳脊髄炎)の転帰は回復したが後遺症あり。
2015/01/16、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)、感覚鈍麻は軽快。
(中略)
2016/10/18 報告時点で、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)、感覚鈍麻は軽快、通院必要。
2017/08/04、来院。
2018/01/19 報告時点で、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)は軽快、感覚鈍麻は未回復。小康状態(急性散在性脳脊髄炎の症状はほぼ回復、脳症を疑わせる症状はない。感覚鈍麻は残っている状態)。日常生活には支障無し。通院必要(調査医師からは、治療目的ではなく経過観察のための通院の必要性があるとのこと)。検査:神経電動速度異常なし。感覚鈍麻が残っているとの事で、外傷等に気づかない事がある様子。
2019/09/09 報告時点で、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)の転帰は不明、感覚鈍麻は未回復。該当患者が大学進学のため、診療科を内科へ変更。担当医、その他転帰に関する情報は入手できなかった。
2020/03/16 報告時点で、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)の転帰は不明、感覚鈍麻は未回復。担当医師の変更あり、小児科 A 医師から内科 B 医師へ変更され、それ以外の追加情報は無し。
2021/01/20 報告時点で、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)の転帰は不明、感覚鈍麻は未回復。症状変化なし。今後も要通院である。
一度「回復」となっていたのに、途中で「軽快」、そして最後の記録では「転帰不明」となっています。医師が変わったことなどはわかるのに、なぜ転帰は不明なのでしょうか。このような報告では、症状などに関する「事実」がわかりません。
「軽快」という用語は軽い症状になったというイメージですが、治療行為により改善が見られたけれど、外来などで継続的な治療を必要とする状態です。「日常生活に支障なし」と書かれていますが、「感覚鈍麻が残っているとの事で、外傷等に気づかない事がある様子」とも書かれています。
この症例で注目すべきは、3人の委員が「ワクチン接種後1月以内の発症で、画像的にもADEMと合致する。臨床症錠も多彩でADEMに相当する」(A委員)、「ワクチン接種後のADEMとしてよい」(B委員)、「時間的関係から因果関係はあると思われる。ADEM(/GBS)の可能性は高く、因果関係は否定できないと考えられる」(C委員)と言っている点です。誰も「心因性」とは言っていません。
症状については程度や具体例などが書かれていませんが、原告の方たちと同じような「多様な症状」です(下記参照)。
これは2013年の報告で、HPVワクチン薬害訴訟が始まる前です。63名の被害者が、4地裁(東京・名古屋・大阪・福岡)に一斉提訴したのが2016年。現在、原告は117名に増え、公開法廷はすべて終えて、2027年2月頃に各地裁での結審、4月頃に判決が出される予定です。
早期にADEMとしてステロイドパルス療法を行ったことが、症状の改善につながったのかもしれません。治療方法を確立するためにも、製薬会社はもっとこのような症例について詳しく調査・研究するべきではないのでしょうか。
ADEMについては、添付文書にも書かれています。

2019年4月24日開催の審議会
下記は、「情報不足で評価できない」と書かれていますが注目すべき症例です。
資料9 HPVワクチン(サーバリックス)の副反応疑い報告状況
平成30年9月1日~平成30年12月31日入手分まで


○B委員:いわゆる「HPVワクチン接種後の急性散在性脳脊髄炎」として報告されている症状に一致する。このような症例をADEMと呼ぶべきではないと考える。
(中略)
原因も病態も未知であるが、HPVワクチン接種後におこる慢性再発性の脳神経症候群として扱うべきもので、疾患概念が確立しているADEMとは別の病態であり、ADEMと呼ぶべきではない。
○C委員:ADEMの診断に関しては髄液所見、MRI所見の記載がなく、情
報不足のため、判断することはできない。
尚、このような疾患群が存在することは否定できないが、HPVワクチン
の接種歴がなく、同様の症状を呈する場合があるのかどうか、その発症
率はどの程度であるのか、といった検討も必要と思われる。
B委員は、ADEMとして扱うべきではないが、「HPVワクチン接種後におこる慢性再発性の脳神経症候群として扱うべきものだ」と言っています。
C委員は、「ADEMの診断に関しては髄液所見、MRI所見の記載がなく、情報不足のため、判断することはできない」としています。2013年の審議会でADEMとワクチンの関連が否定できない事例があったのに、そして添付文書にもMRIで診断するようにと書かれているのに、なぜ「情報不足」になってしまったのでしょうか。なぜ「ADEMの可能性があるときは、これらの検査をするように」という周知を徹底していないのでしょうか。
周知を徹底していないのは、自社のワクチンのせいではないという逃げ道を作りたいからのように思えます。
2024年10月25日開催の審議会
積極的勧奨が再開してからも、同様の症状で受診した症例があります。
ワクチン接種後の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)が疑われる症例(症例経過)より


2023/08/28、組換え沈降 9 価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)1 回目接種。
2023/10/21、午前中に組換え沈降 9 価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)2 回目接種。午後から体調が悪くなり寝ていた(「体調が悪くなった」、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の疑いが発現)。
(中略)
2023/10 頃、接種前までは朝自分で起きれていたが、接種後は自分で起きることが出来なくなり親に起こされないと起きれなくなった(「起きられなくなった」が発現)。接種後音に敏感になった(「音に敏感になった」が発現)。音に敏感になったのは頭痛の原因に一つ。歩くときに力が入らなかった(診察時に特に歩行障害は見られず)(「歩くときに力が入らない」が発現)。接種後食欲がなくなった(「食欲がない」が発現)。2 段あった弁当が 1 段しか食べれなくなった。
2023 年(日付不明)、強い頭痛が数週にわたり持続していた。
2023 年(日付不明)、軽快するときもあれば、それほど変化がないこともあった。
(中略)
2023/11/28、磁気共鳴画像診断(MRI)撮像実施したが所見なし。
2023 年(日付不明)、組織病理診断・髄液検査・自己抗体の検査は未実施。鑑別診断として、MRI の所見や、組織病理のデータが ADEM と診断に合致しないとされた。
2023/12/02、産婦人科にて再度診察。
2023/12 頃、歩くときに力が入らない症状は回復(「歩くときに力が入らない」は回復)、食欲も戻ってきていた(「食欲がない」は軽快)。
報告時点で、しばらくは 2 週間に1度程度通院をしてもらい様子を見ていった。「体調が悪くなった」、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の疑い、「起きられなくなった」、フラフラ、「音に敏感になった」の転帰は不
明。
症例1は「鑑別診断として、MRI の所見や、組織病理のデータが ADEM と診断に合致しないとされた」と書かれています。
もう1つの症例です。



2023/06/30、組換え沈降 9 価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)1 回目を接種(前述)。
2023 年 7 月中旬、食思不振、嘔気・嘔吐、倦怠感があった(食思不振(食欲低下、過食)、嘔気・嘔吐が発現)。
2023 年 7 月下旬(夏休みに入った頃)から、家で過ごしていることが多かった。
2023/07/20 頃、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)/抗 MOG 抗体関連疾患、多発性硬化症が発現。
2023/7(日付不明)、患者には急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の臨床症状として、脳症(例:意識レベルの低下または変容、嗜眠、または人格変化が24時間以上続く)、視野の単一または複数の欠損(小児であれば、他覚的な眼科的検査の代用も可能である)、運動麻痺(広汎性または限局性、限局性である場合が多い)、感覚異常(感覚レベルはある場合も、ない場合もある)、深部腱反射の変化(反射減弱または亢進、反射の非対称性)があった。
(中略)
2023/08/31、歩行障害、「手や足に力が入らない(四肢脱力)」が発現。
(中略)
2023/08/31 頃、視野の異常、起立障害が発現。
2023 年(日付不明)、時折嘔気・嘔吐はあるものの少量ずつ経口接種が可能な状態だった。1 学期に部活内でのトラブル(いじめ)あり退部したエピソードもあり、心理的な要因による食思不振が疑われ、精神科転科して経過観察していた。
2023/09/10 頃、感覚鈍麻が発現。
2023/09 中旬、協調運動障害(筋力低下(左下肢もしくは右下肢で部位は一定せず))、右下肢感覚障害(および感覚鈍麻(右足))の訴えがあった(協調運動障害、右下肢感覚障害が発現) 。歩行困難、転倒のエピソードもあったため脳・脊髄 MRI を実施したところ、C2C3 レベル頚髄腹側に T2WI 高信号域を認め、急性散在性脳脊髄炎もしくは多発性硬化症と診断した。「杖や車いすが必要になった」が発現。
(中略)
2023/09/27、ステロイドパルス療法(10/13 まで 3 クール実施)、プレドニゾロン内服(12/17 まで)。
2023/10/27、患者は退院した。
2023 年 10 月、食思不振(食欲低下、過食)、嘔気・嘔吐、右下肢感覚障害は軽快。
2023 年 12 月、食思不振(食欲低下、過食)、嘔気・嘔吐は回復。協調運動障害、多発性硬化症は軽快。
日付不明、感覚鈍麻、視野の異常、歩行障害、「杖や車いすが必要になった」、起立障害、「手や足に力が入らない(四肢脱力)」は回復(持続期間は 30 日を超える、就学・就労状況に影響あり)。
2024/01/30 時点で、後遺症(症状:歩行障害)あり。発症から最終観察までの期間 5 か月。
2024/2(日付不明)、外来通院継続中。
2024/02/16 時点で急性散在性脳脊髄炎(ADEM)/抗 MOG 抗体関連疾患は軽快。
(中略)
2024/07/02 外来受診予定。
症例2は、「1 学期に部活内でのトラブル(いじめ)あり退部したエピソード」もあったけれど、多様な症状に関しては「急性散在性脳脊髄炎もしくは多発性硬化症」と診断されています。食思不振以外は「心因性」とは言われていません。
接種後の症状として、「杖や車いすが必要になった」とも書かれています。推進派の中には「原告は歩けるのに車椅子を使っている」と指摘する人がいますが、上記は医師による報告です。歩行困難や四肢脱力などが発現し、急性散在性脳脊髄炎もしくは多発性硬化症と診断された上で「杖や車いすが必要になった」が発現と書かれています。
2例の症状は似ているように思えますが、一方はADEMと診断され、一方はされていません。検査項目や解釈などの違いはなかったのかなど、違いについてもっと詳細に調べるべきではないのでしょうか。
ブライトン分類レベル
症例2は医師による診断でADEMとされたのに、厚労省の審議会ではどちらもブライトン分類レベル「4」(十分な情報が得られておらず、症例定義に合致すると判断できない)とされています。

ブライトン分類レベルについては、下記がわかりやすくまとめられています。

4は「十分な情報が得られておらず、症例定義に合致すると判断できない」であり、5の「ADEMではない」とは違います。
医師が副反応疑いの報告を提出する際に、ADEMの調査票があります。
急性散在性脳脊髄炎(ADEM)調査票(PDF形式) より


この調査票の記入に漏れなどがあると、レベル4になってしまうこともあるのでしょう。
国や製薬会社が接種後の健康被害について本気でなんとかしたいと思っているなら、ワクチン接種後にADEMの疑いがあった患者に対しては、この調査票に必要な検査をするように周知を徹底し、調査や研究をすると思います。けれども、最近の報告を見てもそうではないようです。
2025年10月24日開催の審議会
「臨床情報がほとんどない」と書かれた症例。


3回目接種後約1週間後に症状が発現し(日付不明)、入院して寝たきりとなり(日付不明)、医師によると状態は重度であった。脳脊髄根末梢神経炎(EMRN)が疑われたが、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の可能性もあった
が、ADEMを診断する証拠がなかったため、EMRNと報告された。報告時点で、これらの事象の転帰は不明であった。
接種後約1週間後に症状が出て、入院して寝たきりとなって医師によると状態は重度であったと書かれているのに、「転帰は不明」。今のところこれが最新の報告なので、このあと続報があるのかもしれませんが、この患者がどうなったのかとても気になります。
ワクチン接種後のADEM
HPVワクチンに限らず、ワクチン接種後のADEMについてはマニュアルも公開されています。
神経・筋骨格系↓
急性散在性脳脊髄炎:全文 (PDF)
患者向け

医療関係者向け


頻度不明であっても、ワクチン接種後にADEMが起きることは添付文書にも書かれています。けれども被告(2社と国)は、ADEMと判別が難しい症例についても詳しく調べようとせずに、そういった症例があることも国民に知らせようとしていません。そして、原告117人の症状すべてを「心因性」だと主張しています。
せっかく出された医師からの報告をもとに深く調べようともせずに、原告の過去をほじくり返して心因性と結び付けようとすることしかしない製薬会社の医薬品を、安心して使うことができるでしょうか。
HPVワクチン接種後の症状は「心因性」だという被告側の主張が広まっているせいもあり、接種後の健康被害で医療機関を受診してもまともに診察してもらえないという声も多数あります。それが症状の改善を妨げている一因でもあると思います。
国が勧めるワクチンを接種した方たちに健康被害が起きているのに、「心因性」だと決めつけてきちんと診察しないのは医師としての責任を果たしているといえるでしょうか。下記のような手引き書も作成されているので、ぜひ参考にしてきちんと診察する医療機関が増えてほしいです。
もしHPVワクチン薬害訴訟で被告が勝ったら、今後ワクチン接種後に健康被害が起きても、「心因性」で片付けられてまともな診察や救済もしてもらえなくなるかもしれません。皆さんは、それでもよいのでしょうか。
そうならないためにも、目立っている多数派の意見を「正しい」と思い込むのではなく、少数派の意見にも耳を傾けて、ご自身で判断していただきたいです。
<関連記事>
HPVワクチン接種後の記憶障害に着目した記事です。
専門家の評価に関する記事です。
ガーダシル、シルガード9の製造販売会社が過去にしてきたことに関する記事。
