孤独の打鐘 第3話 七番倉庫の男
夜の大宮は、昼間とは別の顔を持っている。
競輪場から人が消えると、さっきまで歓声に包まれていた場所が、急に死んだ街みたいになる。
俺は歩きながら、何度も後ろを振り返った。
誰もいない。
それでも、誰かに見られている気がした。
煙草に火をつける。
肺に煙を入れると、少しだけ頭が冷えた。
ミサキ。
黒いワンボックス。
第七倉庫。
そして――
「あなたが探している人がいます」
あの言葉が頭から離れない。
俺が探している人。
そんな人間は、一人しかいない。
だが。
その名前を考えた瞬間、俺は足を止めた。
十年前。
俺が刑事になる前。
そして、俺が人生で一番後悔している事件。
あの事件のあと、俺は一人の人間を探し続けていた。
だが、見つからなかった。
死んだのか。
逃げたのか。
それすら分からない。
俺はその名前を、もう何年も口にしていない。
「……まさかな」
自分に言い聞かせるように呟いた。
偶然だ。
そうに決まっている。
俺はスマートフォンを取り出した。
時刻は午後十一時を回っていた。
上司に連絡する。
一瞬、指が止まった。
第七倉庫。
競輪場の地下。
黒い車。
ミサキ。
本来なら、今すぐ報告すべきだった。
だが――
俺は電話をかけなかった。
警察に話せば、この事件は正式な捜査になる。
そうなれば、相手も動く。
ミサキが殺される可能性だってある。
そして何より。
俺には、嫌な予感があった。
この事件。
警察の中にも、何かを知っている人間がいる。
そうでなければ説明がつかない。
俺が刑事だと、あの男たちは最初から知っていた。
ならば。
誰かが俺の動きを流している。
俺はスマートフォンをポケットにしまった。
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