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徒歩生活者 つぶやき便 10

10「ヒンドゥボイルド・カレー」

 2、3か月に一度、精神科の病院にカウンセリングに行っている。その帰りのお楽しみが、駅ビル内でガチのインド人がやっているカレー屋に行く事だ。

 寂れた駅ビルのテナント街で、これでもかと並んだメニュー写真が、異様な圧を放っている。営業努力をすればするほど、ドン引きされるディスプレイ。うーん、これぞザ・インド式。

 初めて入った時は勇気が要った、いや、正直後悔した。でも今更帰るとか言える雰囲気でもなかった。とりあえず一番奥のテーブル席に座る。窓際には謎の北海道土産、ヒグマの木彫りがずらりと並んでいる。

「いるぁッしゃいまっせえぇい」
インド訛り?なのか?なヒゲのお兄さんが、いつの間にかオーダー票を手に立っていた。
「何しますか」
 表情は微動だにしない。お愛想無し、マニュアルも無し。つべこべ言わない代わりにつべこべも言わせない。私はドギマギしながら、チキンカレーとマンゴーラッシーを頼んだ。
「ライス、ナーン、どっち」
「え、あ、ら、ライスで」
 お兄さんは無言で奥に消えた。

 厨房らしき奥から男くさい声の応酬が聞こえ、続いて何やらパンパン音が聞こえてきた。しばらく経ってお兄さんが運んできたのは、マンゴーラッシーと、どでかいナンが載ったカレーの皿だった。
(ら、ライス、ぅーん…。)
 圧がすごい。俺は務めを果たしたと言わんばかりに、お兄さんは奥に消える。私は仕方なく熱々のナンをちぎってカレーを掬う。
 食べる。
(!…)
 家でオカンが作るバー◯ントカレーとも、結局どれも同じ味のご当地レトルトカレーとも違う。何て言ったらいいんだろう。俺がオレが、なんて一言も言わないのに存在感あるヤツ。人生初のインドカレーはさり気なくハードボイルドだった。

 カレーを平らげ、ラッシーを飲み干す頃には、私はまた来る気満々になっていた。以来、いつ行っても程々にガラ空きで、無愛想で、代わりに気も使わないこの店に立ち寄るのが、病院帰りの恒例になっている。

 ヒンドゥー式ハードボイルド。店の名前は教えたくない。

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