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揺れる

「どこへ行くの?」
バス停でバスを待っていると、少年が話しかけてきた。
大きな紙袋を持っている。

「化石の博物館に行くの。」
「そうなんだ。」

足元を見ると、靴を履いていない。
「どうして裸足なの?」

「僕、昨日までリュウグウノツカイだったんだ。」
私の質問には答えずに、少年が呟いた。


バスが来たので一緒に乗る。
少年は、私の隣に座った。
席は、たくさん空いているのに。

「深海って、怖くないの?」
「うん。」
少年は、窓の外の景色をぼんやりと眺めている。

「その前は、セミだった。」
「セミは、すぐ死んじゃうから可哀想だね。」
少年は、不思議そうに私を見た。

「人間になれて、よかったね。」
「どうして?」

見上げた少年は、答えを待っているけれど、
私は言葉が出てこない。

「あなたは、前は何だったの?」
「ずっと人間だよ。」

「他のものになったこともないのに、
どうして、よかったねって言うの?」

どうしてだろう…。

私の中で、薄い膜のようなものが静かに揺れた。


バスが停まる。

少年が立ち上がり、私に紙袋をくれた。
からっぽの。


「あなたは、何も知らないんだね。」
そう言って裸足のまま、バスを降りる。


小さな足跡を残して。






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