見出し画像

刹那の人。

先週、夫はいつものように
ふらっと旅に出た。



今度は四国らしい。



全国九ブロック。
一ブロックごとに制覇したステッカーが、
車のボディに誇らしげに増えている。


旅は前日の準備から、いそしそ始まり、
荷造グッズも洗練されてきた。



毎回、帰ると早々に
旅アクシデントの報告会がある。


今回は、四日目の明け方に
ひょっこりと帰ってきた。



三好でホテルを探すはずが、
山道を走り続けて松山に出てしまい、


心の根っこが折れたらしい。


宿も見つからず、
そのまま高速で帰ってきたという。


これも、道の駅ハイ?!


無茶な行程には慣れてきたが、
やはり曇った顔は


気になるーー。




夫は月に二度、
悪玉コレステロールを下げる
自己注射をしている。


血液検査では、目を疑う低値。
下げればいいってもの……なのか。


赤み百パーセントの
やせたヒレ肉のような....、


もう、パッサパサ。



このガチガチのコントロールは、
心筋梗塞再発ハイリスク、ということ。




彼の旅の流儀は、
圧縮した充実を求める刹那を感じる。


この死生観は大病したこともあるが、
身内の亡くなった年齢も横たわる。



母は七十歳でクモ膜下出血、
姉は七十三歳で難病で亡くなった。


夫は、現在六十九。




昔、テレビで中井貴一さんは、
お父様の佐田啓二さんが


三十七歳の若さで
亡くなったことから、


自分はその年齢を意識して
仕事に没頭。


四十を迎えた時は、
言葉では表せない感慨があったと話していた。


親の亡くなった年齢は、
その人の人生観のどこかに、


条件として存在しているのだと思う。




夫は、以前にも増して


後ろを振り返ることも
前を見ることもしない。


行きたいところへ行き、
美しいものを見て、撮る。


ただ、それだけーー



私はこれまで、行けないこと
楽しめないことの理由をつけてきた。


過去の記憶を反芻し、
先行きばかりを考え、選択してきた。



病気になった今、私は
彼のことを師匠と呼んでいる。


口にすると調子に乗るので、
心の中だけで呼ぶ。(✿◕‿◕✿)


『師匠。』








いいなと思ったら応援しよう!