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再エネ調達は「証書を買えば終わり」ではなくなる

GHGプロトコル・SBTi・RE100改定時代に企業が見直すべきこと

これまで多くの企業にとって、再生可能エネルギー、いわゆる再エネの調達は、比較的わかりやすい脱炭素施策のひとつでした。
電力会社の再エネメニューを契約する。
非化石証書やグリーン電力証書を購入する。
購入電力に伴うScope 2排出量を下げる。
こうした対応は、企業の脱炭素経営において重要な取り組みです。
しかし今、その前提が大きく変わり始めています。
これから問われるのは、単に「再エネを調達しているか」ではありません。
その再エネは、どこの地域の電源なのか。
いつ発電された環境価値なのか。
新たな再エネ電源の開発に貢献しているのか。
GHG排出量算定やサステナビリティ開示に耐えられる証憑が残っているのか。
つまり、再エネ調達は「購入実績」から「説明責任」へ移行しつつあります。
この変化の背景にあるのが、GHGプロトコル、SBTi、RE100を中心とした国際ルールの見直しです。
企業のサステナビリティ担当者、GX担当者、経営企画部門にとって、再エネ調達はもはや環境部門だけのテーマではありません。今後は、経営戦略、財務、調達、IR、サプライチェーン対応にも直結する重要課題になります。


1. なぜ今、再エネ調達のルールが変わるのか

これまでの再エネ調達では、年間の電力使用量に対して、同量の再エネ証書や非化石証書を購入することで、Scope 2排出量を低く算定する実務が一般的でした。
たとえば、企業が年間100万kWhの電力を使用した場合、その100万kWh分に相当する再エネ証書を調達すれば、帳簿上は再エネを使っていると整理しやすい仕組みです。
しかし、この考え方には限界もあります。
たとえば、昼間に太陽光発電が多く発電された地域の環境価値を購入していても、自社の工場やデータセンターが夜間に化石燃料由来の電力を多く使っている場合、実際の電力需給の脱炭素化にどこまで貢献しているのかは見えにくくなります。
また、すでに存在している再エネ電源の証書を購入するだけでは、社会全体として新しい再エネ電源が増えるとは限りません。
企業の脱炭素投資が、本当に電力システムの変化につながっているのか。
再エネ調達が、単なる数字合わせになっていないか。
その環境価値を、第三者に説明できる状態になっているか。
この点が、今後ますます問われるようになります。
そのため、国際的には再エネ調達の「量」だけでなく、「質」を評価する方向へ進んでいます。
ここで重要になるキーワードが、次の5つです。
・アワリーマッチング
・地域性
・追加性
・証憑管理
・監査耐性
これらは、これからの再エネ調達を考えるうえで避けて通れない視点です。


2. アワリーマッチングとは何か

アワリーマッチングとは、電力の消費と再エネ発電のタイミングを、より細かい時間単位で一致させようとする考え方です。
従来は、年間単位で帳尻を合わせる考え方が中心でした。
年間で100万kWh使った。
年間で100万kWh分の再エネ証書を購入した。
だから再エネ調達として整理する。
このような実務です。
しかし、アワリーマッチングでは「その電力を使った時間帯に、対応する再エネ電力が発電されていたのか」が重視されます。
これは非常に大きな変化です。
なぜなら、再エネには時間的な偏りがあるからです。
太陽光発電は昼間に発電します。
風力発電は風況に左右されます。
一方で、工場、物流施設、データセンター、医療機関、オフィスなど、企業の電力使用パターンは業種や拠点によって異なります。
昼間に発電された再エネ価値を、夜間の電力使用にそのまま当てはめることが、今後どこまで認められるのか。
ここが大きな論点になります。
もちろん、すべての企業がすぐに1時間単位の管理へ移行できるわけではありません。しかし、将来的に再エネ調達の信頼性を説明するうえで、時間単位の整合性は重要なテーマになっていくと考えられます。


3. 追加性とは何か

もう一つの重要キーワードが「追加性」です。
追加性とは、自社の再エネ調達が、新たな再エネ電源の開発や導入を後押ししているかという考え方です。
既存の再エネ電源から証書を購入するだけでは、企業の支出が社会全体の再エネ拡大にどこまで寄与しているのかが見えにくい場合があります。
一方で、コーポレートPPA、オフサイトPPA、バーチャルPPAなどを通じて、新規の太陽光発電所や風力発電所の開発に関与する場合、企業の調達行動が再エネ電源の追加に結びつきやすくなります。
ここで重要なのは、すべての企業がすぐにPPAを導入すべき、という話ではありません。
中小企業や地域事業者、医療機関、介護施設、店舗型ビジネスにとっては、PPAの導入にはハードルがあります。
契約期間が長い。
必要な電力使用量が大きい。
信用力や与信の問題がある。
社内で管理できる人材がいない。
電力契約や会計処理が複雑になる。
こうした現実的な課題があります。
しかし、それでも企業は、自社が調達している再エネや環境価値について、少なくとも次の点を整理しておく必要があります。
どの電源に由来するのか。
どの期間の環境価値なのか。
新規電源の拡大に貢献しているのか。
既存電源由来の場合、その位置づけをどう説明するのか。
契約書や証書は保管されているのか。
今後は「再エネを買いました」だけではなく、「どのような再エネ価値を、どの根拠で調達したのか」を説明できることが重要になります。


4. GHGプロトコル・SBTi・RE100は同じではない

ここで注意しなければならないのは、GHGプロトコル、SBTi、RE100が同じものではないという点です。
それぞれ目的も役割も異なります。
GHGプロトコルは、温室効果ガス排出量を算定・報告するための国際的な基準です。企業がScope 1、Scope 2、Scope 3をどのように算定するかを考える際の重要な土台になります。
SBTiは、企業の温室効果ガス削減目標が、科学的知見と整合しているかを評価・認定する枠組みです。単に排出量を算定するだけでなく、企業の削減目標やネットゼロ戦略が妥当かどうかが問われます。
RE100は、企業が事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際イニシアチブです。企業の再エネ調達に関するコミットメントや報告の枠組みとして位置づけられます。
つまり、ある調達方法がGHGプロトコル上のScope 2算定に使えるからといって、SBTiの目標達成説明やRE100の報告で同じように評価されるとは限りません。
ここに、企業実務上の難しさがあります。
再エネ調達を考える際には、次のように分けて考える必要があります。
GHGプロトコルではどう扱われるのか。
SBTiの目標達成説明と矛盾しないか。
RE100の報告要件に合うのか。
SSBJやISSBの開示で説明できるのか。
取引先からのScope 3調査に対応できるのか。
今後は、再エネ調達、GHG排出量算定、SBT対応、RE100対応、サステナビリティ開示、Scope 3対応を別々に考えるのではなく、一体的な環境価値管理として設計する必要があります。


5. 先行企業は「証書購入」から「電源関与」へ進んでいる

すでに日本企業の中には、再エネ調達を単なる証書購入ではなく、経営戦略として位置づける動きが出ています。
たとえば、大手メーカーでは、海外拠点を含めた再エネ調達を進め、バーチャルPPAなどを活用しながら、事業全体のCO2排出量削減を進める事例があります。
また、鉄道会社などのインフラ企業では、駅や車両運行に必要な電力の一部を再エネ化することで、生活インフラそのものの脱炭素化に取り組む事例も見られます。
こうした事例に共通しているのは、再エネ調達を「環境部門の事務処理」として扱っていないことです。
自社の事業インフラをどう変えるか。
電力調達をどう設計するか。
顧客や地域社会にどう説明するか。
サプライチェーン上の評価をどう高めるか。
このような経営戦略の一部として、再エネ調達を捉えています。
今後の再エネ調達では、このような実体を伴う取り組みが、企業価値、ブランド価値、取引先からの評価に直結していく可能性があります。


6. 日本企業が直面する4つの実務課題

再エネ調達ルールの高度化は、企業にとって多くの実務課題を生みます。

1つ目:電力使用データの粒度

多くの企業では、電力使用量を月次単位で管理しています。
しかし、将来的にアワリーマッチングや時間単位の整合性が重視される場合、月次データだけでは十分な説明が難しくなります。
拠点別、時間帯別、用途別にどこまで電力使用データを取得・保管できるのか。スマートメーターやエネルギーマネジメントシステムの活用も含め、データ管理体制の見直しが必要になります。

2つ目:証憑管理

再エネ調達には、さまざまな証憑が関係します。
非化石証書。
グリーン電力証書。
J-クレジット。
PPA契約書。
電力会社の明細。
排出係数。
対象拠点の一覧。
調達期間。
これらがバラバラに保管されていると、監査や取引先説明、開示対応の際に大きな負担になります。
今後は、環境価値を「買ったかどうか」ではなく、「後から確認できる状態で管理しているか」が重要になります。

3つ目:制度横断の整合性

GHGプロトコル、SBTi、RE100、SSBJ、GX-ETS、Scope 3開示は、それぞれ目的が異なります。
ひとつの数字を作るだけではなく、どの制度に対して、どの根拠で、どのように説明するのかを整理する必要があります。
特に上場企業や大企業と取引のある企業では、今後、取引先からScope 3や再エネ調達に関する詳細な情報提供を求められる可能性があります。

4つ目:調達ポートフォリオの見直し

すべてを一気にPPAへ切り替える必要はありません。
現実的には、既存の電力契約、再エネメニュー、証書購入、オンサイト太陽光、オフサイトPPA、蓄電池、省エネ投資などを組み合わせる必要があります。
重要なのは、自社の事業規模、電力使用量、地域、コスト、開示対応、取引先要請に応じて、段階的に再エネ調達の質を高めることです。


7. これからの再エネ戦略は「安さ」ではなく「説明力」で選ぶ

これまでの再エネ調達では、価格の安さや導入のしやすさが優先されがちでした。
もちろん、コストは重要です。企業経営において、過度なコスト負担は避けなければなりません。
しかし、今後は安さだけで再エネ調達を選ぶことがリスクになる可能性があります。
なぜなら、安く調達できても、後から説明できなければ、開示や取引先対応で使いにくくなる可能性があるからです。
企業が見るべきポイントは、次の5つです。
1つ目は、制度適合性です。
GHGプロトコル、SBTi、RE100、SSBJ開示において、どのように説明できる調達なのか。
2つ目は、時間的整合性です。
将来的なアワリーマッチングへの対応可能性があるのか。
3つ目は、地域的整合性です。
自社の電力使用地域と、再エネ電源の地域がどのように関係しているのか。
4つ目は、追加性です。
新たな再エネ電源の拡大にどの程度貢献しているのか。
5つ目は、証憑管理です。
契約書、証書、電力使用量、排出係数、算定ロジックを後から確認できる状態にしているか。
再エネ調達は、もはや環境部門だけの業務ではありません。経営企画、財務、調達、法務、IR、営業、サステナビリティ部門が連携して進めるべき経営課題です。


8. Nature-based Solutionsが考える、これからの環境価値管理

一般社団法人 Nature-based Solutionsは、企業の脱炭素経営において、単なる再エネ導入やカーボンクレジット購入にとどまらず、環境価値を「説明できる状態」にすることを重視しています。
特に重要なのは、方法論、MRV、証憑管理、環境価値の台帳化です。
MRVとは、Measurement、Reporting、Verificationの略で、測定・報告・検証を意味します。
脱炭素経営においては、どれだけ削減したか、どのような根拠で算定したか、第三者に説明できる証拠があるかが問われます。
再エネ調達においても同じです。
どの拠点で、どれだけ電力を使用したのか。
どの電源から、どの期間の環境価値を調達したのか。
Scope 2算定ではどの排出係数を使ったのか。
SBTiやRE100の考え方と矛盾しないか。
監査や取引先調査に対して、証憑を提示できるか。
こうした情報を整理しないまま「再エネ100%」や「カーボンニュートラル」を掲げることは、今後大きなリスクになり得ます。
Nature-based Solutionsでは、企業の再エネ調達、CO2削減、CO2吸収、自然資本、地域資源活用に関する取り組みについて、制度対応と実務運用の両面から支援します。
特に、J-クレジット対象外の取り組みや、地域の自然資本を活用した自主的な環境価値創出についても、方法論設計と証憑管理の仕組みづくりが重要です。


まとめ:再エネ調達は、脱炭素経営の“証明力”を問う時代へ

GHGプロトコル、SBTi、RE100の見直しは、企業に対してひとつの明確なメッセージを投げかけています。
それは、「数字だけの脱炭素」から「実体と証憑に基づく脱炭素」への転換です。
今後、企業は再エネ調達について、単に「何kWh分を購入したか」ではなく、「どのような環境価値を、どの根拠で、どの制度に対して説明できるのか」を問われます。
Scope 2排出量算定、SBTi対応、RE100報告、Scope 3対応、SSBJ開示、GX-ETS、取引先からの環境調査。これらは別々の業務に見えて、実際にはすべて「環境価値を説明できるか」という一点でつながっています。
再エネ調達のルールが変わる今こそ、必要なのは「証書を買うこと」ではなく、「説明できる脱炭素戦略」を構築することです。
一般社団法人 Nature-based Solutionsは、企業が脱炭素経営を単なるコストではなく、環境価値・地域価値・事業価値を生み出す仕組みとして設計できるよう支援します。


参考・引用

GHG Protocol
「Scope 2 Guidance update public consultations」
SBTi
「Corporate Net-Zero Standard Version 2.0 Second Consultation Draft」
SBTi
「Draft Corporate Net-Zero Standard V2 Explained」
環境省
「RE100の取組」
富士フイルムホールディングス
「北米全拠点の使用電力をバーチャルPPAで再生可能エネルギー化」
南海電気鉄道
「全105駅と全有料特急を再エネ100%に!」


免責事項

本記事は、公開情報をもとに一般社団法人 Nature-based Solutionsが脱炭素経営、再エネ調達、環境価値管理の観点から整理したものです。
各制度、基準、イニシアチブの内容は今後変更される可能性があります。
実際のGHG排出量算定、SBTi申請、RE100報告、サステナビリティ開示、契約判断、会計・法務判断については、必ず最新の公式資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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