無職になって、本屋で避けるようになった場所
退職してから、
ふと気づいたことがある。
会社員だった頃は本屋に行くと、
自己啓発本のコーナーをよく見ていた。
どんな新刊が出ているのかを確認し、
気になる本があれば買ったり。
図書館で借りて読むこともあった。
「もっと自分を成長させないと」
「今のままではダメ」
会社員として働いていた頃は、
そんな焦りが
いつもどこかにあった気がする。
だから本屋に行くと、
自然と自己啓発本のコーナーに
吸い寄せられていった。
けれど、会社を辞めてからは、
なぜかその場所を避けるようになった。
近くを通っても、以前のように
立ち止まって本を手に取ることがない。
ーー今の自分には、少し重たすぎる。
そんなふうに感じてしまう。
本に書かれている言葉が悪いわけじゃない。
前向きになるための考え方や、
人生をよりよくする方法が
紹介されていたりする。
必要としている人にとっては、
背中を押してくれる大切な言葉なんだと思う。
ただ今の私には、ときどき
「ポジティブの押し売り」のように
見えてしまったりする。
「行動しよう」
「挑戦しよう」
「昨日の自分を超えよう」
以前なら、そうした言葉を読んで
「自分も頑張ろう」と思おうとしていた。
けれど今は、少し疲れてしまう。
まるで、「頑張りが足りない」と
言われているような気がするから。
読んだことで、変われた?
会社員だった頃、自己啓発本を読むときには、
どこかで「読んだ方がいい!」と
自分に言い聞かせていた気がする。
読めば何かが変わるかもしれない。
もっと成長できるかもしれない。
そんな期待を持ってページをめくっていた。
けれど今になって思う。
その本を読んだことで、
本当に自分を改善できたんだろうか。
もちろん、考え方が少し変わったことや、
今でも覚えている言葉はある。
ただ、読み終えた直後だけ前向きになり、
しばらくするとまた元の自分に
戻っていた気もする。
もしかすると私は、
本を読んで成長したかったというより、
「成長しなければならない自分」を
自己啓発本を読むことで
納得させたかっただけなのかもしれない。
働いていた頃は、
会社の目標や周囲からの評価を
すごく気にしていた。
同僚と比べて、自分は遅れていないか。
もっと成果を出さなければ
いけないんじゃないか。
そんな見えない競争に、
知らないうちに参加して、もがいていた。
自己啓発本を読むことも、
その競争から降りないための
行動だったのかもしれない。
楽しむための読書
退職してから、1年以上が経った。
将来への不安がなくなったわけではない。
まだまだ焦りを感じる日もあるし、
周囲と比べてしまうこともある。
それでも、会社員として働いていた頃より、
自分を縛っていたものから
少し離れられた気がする。
他人からの評価を
必死に追いかけなくてもいい。
誰かに認められるために
自分を高め続けなくてもいい。
そう思える時間が、少しずつ増えてきた。
最近は、
エッセイや小説ばかり読んでいる。
役に立つかどうかも、
成長につながるかどうかも考えず、
ただ面白いから読む。
その世界に浸りたいから読む。
以前は「自分を高めるための読書」を
しようとしていた。
今は、「楽しむための読書」が
できるようになった。
これは、何かを諦めたと
いうことではないと思う。
むしろ、ようやく本を読むことそのものを
楽しめるようになったのかもしれない。
成長し続けることだけが、
前に進むことではない。
ときには競争から離れて、立ち止まる。
そして、ただシンプルに楽しむ。
それもまた、自分の人生を
自分の手に取り戻すための
大切なプロセスじゃないかと思う。
