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kenkou1973
村上春樹が夜食を食べるかなんか知らない
前のマスターは少し笑った。
「その言い方、なんとなく雰囲気はあるね」
グラスを磨きながら続ける。
「でも、そこは気をつけよう」
みんなが顔を上げる。
「私たちは本人じゃない」
「だから、『村上春樹さんは夜食を食べない』『お酒だけだ』とは言えない」
調香師が頷く。
「その人の生活を、作品だけで決めつけることはできませんから」
⸻
構成作家が言う。
「じゃあ、『村上春樹の小説に出てきそうな夜食』なら?」
前のマスターは笑う。
「それなら想像できる」
和食の主人が静かに並べる。
* ハムとチーズのサンドイッチ。
* シンプルなオムレツ。
* トマトを切ってオリーブオイルを少しかけたもの。
* クラッカーとチーズ。
* ゆで卵。
焼き鳥職人が笑う。
「どれも静かですね」
「そう」
前のマスターは頷く。
「夜食は、お腹を満たすだけじゃなくて、夜を壊さないことも大事だから」
⸻
「お酒は?」
と夜景研究家が尋ねる。
前のマスターは少し考える。
「ビールでも、ウイスキーでも、ワインでも、日本酒でも」
肩をすくめる。
「何を選ぶかは、その夜の気分と本人にしか分からない」
調香師がグラスを持ち上げる。
「だから、お酒そのものより」
少し微笑む。
「静かに飲める時間のほうが、その人らしいのかもしれませんね」
店は静かになる。
外では東京の夜が更けていく。
その夜も、この店では結論は出なかった。
でも、誰かを決めつけず、その人のために少し余白を残しておく。
そんな飲み方が、このバーにはよく似合っていた。
