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村上春樹が夜食を食べるかなんか知らない

前のマスターは少し笑った。

「その言い方、なんとなく雰囲気はあるね」

グラスを磨きながら続ける。

「でも、そこは気をつけよう」

みんなが顔を上げる。

「私たちは本人じゃない」

「だから、『村上春樹さんは夜食を食べない』『お酒だけだ』とは言えない」

調香師が頷く。

「その人の生活を、作品だけで決めつけることはできませんから」



構成作家が言う。

「じゃあ、『村上春樹の小説に出てきそうな夜食』なら?」

前のマスターは笑う。

「それなら想像できる」

和食の主人が静かに並べる。

* ハムとチーズのサンドイッチ。
* シンプルなオムレツ。
* トマトを切ってオリーブオイルを少しかけたもの。
* クラッカーとチーズ。
* ゆで卵。

焼き鳥職人が笑う。

「どれも静かですね」

「そう」

前のマスターは頷く。

「夜食は、お腹を満たすだけじゃなくて、夜を壊さないことも大事だから」



「お酒は?」

と夜景研究家が尋ねる。

前のマスターは少し考える。

「ビールでも、ウイスキーでも、ワインでも、日本酒でも」

肩をすくめる。

「何を選ぶかは、その夜の気分と本人にしか分からない」

調香師がグラスを持ち上げる。

「だから、お酒そのものより」

少し微笑む。

「静かに飲める時間のほうが、その人らしいのかもしれませんね」

店は静かになる。

外では東京の夜が更けていく。

その夜も、この店では結論は出なかった。

でも、誰かを決めつけず、その人のために少し余白を残しておく。

そんな飲み方が、このバーにはよく似合っていた。

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