見出し画像

心不全治療は今、大きな転換点にある——2025年改訂ガイドラインが変えたこと


循環器領域において、心不全はもっとも患者数が多く、かつ予後の重い疾患のひとつだ。2030年には国内患者数が130万人を超えるとも推計されており、「心不全パンデミック」という言葉も医療者の間で定着しつつある。
そのような状況を背景に、日本循環器学会と日本心不全学会は2025年3月、7年ぶりとなる心不全診療ガイドラインの全面改訂を行った。今回はその要点と、臨床現場への影響を整理したい。

「急性」「慢性」の区別が消えた意味
今回の改訂でまず目を引くのは、ガイドライン名から「急性・慢性」という言葉が削除されたことだ。
これは単なる名称変更ではない。心不全の病態は入院中も退院後も連続しており、「急性期が終わったから一段落」という感覚が、再入院リスクを高めてきた側面がある。今回の改訂は、発症前から終末期まで一貫したマネジメントを重視するという姿勢の表明だ。

SGLT2阻害薬の適応がHFpEFにも拡大
薬物療法の面でもっとも注目すべきは、SGLT2阻害薬の位置づけの変化だ。
もともと糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬は、HFrEF(駆出率の低下した心不全)への有効性が証明され、すでに標準治療の一角を担っていた。今回の改訂では、**HFpEF(駆出率の保たれた心不全)**に対しても入院リスク低減の効果が認められ、推奨に組み込まれた。
HFpEFはこれまで「有効な治療が限られる領域」とされてきただけに、この変化は臨床的に大きな意味を持つ。糖尿病の有無にかかわらず使用できる点も、処方の裾野を広げる。


予防と早期介入の重要性
もうひとつの改訂の柱は、症状が出る前段階(ステージAおよびB)への介入の強調だ。
心不全は一度発症すると進行を抑えるのが難しく、再入院を繰り返しながら悪化していく。だからこそ、高血圧・糖尿病・肥満などのリスク因子を持つ段階から積極的に介入することが、長期予後の改善につながる。ガイドラインはそのロジックをより明確に打ち出している。


新薬も登場——肥大型心筋症・心アミロイドーシスへの対応
特定疾患への対応も更新された。
閉塞性肥大型心筋症に対しては、圧較差軽減薬マバカムテンが推奨クラスIとして記載された。また、ATTR(トランスサイレチン)心アミロイドーシスに対しては、TTR四量体安定化薬のアコラミジスが新たに承認・追記されており、低分子干渉RNA製剤ブトリシランも推奨クラスIIaとして登場している。
これらの疾患はかつて「治療が難しい」とされていたが、選択肢は着実に広がっている。

まとめ
今回の改訂が示すのは、心不全診療の重心が「治す」から「防ぐ・続ける」へとシフトしているということだ。
∙ 急性・慢性の区別を超えた一貫管理
∙ SGLT2阻害薬のHFpEFへの適応拡大
∙ 発症前段階からの早期介入
∙ 新規薬剤による治療選択肢の拡大
#JCS2026 での議論も、こうした流れを改めて確認させてくれるものだった。心不全医療はまだ進化の途上にある。

いいなと思ったら応援しよう!