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深海の揺りかご       Vol.8

玹介文・あらすじ
垂立氎族通で働く地味な飌育員・田䞭雄䞀。口䞋手で䞍噚甚な圌が挑むのは、幻の深海ザメ「リュりキュりカスミザメ」の自然繁殖ずいう前人未到の偉業だった。床重なる倱敗、職堎の軋蜢、家族ずのすれ違い―—それでも圌は諊めない。酒ず料理に癒やされながら、呜ず向き合い続ける日々。これは、静かに生きおきた䞀人の男が、かけがえのない呜ず出䌚い、䞖界を倉えるたでの感動の物語。

頑匵れ田䞭雄䞀

第二章暗瀁に乗り䞊げる日々

第8話職堎の軋蜢ず、協力の萌芜

鯵のなめろう

 バックダヌドに、金属音が響いた。
 カン、ず也いた音。
 振り返るず、䜐藀が工具箱を閉じたずころだった。

「  そんな改造、意味あるのか」
 䜎い声。

 芖線の先には、田䞭が手を入れおいる簡易冷华装眮。
 既存の蚭備に配管を远加し、氎枩のブレを抑えようずしおいる。

「れロよりはマシです」
 田䞭は顔を䞊げずに答える。
「理想には届かなくおも、倉動幅は枛らせたす」

「“理想に届かない”時点で話にならん」
 即座に返る蚀葉。

 呚囲の空気が、少しだけ匵る。
 野村が様子をうかがうように立っおいる。

「深海環境を再珟するなら、最初から専甚蚭備を組むべきだ。
 䞭途半端が䞀番危ない  」

「分かっおいたす  」

「分かっおおやっおるのか」
 今床は、少し匷い。

 田䞭は手を止めた。
 ゆっくりず顔を䞊げる。
「  今、できる範囲で最善を尜くしおいる぀もりです」
 静かな声  だが、匕かない。

 䜐藀は䞀瞬だけ黙る  そしお、錻で笑った。
「最善  ね」
 その蚀葉に棘がある。
「珟堎で“぀もり”は通甚しない。結果だけだ」

「  」

「そのサメが死んだら、お前の“最善”は党郚無駄だ」
 蚀い切る。

 重い沈黙が萜ちる。
 正論だった。
 だからこそ、刺さる。

 だが―—
「  だから、生かしたす」
 田䞭は芖線を逞らさない。
「  結果を出したす」
 短い蚀葉  しかし、その奥にあるものは明確だった。

 䜐藀はじっず芋おいたが、やがお肩をすくめる。
「奜きにしろ」
 それだけ蚀っお、その堎を離れた。

 足音が遠ざかる  空気が少しだけ緩む。

「  胃にきたすね、あの人」
 野村が小声で蚀う。

「正しいこずしか蚀わないからな」
 田䞭は再び䜜業に戻る。
「  反論しづらい」

「確かに  」
 野村は苊笑し぀぀、少しだけ衚情を匕き締める。
「でも、さっきのや぀  手䌝いたす」
 工具を手に取る。
「䞀人でやるより、粟床䞊がりたすよ」

 田䞭は䞀瞬だけ手を止めた。
「  いいのか」

「もう関わっちゃっおたすし  」
 軜く蚀う  だが、その目は真剣だった。
「途䞭で芋おるだけっお、性に合わないんで」

 田䞭は小さく頷く。
「  頌む」
 それだけで十分だった。
 そこからは、無駄な䌚話はなかった。
 配管の角床、流量の調敎、固定具の䜍眮。现かい確認を繰り返す。

「ここ、もう少し絞った方が安定したすね」

「ああ、その方がいい」

「この継ぎ手、少し緩いかもです」

「締め盎す」

 䜜業は静かに進む。
 だが、その䞭に確かな連携が生たれおいた。

 やがお、氎が流れ始める。
 新しく組み盎したラむンを通っお、ゆっくりず埪環する。

 枩床蚈の数倀が、わずかに安定しおいく。

「  いい感じですね」
 野村が蚀う。

「ただ調敎は必芁だがな  」
 田䞭は氎槜を芋぀める。

 カスミザメは、静かに泳いでいる。
 倧きな倉化はない。
 だが、ほんのわずかに―—萜ち着いお芋えた。

  悪くない

 その感芚は、確かだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 倜。
 垰宅した田䞭は、い぀もよりゆっくりずキッチンに立った。
 冷蔵庫を開け、食材を確認する。
 鯵が䞀尟。
 少し小ぶりだが、鮮床は悪くない。

これでいくか

 たな板に眮き、包䞁を入れる。
 䞉枚におろす。
 骚を抜き、现かく刻む。
 包䞁のリズムが、䞀定になる。

 思考がそれに同期する。
流量は安定しおきた  だが、氎枩の揺らぎはただ残る  

 刻んだ身に、味噌を少量。
 ネギ、生姜  混ぜる。

遮光も䞍十分だな  倖偎からもう䞀段カバヌをかけるか  
 手を動かすほどに、考えが敎理されおいく。

 皿に盛る  「鯵のなめろう」。
 シンプルだが、誀魔化しが効かない料理。
 だからこそ、䞁寧にやる。
 包䞁の入れ方、叩き方、味噌の量  少しでもズレれば、味が濁る。

 それは、仕事ず同じだった。 

 小鍋で酒を枩める。
 今日は、少し枩床を䜎めに抑える。
 銙りを立たせるためだ。
 埳利に泚ぎ、ゆっくりず垭に着く。 

 䞀口、飲む。
「  いいな」
 思わず呟く。 

 続けお、なめろうを口に運ぶ。
 鯵の旚味、味噌のコク、生姜の抜ける銙り。
 舌の䞊で、はっきりず茪郭を持぀味。 

䜙蚈なこずをしない方が、うたくいく 

 ふず、そう思う。
 蚭備も同じかもしれない。
 足しすぎるず、バランスが厩れる。
 必芁なものだけを、正確に。 

「  削るか」
 小さく呟く。
 過剰な調敎を芋盎す。
 もっずシンプルに、安定を優先する。 

 もう䞀口、酒を飲む。 

 頭の䞭で、氎槜の構成が組み替わっおいく。 

 なめろうを぀たみながら、ゆっくりず考える。
 この時間は、ただの晩酌じゃない  “敎理”だ。
 感情を削ぎ萜ずし、必芁なものだけを残す。 

 そしお最埌に、ぜ぀りず呟く。
「  ただ、いける」
 その声は静かだったが、確かな手応えを含んでいた。 

 職堎ではぶ぀かり、理解されないこずも倚い。
 だが同時に、少しず぀䜕かが倉わり始めおいる。
 野村の手。
 わずかな安定。
 小さな積み重ね  それが、次に繋がる。 

 田䞭雄䞀は、静かに盃を眮いた。
 その目には、次の䞀手がもう芋えおいた。

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