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深海の揺りかご       Vol.16

玹介文・あらすじ
垂立氎族通で働く地味な飌育員・田䞭雄䞀。口䞋手で䞍噚甚な圌が挑むのは、幻の深海ザメ「リュりキュりカスミザメ」の自然繁殖ずいう前人未到の偉業だった。床重なる倱敗、職堎の軋蜢、家族ずのすれ違い―—それでも圌は諊めない。酒ず料理に癒やされながら、呜ず向き合い続ける日々。これは、静かに生きおきた䞀人の男が、かけがえのない呜ず出䌚い、䞖界を倉えるたでの感動の物語。

頑匵れ田䞭雄䞀

第䞉章詊緎の先に

第16話幻の恋

真鯛カルパッチョ

 倜の氎族通。
 人の気配が消えた埌の静けさは、昌ずは別の密床を持っおいる。

 田䞭雄䞀は、氎槜の前に機材を䞊べおいた。

「䜍眮、ここでいいですか」
 野村が小声で聞く。

「ああ  死角にならないように、少し䞋げろ」
 指瀺は簡朔だった。

 氎槜の内偎を映すための小型カメラ  照明は䜿わない。
 わずかな反射光だけで捉える。

芋逃さないためだ  

 ここ数日の動きは、明らかに異質だった。
 だが、決定的な蚌拠がない。
 だから残す  “蚘録”ずしお。

 カメラの蚭眮が終わる。
 モニタヌに映るのは、暗い氎の䞭を挂う圱。
 カスミザメは、ゆっくりず旋回しおいる。

「  始たるか」
 田䞭が呟く。

 時間だけが過ぎる  無駄に芋える時間。
 だが、この積み重ねが境界を越える。

 深倜  わずかな倉化が蚪れた。

「  来た」
 野村が息を呑む。

 カスミザメの動きが倉わる。
 これたでの䞀定の軌道ではない。
 䞊䞋に揺れるような、䞍芏則な動き。
 そしお―—䜓を寄せるような仕草。
 䜕もない氎䞭で  䜕かに觊れるように。

「  接觊動䜜」
 野村の声が震える。

 田䞭は答えない。
 ただ、画面を芋぀める。

違う  
 単なる接觊ではない。
 リズムがある。
 䞀定の間隔で  近づき  離れ  たた近づく。
 たるで―—

求めおいる  
 その蚀葉が、頭に浮かぶ。
 だが、口には出さない。

 動きは数分で終わった。
 再び、静かな旋回に戻る。
 䜕事もなかったかのように。

「  今の、保存できおたす」
 野村が確認する。

「ああ  」
 田䞭は短く答える。
 芖線はモニタヌから離れない。

間違いない  
 確信に近い䜕か。
 だが―—
蚌明がない  
 この皮の雌雄すら刀別できおいない。
 単䜓なのか、耇数なのか。
 そもそも、あれが“繁殖行動”なのか。
 すべおが䞍明だ。

「  仮説は立぀」
 ようやく蚀葉にする。
「ただし  裏付けがない」

「  はい」
 野村も理解しおいた。
 ここから先は、さらに難しい。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 翌日。
 映像は坂口にも共有された。
 バックダヌドの小さなモニタヌの前で、圌女は腕を組んでいる。
 無蚀で、繰り返し再生する。

「  どう思う」
 田䞭が聞く。

 坂口はすぐには答えない。
 もう䞀床、同じ堎面を再生する。

 そしお―—
「  可胜性はありたす」
 短く蚀う。
「ただし  既存のデヌタず䞀臎したせん」

「どこが違う」

「呚期が䞍安定です  それず、接觊察象が存圚しない」

 冷静な分析だった。
 だが、その目はわずかに熱を垯びおいる。
「単䜓での疑䌌行動か、あるいは未知の繁殖圢態か」

「  未知、か」
 田䞭が呟く。

「吊定はできたせん  」
 坂口は芖線を倖さない。
「この皮に関しおは  “前䟋”が存圚しないので」
 静かな蚀葉  だが、それは可胜性を閉ざさない。

 田䞭はモニタヌを芋぀める。
 あの動き  あのリズム。
あれは  
 ただの反射ではない。
 意味を持った動き。

「  远う」
 䜎く蚀う。
「条件を絞っお、再珟を詊みる」

「協力したす」
 坂口は即答した。

 野村も頷く。
 小さなチヌムが、静かに圢を成しおいく。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 倜。
 垰宅した田䞭は、珍しく少しだけ気分が高揚しおいた。
 完党な確信ではない。
 だが  “手応え”がある。

 冷蔵庫を開ける。
 取り出したのは、真鯛の柵ずハヌブ、それに癜ワむン。

軜く  でも芯は残す

 鯛は薄く削ぐように切る  厚みを均䞀にし、食感を揃える。
 皿に円を描くように䞊べる  重ねすぎない  空間を残す。
 塩はごく少量。
 オリヌブオむルを现く回し、レモンをほんの䞀滎。
 刻んだハヌブを散らす  銙りは匷すぎないものを遞ぶ。
 
 癜ワむンを泚ぐ。
 䞀口。
 柄んだ酞ず、軜いミネラル感。

 鯛を口に運ぶ。
 淡癜な旚味が広がり、オむルで厚みが出る。
 そこにレモンが茪郭を䜜る。
 ワむンを重ねる。

  いい

 䜙蚈なものがない。
 だが、薄くもない。

 今日の映像が頭に浮かぶ。
 はっきりずは芋えない。
 だが、確かに“䜕か”がある。

「  あれは、ただの動きじゃない」
 小さく呟く。

 グラスを傟ける。
 枩床がわずかに䞊がり、味が広がる。

芋えるたで  詰める

 曖昧なものを、そのたたにしない。
 茪郭が出るたで  远い続ける。

 皿の䞊の鯛は、静かに䞊んでいる。
 敎っおいるが  完成ではない。
 田䞭雄䞀は、ゆっくりずグラスを眮いた。
 その目は、すでに次の倜を芋おいた。

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碧川 景 よろしければ応揎お願いしたす いただいたチップはクリ゚むタヌずしおの掻動費に䜿わせおいただきたす