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深海の揺りかご       Vol.20

玹介文・あらすじ
垂立氎族通で働く地味な飌育員・田䞭雄䞀。口䞋手で䞍噚甚な圌が挑むのは、幻の深海ザメ「リュりキュりカスミザメ」の自然繁殖ずいう前人未到の偉業だった。床重なる倱敗、職堎の軋蜢、家族ずのすれ違い―—それでも圌は諊めない。酒ず料理に癒やされながら、呜ず向き合い続ける日々。これは、静かに生きおきた䞀人の男が、かけがえのない呜ず出䌚い、䞖界を倉えるたでの感動の物語。

頑匵れ田䞭雄䞀

第䞉章詊緎の先に

第20話兆候の確信、そしお秘密

トマトずモッツァレラのカプレヌれ

 氎槜の前に立぀時間が、たた長くなった。

 蚘録甚のモニタヌには、倜間映像が流れおいる。
 䜕も起こらない時間が、ほずんどだ。

 だが、問題は  “その䞭にあるわずかな差”だった。

「ここ  」
 野村が画面を止める。

 氎底付近  カスミザメが䞀瞬だけ動きを倉える。
 尟の角床  䜓のひねり。

 ほんの数秒  だが―—

「昚日ず同じだ」
 田䞭が蚀う。

 再生する  別日の同時刻。
 同じような動き。
 完党䞀臎ではない。
 だが  䌌おいる。

「  パタヌン化しおきおる」
 野村の声が少し䜎くなる。

 田䞭は頷く。
「  偶然じゃない」
 その蚀葉には、重さがあった。

 氎流の“揺らぎ”を入れおから、明らかに倉わった。

 無反応ではない。
 かずいっお、確定ずも蚀えない。

 だが―—
近い  
 その感芚だけが、はっきりしおいる。

 坂口が資料をめくる。
「近瞁皮でも、繁殖行動は“繰り返し”から入る傟向がありたす」

「匷床は」

「最初は匱いです。気づかれないくらいに」

「  今ず同じか」
 田䞭は画面を芋぀める。

 カスミザメは、䜕事もなかったように泳いでいる。
 だが、その“䜕事もなさ”が、逆に䞍自然に芋える。

「環境、もう䞀段詰める」
 唐突に蚀う。

「ただやるんですか」
 野村が苊笑する。

「足りおない」
 即答だった。

 氎枩の揺らぎ幅を、わずかに広げる。
 光量の倉化タむミングをずらす。
 ほんの僅か  だが、その“僅か”が分岐になる。

 坂口が顔を䞊げる。
「倖には出さないんですね」

 その䞀蚀で、空気が少し倉わる。

 田䞭は答えない。
 代わりに、モニタヌを止める。
「ただ、蚌拠がない」
 それだけ蚀う。

 野村も頷く。
「出した瞬間、朰されたすね」

 孊䌚  䞊局郚  メディア。
 どこも、“確実な成果”しか求めない。

 この段階では―—
「  守るしかない」
 坂口が小さく蚀う。

 その蚀葉に、田䞭は䞀瞬だけ芖線を向けた。
「蚘録は残す」

「はい」

「だが、倖には出すな」
 短い指瀺。
「この氎槜の䞭だけの話にする」

 それは、研究ではなく“守り”の刀断だった。
 だが―—誰も反察しなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 昌。
 バックダヌドの空気は、どこか匵り詰めおいる。

 普段なら雑談が飛ぶ時間垯。
 だが今日は、劙に静かだ。

 別の氎槜の前で、䜐藀がちらりずこちらを芋る。
「  䜕かやっおるな」
 がそりず呟く。

 聞こえおいるのか、いないのか。
 田䞭は反応しない。
 ただ、氎槜を芋る。

 カスミザメは、い぀も通り泳いでいる。
 だが―—その“い぀も通り”が、もう同じではない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 倕方。
 閉通埌、再びモニタヌの前に集たる。
 無蚀で映像を芋る。
 時間だけが過ぎる。

 そしお―—あの動き。
 今床は、少し長い。

 尟の振りが深くなる。
 䜓が匧を描く。

「  匷くなっおる」
 野村の声が、かすかに震える。

 坂口も画面から目を離さない。

 田䞭は、䜕も蚀わない。
 だが、その手はわずかに握られおいた。
  来おる  
 確信に近い。

 だが―—ただ、蚀えない。

「蚘録」

「はい」
 短い応答。
 それだけで十分だった。
 この小さなチヌムだけが、知っおいる。
 氎槜の䞭で、䜕かが始たっおいるこずを。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 倜。
 垰宅。
 リビングは暗い。
 冷蔵庫を開ける。
 小皿の现巻きは、きれいになくなっおいた。
 ラップだけが残っおいる。
 ほんの䞀瞬、手が止たる。

  党郚か

 それ以䞊は考えない。
 ラップを捚おる。静かに扉を閉める。

 今日は  少し違う。
 ワむンラックから、ロれを取り出す。
 淡い色。匷すぎない銙り。

  こういう日だ  

 トマトずモッツァレラを切る。塩は控えめ。
 オリヌブオむルを现く垂らす。
 最埌に黒胡怒を少し  それだけ。
 皿に䜙癜を残しお盛る。

 グラスにロれを泚ぐ。
 䞀口。
 軜い酞味ず、柔らかな果実味。
 癜でも赀でもない、その䞭間。

  曖昧でいい

 今は、それでいい。

 カプレヌれを口に運ぶ。
 トマトの酞味ずチヌズのコク。

 ワむンず重なる。

  ただ途䞭だ

 確信はある  だが、蚌明はない。
 この状態を、守る。

 もう䞀口、ロれを飲む。

  厩すな

 焊るな  氎槜の䞭の倉化も、家の䞭の倉化も。
 どちらも同じだ  急に圢にはならない。
 だが―—確実に、進んでいる。

 田䞭雄䞀は、静かにグラスを眮いた。
 その倜、圌は誰にも䜕も蚀わなかった。
 だが、胞の奥には、確かな手応えが残っおいた。

いいなず思ったら応揎しよう

碧川 景 よろしければ応揎お願いしたす いただいたチップはクリ゚むタヌずしおの掻動費に䜿わせおいただきたす