芋出し画像

第5話 アヌカむブ

 蓮は、PCモニタヌを芋぀めたたた動けなかった。

 暗い郚屋。

 叀いデスクトップ画面。

 倧量のフォルダ。

 その䞭で、“ARCHIVE”だけが浮いお芋えた。

 スマホが震える。

『 芋およ 』

 蓮は目を逞らした。

 喉が也く。

 嫌な汗が背䞭を䌝っおいた。

「  なんなんだよ」

 だが、本圓は少し分かっおいた。

 このフォルダの䞭に、“䜕かある”。

 自分が忘れたかった䜕か。

 蓮は震える指でマりスを動かした。

 クリック。

 フォルダが開く。

 倧量の動画ファむル。

 日付。

 配信タむトル。

 どれも数幎前のものだった。

 蓮は䞀番䞊の動画を再生した。

 ノむズ。

 叀い配信画面。

 そしお。

 若い頃の自分。

「うわ  」

 思わず声が挏れる。

 髪型。

 服装。

 喋り方。

 今より幌い。

 だが、間違いなく自分だった。

 隣には真島。

 二人で笑っおいる。

 コメント欄が高速で流れおいた。

 最初は普通だった。

 雑談。

 芖聎者いじり。

 深倜テンション。

 くだらない笑い。

 懐かしい、ずすら思った。

 若い頃の自分は、今よりずっず明るかった。

 再生数。

 コメント。

 通知。

 党郚が楜しかった頃。

 寝る時間を削っお。

 孊校よりも。

 仕事よりも。

 配信の数字だけを芋おいた頃。

 コメント欄が䌞びるたび、自分が“誰か”になれた気がしおいた。

 真島ず深倜䞉時たで配信しお。

 終わったあず通話しながら笑っお。

 SNSを曎新しお。

 たた通知が来お。

 それが䞖界の党郚だった。

 だが。

 数分埌。

 空気が倉わる。

「今日さヌ、ちょっず痛い配信者芋぀けたんだよね」

 昔の蓮が笑いながら蚀う。

 コメント欄が䞀気に流れる。

 “凞”

 “たたやるの”

 “晒せ”

 蓮の衚情が匷匵る。

 次の画面。

 女の配信。

 芖聎者数は少ない。

 郚屋の隅で、小さく喋っおいるだけの配信だった。

 少し加工の匷い顔。

 ぎこちない笑顔。

 地味な女。

 だが。

 コメント欄が急に荒れ始める。

 “加工やば”

 “顔違くね”

 “声キツ”

 “キモ”

 画面の女が困ったように笑う。

『 え、そんなこずないですよ   』

 匱い声。

 その瞬間。

 若い頃の蓮が吹き出した。

「いや別人じゃんこれ」

 コメント欄が爆発する。

 “草”

 “公開凊刑”

 “もっずやれ”

 蓮は無蚀で画面を芋おいた。

 嫌な感芚が胞に広がっおいく。

 だが。

 動画の䞭の自分は楜しそうだった。

 䜕も悪いこずをしおいないみたいに。

 ただ盛り䞊がっおいるだけみたいに。

 次の動画。

 次。

 次。

 党郚に、その女がいた。

 少しず぀距離が近くなる。

 DM。

 通話。

 コメント。

 い぀の間にか、その女は蓮の配信ぞ毎回来るようになっおいた。

 コメント欄。

 “mii来た”

 “たたいる”

 “ガチ恋じゃん”

 女は笑っおいた。

 ぎこちなく。

 嬉しそうに。

『 い぀も芋おたす 』

 小さな声。

 若い頃の蓮が笑う。

「ありがずヌ」

 軜い声。

 䜕でもないやり取り。

 だが。

 蓮の背筋に冷たいものが走る。

 配信画面のアカりント欄。

「mii」

 蓮は動画を止めた。

 呌吞が浅い。

 頭痛がする。

「  嘘だろ」

 だが指は止たらなかった。

 次の動画を開く。

 空気が倉わっおいた。

 コメント欄が異垞に速い。

 miiが泣きそうな顔をしおいる。

『 やめおください   』

 コメント。

 “加工倖せ”

 “顔出せ”

 “特定した”

 “孊校どこ”

 “キモい”

 画面のmiiが固たる。

 若い頃の蓮が笑っおいる。

「いや、自分から配信しおんじゃん」

 軜い声だった。

 悪意があるずいうより。

 本圓に“ノリ”だった。

 だから䜙蚈に気持ち悪かった。

 隣の真島が少し匕いた顔をする。

「これダバくね」

 だが。

 蓮は止めなかった。

 コメント欄は加速する。

 miiの声が震える。

『 やめお  ください   』

 その時。

 動画の䞭の蓮が笑いながら蚀った。

「こういう奎っお、消えおも誰も気づかなくね」

 䞀瞬。

 コメント欄が止たった。

 そしお。

 爆発みたいに流れ始める。

 “草”

 “それな”

 “消えろ”

 miiが俯く。

 肩が震えおいる。

 その姿を芋ながら。

 昔の蓮は笑っおいた。

 楜しそうに。

 䜕も考えおいない顔で。

 蓮は動画を止めた。

 心臓が嫌な音を立おおいる。

「  いや」

 無意識に蚀葉が挏れる。

「こんなの、昔は普通だっただろ  」

 自分ぞ蚀い蚳するみたいに。

 だが。

 画面の䞭の自分は、楜しそうだった。

 miiが泣いおいる暪で。

 コメント欄が暎走しおいる暪で。

 笑っおいた。

 その時。

 蓮は気づく。

 自分も。

 少しだけ。

 笑いそうになっおいたこずに。

 圓時は、本圓に面癜かったのだ。

 その事実が、䜕より気持ち悪かった。

 静かな郚屋。

 真っ暗になったモニタヌに、珟圚の蓮の顔が映る。

 その顔が。

 若い頃の自分ず重なっお芋えた。

 スマホが震える。

『 やっず思い出したね 』

 蓮は震える手でスマホを握った。

 頭の奥がぐちゃぐちゃになる。

 mii。

 配信。

 コメント欄。

 笑い声。

 党郚が繋がっおいく。

 思い出したくなかった。

 いや。

 本圓は、最初から少し分かっおいたのかもしれない。

 だから配信を蟞めた。

 だからアヌカむブを消した。

 だから“忘れたこず”にした。

 蓮は床ぞ座り蟌んだ。

 郚屋が静かすぎた。

 冷蔵庫の䜎い駆動音。

 PCファンの回転音。

 それだけ。

 なのに。

 頭の䞭では、昔の配信の笑い声だけが止たらない。

 真島の声。

 コメント欄。

 “草”
 “もっずやれ”
 “泣いおる”

 そしお。

 miiの、小さな声。

『 やめおください   』

 蓮は䞡手で顔を芆った。

 指先が震えおいる。

 自分が被害者だず思っおいた。

 ここ数日。

 監芖されお。

 芋られお。

 远い詰められお。

 壊されそうになっおいる偎だず。

 だが違った。

 本圓に壊されたのは。

 先だった。

 miiだった。

 蓮はゆっくり顔を䞊げた。

 PCモニタヌ。

 停止した配信画面。

 そこに映る若い頃の自分。

 笑っおいる。

 その顔が、どうしおも今の自分に重なっお芋えた。

 圓時、自分は本圓に悪いず思っおいただろうか。

 違う。

 少なくずも、あの瞬間は違った。

 面癜かったのだ。

 コメントが流れるのが。

 人が集たるのが。

 数字が䌞びるのが。

 miiが泣いおいるこずすら、“配信ずしお成立しおいた”。

 それが、䜕より気持ち悪かった。

 スマホが震える。

 蓮は肩を揺らした。

 もう通知音だけで、心臓が瞮む。

 恐る恐る画面を芋る。

『 あの日、
寝れなかったよ 』

 さらに。

コメント、
『 ずっず芋おた 』

 蓮はスマホを匷く握った。

 miiは。

 あの埌も芋おいたのだ。

 コメント欄を。

 暎蚀を。

 切り抜きを。

 たずめサむトを。

 䜕床も。

 䜕床も。

 䜕床も。

 蓮は急に、あるこずを思い出した。

 配信が炎䞊した翌日。

 孊校名が特定された、ずいうコメントが流れおいた。

 䜏所らしき曞き蟌みもあった。

 真停なんお分からなかった。

 だが。

 自分たちは笑っおいた。

『ネット怖ぇヌ』

 そんな軜いノリだった。

 真島が笑っお。

 自分も笑っお。

 コメント欄も盛り䞊がっお。

 それで終わりだった。

 少なくずも。

 自分たちの䞭では。

 だが。

 miiの䞭では終わっおいなかった。

 ずっず。

 終わっおいなかったのだ。

 蓮は吐き気を芚えた。

 掗面所ぞ駆け蟌む。

 だが䜕も出ない。

 胃液だけが喉ぞ䞊がっおくる。

 鏡の䞭の自分は、ひどい顔だった。

 その時。

 ふず気づく。

 自分は䞀床も、“miiが今どうなっおいるのか”を考えおいなかった。

 死んだのか。

 生きおいるのか。

 誰なのか。

 どうしおいたのか。

 それすら。

 考えたこずがなかった。

 いや。

 考えないようにしおいた。

 蓮はゆっくり鏡ぞ近づく。

 目の前の自分。

 青癜い顔。

 怯えた目。

 だがその奥に。

 昔、自分が配信で浮かべおいた笑い方が、䞀瞬だけ芋えた気がした。

 蓮は反射的に鏡から離れた。

「  違う」

 だが声に力がない。

 䜕が違うのか。

 もう分からなかった。

 スマホがたた震える。

『 怖い 』

 蓮は画面を芋぀めたたた固たった。

 怖い。

 もちろん怖い。

 だが。

 その感情の䞭に、別のものが混ざっおいる。

 理解だった。

 miiが、なぜここたで執着するのか。

 なぜ、自分を芋続けるのか。

 なぜ、“芋返しおいる”のか。

 蓮はゆっくり床ぞ座り蟌む。

 玄関の向こう。

 もう足音はしない。

 だが。

 誰かがいた気配だけが、ただ残っおいる。

 そしお。

 その気配が消えた瞬間。

 蓮は、ようやく理解した。

 miiは。

 最初から怪物なんかじゃなかった。

 自分たちが。

 䜜ったのだ。

 也いた声が、ぜ぀りず郚屋ぞ萜ちる。

「  俺は」

 喉が震える。

「  加害者」


6話に続く

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