令和7年度 宮城県ブルーカーボン・シンポジウムを開催しました!
令和7年12月17日、宮城県ブルーカーボン協議会主催の「令和7年度宮城県ブルーカーボン・シンポジウム」が仙台市青葉区で開催されました。当日は、企業のサステナ担当者や自治体関係者など、会場参加とオンラインを合わせて昨年度を上回る160名以上が参加しました。
シンポジウムは基調講演、パネルディスカッション、県内の藻場造成事例紹介、そして参加者同士のネットワーキングなど4つのプログラムで構成されました。

登壇者の方々
・海洋環境専門家の木村尚氏(NPO法人 海辺つくり研究会事務局長)
・日本製鉄株式会社 技術開発本部先端技術研究所 小杉知佳氏
・東京ガス株式会社 サステナビリティ推進部地球環境グループ 八木拓也氏
・松島湾アマモ場再生会議 桑原茂会長(キクニ株式会社代表取締役、塩釜商工会議所名誉会頭)
・宮城県ブルーカーボン協議会 佐藤崇会長(宮城県水産林政部副部長)
基調講演「海辺の再生がひらく、ブルーカーボンの可能性」
最初のプログラムは、木村氏による基調講演です。宮城の海を次世代により良い状態で残すために、脱炭素と生物多様性保全をどう進めるか、特に企業の果たす役割について解説しました。
講演では、海藻や藻場がCO₂を吸収し、炭素を長期間海底に固定する「ブルーカーボン」の仕組みのほか、藻場の再生は、温暖化対策にとどまらず、魚や貝、微生物など多様な生き物が暮らせる環境の回復につながることが説明されました。生物多様性とは、希少種だけでなく、多くの種類の生き物が安定して存在できる環境を維持することを指す言葉で、これは人間の産業や暮らしを支える基盤となることも強調されました。

CO₂の排出を完全にゼロにすることは現実的ではないため、排出削減と同時に吸収・貯留・相殺の仕組みを取り入れることが重要で、ブルーカーボンはその現実的な選択肢の一つとして注目されます。
企業が関わることで、社員や家族の意識が変わり、社会全体の行動変容につながる点も指摘されました。宮城県は藻場造成に適したフィールドがあり、ブルーカーボンは地域経済や産業の持続性にも寄与する取り組みであると訴えました。
パネルディスカッション「藻場再生が生み出す新たな企業価値と地域共創」
続いて行われたのは、パネルディスカッションです。海洋環境保全と藻場再生に取り組む企業・団体の最前線の活動が紹介されました。
登壇者の紹介と各企業・団体の取組内容

日本製鉄の小杉氏は、製鉄副産物「鉄鋼スラグ」を活用した藻場再生技術を紹介。日本製鉄は、宮城県女川町の出島(いずしま)で漁業者と協働して資材を設置し、アカモクやアラメ、ワカメなど多様な海藻の再生に取り組んでいます。藻場再生がCO₂の吸収・固定だけでなく、生物多様性の回復や地域経済の活性化にもつながる複合的な価値を生み出していることなどを報告しました。

東京ガスの八木氏は、環境・地域貢献活動「森里海をつなぐプロジェクト」の一環として藻場再生活動を紹介。このプロジェクトに関連して、地域循環を意識したカーボンクレジットの活用や、都市ガス事業に伴うCO₂排出を相殺するための取り組みについても説明しました。このプロジェクトは、社員とNPOが共同で活動を実施し、お客さまからの寄付も活用することで、環境保全、地域貢献さらには企業価値の向上を目指して継続的に取り組んでいます。

松島湾アマモ場再生会議の桑原氏は、東日本大震災で失われた松島湾のアマモ場を再生する活動を紹介しました。企業や市民、漁業者、行政との協働により、アマモの種採取や定植、教育活動を実施。子どもたちの海への親しみを育む授業や体験イベントも行われ、地域と教育を巻き込んだ持続可能な取り組みとして高く評価されています。

宮城県ブルーカーボン協議会の佐藤会長は、藻場造成やアマモ場再生のモデル地区での実践、技術開発・研究としてJブルークレジットの取得、普及啓発活動の三本柱を紹介しました。地域と協働しながら、持続可能な海洋環境の創出を進めていることが説明されました。
テーマ①「ブルーカーボンや藻場造成に取り組むきっかけと、その活動がどのような好影響につながっているか」
東京ガスの八木氏は、CSRの一環として海の保全活動が始まったことを説明。ブルーカーボンという言葉が後から社会で注目されるようになると、活動の認知度が高まり、企業イメージの向上や社会的評価につながっていると振り返りました。また、活動を通じて地域とのつながりや社員意識の向上も得られていると言います。
日本製鉄が鉄鋼スラグを活用した藻場再生技術の開発を始めきっかけについて小杉氏は「大学の先生からの問い合わせ」が契機だったと説明しました。その上で、沿岸地域での取り組みや安全性を地域住民と丁寧に対話することで、信頼関係を築きながら活動を広げていくことが大事だと話しました。
桑原氏は、東日本大震災を契機に藻場再生活動を始めました。子どもたちが自然に触れる機会が増え、地域や教育に好影響を与えていることを活動の成果として挙げました。

佐藤会長は、藻場減少の現実を行政の立場で目の当たりにした経験から、漁業者、企業、行政が協働して信頼関係を築く重要性を強調しました。また、活動の中で直面した壁として、地元漁業者との関係構築の難しさや、年によって異なる生育状況への対応の必要性も共有されました。
テーマ②「取組を進める中でうまく行かなかった事、その改善」
桑原氏が活動する松島湾では、海苔養殖業者から、アマモは海苔を傷める「邪魔もの」として認識され、再生活動に反対を受けましたが、活動を継続する中で、アマモ場の消失が海全体に悪影響を及ぼしている事実が理解され始め、現在では漁業者が活動を手伝い、共に取り組む関係へと変化したことを紹介しました。
小杉氏は、未開拓の海域へ展開する際、漁業者から漁場への製品の設置にあたり、慎重な目で見られることがあったと振り返りました。しかし、次第に漁業者間のネットワークや口コミを契機に信頼が広がっていき、「ウィンウィン」の関係構築は一筋縄ではいかないが、要望に丁寧に答え、時間をかけて対応することで解決を図っていると話しました。
八木氏は、社内でのブルーカーボンへの注目度は高いが、「実際にイベントに参加する」段階に高いハードルがあることと、自然相手のため、単年度で生育成果が出ない場合の社内評価も課題であることを挙げました。
改善策として、一度参加した社員はリピーターになる傾向があるため、最初の一歩を促す工夫を模索中であることや、単年度の評価に固執せず長期的な視点を持つよう社内啓蒙を行っていることを挙げました。
佐藤会長は行政の立場から、企業がブルーカーボンに取り組むにあたっての障壁となる点として、漁業者は特に密漁対策の観点から藻場の公開を拒むなどのハードルが存在するものの、行政が企業と漁業者の間に立ち、宮城県という「看板」で安心感を与えることで、交流の場や橋渡し役としての支援を継続していきたいと話しました。
テーマ③「今後の方向性やビジョンについて」
小杉氏は、鉄鋼スラグを用いた環境改善活動を継続し、経済活動にとどまらない企業価値の向上を目指すと共に、漁業者から「アワビの育ちが良くなった」と評価されるような実利を伴う貢献を重視していきたいと考えています。

「アマモが当たり前に生えている海」を次世代に引き継ぐことを最終目標に掲げる桑原氏は、環境・産業・教育が一体となった持続可能な漁業を確立し、松島湾を日本のモデルケースにする意向を示しました。
八木氏からは、短期的な成果に一喜一憂せず、地道に活動を継続する。今後は東京湾を中心に、自社顧客や他企業も巻き込んだ「活動の輪」を広げることに注力していくと話しました。
佐藤会長は、宮城県ブルーカーボン協議会を通じ、企業の藻場整備が社会的に正当評価される文化を醸成したいと考えており、若い世代を中心に宮城県の海の価値を再認識してもらえるよう、行政として場を提供し続けていきたいと話しました。
事例紹介:宮城の海との具体的な連携方法

県水産業基盤整備課の岡村技師からは、藻場造成やブルーカーボンに取り組む団体が紹介されました。松島湾アマモ場再生会議、網地島振興協議会磯焼け対策部会、ISOP(Ishinomaki Save the Ocean Project)、東松島ブルーランド協議会の4団体です。いずれも漁業者、地域住民、研究機関、行政などが連携し、藻場や海藻(海草)の再生、磯焼け対策、調査・研究、教育に取り組んでいます。

企業や個人が関わる具体的支援方法として、藻場造成団体への直接の寄付や潜水機材の提供のほか、調査や教育ツール開発の技術的協力など、活動を支える多様な方法が示されました。また、Jブルークレジットを活用した支援も可能で、2025年度には県内養殖ワカメのCO₂吸収量として20.8トンが認証され、1月末まで販売中であり、売却益は海藻養殖の増産や藻場造成に活用されるので、ぜひ購入いただきたいと紹介されました。その他県事業への寄付の方法として、税制上の優遇もある企業版ふるさと納税も受け付けている旨、提示されました。
交流会・ネットワーキング(名刺交換会)

シンポジウム最後のプログラムは、参加者同士の交流会です。現地参加の約80名が参加。登壇者や藻場造成団体のメンバーも加わり、会場は終始にぎやかな雰囲気に包まれました。参加者は自社としてブルーカーボンや藻場再生にどのように関われるか、保有する技術やノウハウを活かす方法について活発に意見交換を行っていました。

交流会では一口サイズのフィンガーフードも提供されました。海洋保全の観点から資源量が比較的豊富な水産物を使った「ブルーシーフード」を採用。Jブルークレジットを取得した宮城県産ワカメのほか、サーモン、帆立、金華さばなどが提供されました。
結びに…
今回のシンポジウムを通じて参加者が共有したのは、ブルーカーボンや藻場再生の取り組みは、環境保全にとどまらず、地域社会、企業活動、教育、次世代への学びといった多面的な価値を生み出す活動であるということです。藻場を守り、再生することは、脱炭素だけではなく、生態系の多様性を守るほか、水産資源の増加や地域経済の振興にも波及します。
また、地域や企業が取り組む具体的事例や支援方法も紹介され「知るだけで終わらず一歩踏み出すことの重要性」も確認されました。次世代に向けては、学びを行動に変え、持続可能な海の環境を未来へつなぐことが、すべての参加者に共通する使命であることが改めて共有されました。
発表資料
※パネルディスカッションにおける日本製鉄株式会社小杉様の資料は掲載しておりません。ご容赦ください。
