ユーミンの素晴らしさとは
私たちの世代に彗星の如く現れたシンガーソングライター、ユーミンこと荒井由実さん(当時)は、1973年にデビューアルバム『ひこうき雲』をリリースしましたが、それに火をつけたのは深夜放送のラジオパーソナリティでした。ある日、高校の先輩から「これ聴いてみなよ…」と渡されたそのアルバムは高校1年生になったばかりの少年に衝撃を与えます。上品なメロディとアンニュイな歌詞は、それまで聴いてきた日本のポップスとは明らかに違っていました。自身も曲作りの真似事をし出した時期でしたが、余りにも別次元に言葉がなかったことを憶えています。
それからほどなくロックにめぐり合った私はバンドの結成も手伝ってか、ユーミンを聴く機会から遠ざかっていましたが『ひこうき雲』以来の衝撃に再び遭遇したのは大学時代でした。
1981年、私はクラスメイトから最新作のアルバム『昨晩お会いしましょう』を勧められます。その中の「街角のペシミスト」という楽曲を聴いたとき、高校1年生以来の衝撃を受けます。この時期はもう結婚していて名字が松任谷由実となっていましたが、デビュー時よりさらに洗練されたメロディと歌詞の全てを聴き終わった私は、彼女のスケールを最大限に広げるエポックなアルバムになるな、と直感します。
『ひこうき雲』から8年、ユーミンの楽曲は再度、私の心のヒダを通り抜けたのでした。
これ以降、82年の『PEARL PIERCE』83年の『REINCARNATION』と『VOYAGER』そして84年の『NO SIDE』までが彼女の世界観の頂点だと思うのですが、それを引き出したプロデューサーの松任谷正隆さんの手腕も当然あるでしょう。私個人は、その前のアルバム『時のないホテル』と『SURF & SNOW』がユーミンのイグニションになったことは想像に難しくありません。
個人的に感じるユーミンの持つ魅力は、平凡な一日をしっとりさせた楽曲に仕上げてアルバムに必ず数曲入れ込んでいることです。「ずっとそばに」や「夕涼み」「午前4時の電話」「青いエアメイル」「心ほどいて」「経る時」などはそれぞれのアルバムの中で主役以上に輝いているのです。
ユーミンといえば、どうしても時代を彩ったヒットシングルに目が向きますが、実は心に染みるバラードの楽曲こそが彼女をユーミンにしたのです。
追記:『NO SIDE』の中での「破れた恋の繕し方教えます」は「街角のペシミスト」とオーバーラップし、『REINCARNATION』の「星空の誘惑」は「真夏の夜の夢」へとブラッシュアップして結実したのだと想像します。
