芋出し画像

神々の王アメンは、祭りの日にも姿を芋せなかった

祭りなのに、䞻圹だけが芋えない

倧勢の人が埅っおいる。金色の小さな神殿を茉せた船が進み、船銖ず船尟には矊の頭が付いおいる。ふだん神殿の奥にあるものが、行列になっお倖ぞ出おきた。

ここたで聞けば、私は圓然、その䞭心にいる神の姿を芋せる祭りなのだず思った。

ずころが、叀代郜垂テヌベ、珟圚のルク゜ヌル呚蟺で行われた「矎しい谷の祭」の堎面をたどるず、いちばん肝心なものが芋えない。船の䞭倮には神像を玍める金色の厚子ずしがある。しかし、その䞭にいるアメン神の像そのものは、人々の目には芋えなかった。

アメンは叀代゚ゞプトの神で、名前には「隠された者」ずいう意味がある。最初から完成された囜家神だったわけではない。䞭王囜の初めごろから存圚感を増し、新王囜では倪陜神ラヌず結び぀いたアメンラヌずしお倧きな囜家神になった。䞭心ずなったのが、珟圚のルク゜ヌルにある巚倧なカルナック神殿矀である。

しかも、アメンには䞀枚の固定した肖像があるわけでもない。人の姿で、平らな冠の䞊に二枚の高い矜根を立おた像もある。矊はアメンず匷く結び぀くが、「アメンい぀も矊頭の神」ず芚えるず、かえっお芋えなくなるものがある。

神々の王ずたで呌ばれるほど倧きな神なのに、祭りで姿を隠す。

ここで最初の予想が厩れた。

アメンにずっお「珟れる」ずは、顔を芋せるこずず同じではなかった。

芋えない神を、船に茉せお運ぶ

神殿の奥に安眮される神像ず、祭りで運ばれる像は、同じ「神の像」でも圹割が違った。

祭瀌では、神像を玍めた携垯甚の厚子が、船の圢をした「聖船」に茉せられる。これは氎に浮かべる倧型船そのものではなく、祭叞たちが担げる船圢の携垯神殿である。アメンの聖船には矊の頭の食りが付き、金や宝石で食られた。

矎しい谷の祭では、アメンずずもにテヌベでた぀られた女神ムトや月の神コンスの像もカルナックを出お、ナむル川を越え、西岞の神殿ぞ向かった。これはカルナックからルク゜ヌル神殿ぞ向かうオペト祭ずは行き先の違う祭りで、同じ「アメンの倧行列」ずしお䞀぀に混ぜるこずはできない。

ずころが、移動すればするほどアメンの姿が芋えるようになるわけではない。

芋えるのは、船、矊頭、金、担ぎ手、行列。芋えない䞭心を囲むものばかりが増えおいく。

隠されおいるなら、そこに䜕もないのず同じではないか。そう思いかける。

だが、次に建築を芋るず、話が逆になる。

神が動くず、道の途䞭に建物が増える

聖船を担ぐ祭叞たちは、神殿を出お長い祭瀌の道を進む。炎倩䞋を、重い携垯神殿を担いだたた歩き続けるわけにはいかない。

そこで経路の途䞭に、聖船を眮いお䌑むための小神殿や䌑息所が造られた。

カルナックからルク゜ヌルぞ向かう道にも、西岞ぞ枡る祭りにも、神が途䞭で「䌑む」堎所が必芁になる。カルナックで巚倧な柱が林立する広間さえ、碑文ではアメンが祭りの際に䌑み、姿を珟す堎所ずしお語られおいる。

私はここで、隠すずいう蚀葉の印象をかなり修正した。

隠すなら、扉を閉じれば枈む。

ずころがアメンの堎合、隠された神像を倖ぞ運ぶために、船を䜜り、担ぐ人を組織し、道を通し、途䞭に䌑む建物たで眮く。

芋えないもののために、芋える郜垂のほうが䜜り倉えられおいる。

神が姿を芋せないこずは、神が瀟䌚に出おこないこずではなかった。

むしろ逆で、姿を盎接芋せないからこそ、「どこを通ったか」「どこで止たったか」「䜕に茉っおいたか」が神の存圚を知らせる。

目で䌚えないなら、「耳」が入口になる

では、王や高䜍の祭叞ではない人々は、隠された神ずどう接したのだろう。

カルナックには、研究者が「聞く耳の神殿」ず呌ぶ堎所があり、神ぞささげられた耳の圢の品や石碑も知られおいる。神像は神殿の奥に隔おられおいおも、神が人の蚀葉を「聞く」ずいう別の接点が考えられおいたこずを瀺す資料である。

耳は、巚倧な神殿ずは察照的な小さな圢である。王が神殿を建お、祭叞が聖船を担ぐ䞖界のすぐそばで、非王族の人々ず神の関係を考える手がかりが、石に刻たれた耳ずしお残る。

ここは、珟代の「神に祈れば答えが返る」ずいう感芚をそのたた重ねるず危ない。叀代゚ゞプトの宗教実践は、珟代の個人宗教ず同じ仕組みではない。

それでも、芖芚から聎芚ぞ入口がずれるのは倧きい。

顔を芋せない神に、耳の圢が増えおいく。

祭りでは金の厚子を目で远う。神殿の呚蟺では、耳ずいう小さな圢に「聞いおもらう」期埅を蚗す。

アメンが姿を芋せないこずは、人ずの接点を枛らしたのではない。接点の皮類を倉えた。

そしお、その接点は物だけではなく、人間の圹職にもなる。

「神の劻」は、結婚盞手ずいう意味ではない

叀代゚ゞプトには「アメンの神劻」ず呌ばれる高䜍の女性宗教職があった。

名前だけを芋るず、神の配偶者を挔じる女性のように想像しおしたう。しかし埌の時代、ずくに゚ゞプト南方のクシュ王朝の時期には、この職は神ず王の間を぀なぐ倧きな制床的圹割を持った。

代衚的なのが、クシュ王カシュタの嚘アメンむルディス1䞖である。クシュぱゞプト南方、珟圚のスヌダンを䞭心に栄えた王囜で、のちにその王たちぱゞプトも支配した。

アメンむルディス1䞖は「アメンの神劻」の埌継者ずしお逊子に迎えられた。この職では、圚任者が次の女性を逊子にしお継承する仕組みが䜿われた。぀たり血瞁だけで次ぞ枡すのではなく、王朝をたたいで圹職の連続性を組み立おるこずができた。

神劻は王のような称号を持ち、領地や職員、管理者を抱え、アメン神殿に属する倧きな経枈資源も扱った。アメンむルディス1䞖の就任は、クシュ王暩がテヌベで正統性を埗るこずにも぀ながった。

隠れた神ず王暩の間に、䞀人の女性ではなく「継承される圹職」が眮かれおいた。

ここを「女性神官が囜を支配した」ず単玔化するず、仕組みを取り逃がす。

倧切なのは、神の意思や暩嚁が瀟䌚ぞ届くずき、その間に制床が必芁だったこずだ。

船には担ぎ手がいた。道には䌑息所があった。そしお王暩ずの間には、神劻ずいう圹職があった。

神殿の奥にいた神が、今床は「山に䜏む」

アメンの䞖界は、゚ゞプトのテヌベだけでは終わらない。

珟圚のスヌダン北郚、ナむル川の近くに、ゲベル・バルカルずいう高さ玄100メヌトルの平らな頂を持぀砂岩の山がある。新王囜時代から聖なる山ずされ、゚ゞプト人は囜家神アメンがこの「聖山」に䜏むず考えた。

その埌、この土地はクシュのナパタ王囜にずっお重芁な宗教・政治の䞭心になる。山のふもずにはアメン神殿が築かれ、クシュの王たちもアメンずの関係を王暩の重芁な根拠ずしお扱った。珟圚、䞖界遺産に登録されおいる遺跡矀にも、神殿、宮殿、墓、ピラミッドが同じ景芳の䞭に残る。ここでは信仰が䞀぀の像だけでなく、山ず建物矀の配眮にたで染み蟌んでいる。

カルナックでは、神は神殿奥の像に宿り、その像は芆われおいた。

ゲベル・バルカルたで来るず、神の居堎所が、䞀぀の郚屋ではなく山そのものぞ広がる。

もちろん、゚ゞプトのアメンがそのたた南ぞコピヌされた、ず考えるのは粗い。クシュにはクシュ偎の歎史ず王暩があり、アメン信仰もその土地で組み盎されおいく。

それでも、「隠された者」の居堎所が、厚子から山たで䌞びる萜差は倧きい。

芋えない神なのに、地図には巚倧な目印が立぀。

芋えない神でも、消されるず分かる

時代を進めるず、芋えないこずず存圚しないこずの違いが別の圢で珟れる。

玀元前14䞖玀、アク゚ンアテン王が倪陜の円盀そのものを神ずしお重芖するアテンを䞭心に宗教を再線した時期、アメンの名や像は抑えられ、䞀郚の蚘念物では傷぀けられた。その埌、ツタンカヌメン王の時代にはアメンの神殿や像の修埩が進められた。

ここで起きおいるこずを、「アメンが䞀床いなくなっお戻っおきた」ずだけ蚀うず単玔すぎる。

むしろ気になるのは、隠された神なのに、消そうずすれば消す堎所が倧量にあったこずだ。

名前、像、神殿、王ずの関係、祭瀌。

神像の顔を䞀般の人が芋られなくおも、アメンは瀟䌚の衚面に無数の痕跡を持っおいた。

䞍可芖であるこずず、存圚感が薄いこずは、たったく同じではない。

海を越えるず、今床は「角」が顔になる

そしおアメンは、゚ゞプトの倖でさらに別の芋え方をする。

ギリシャ・ロヌマ䞖界では、アメンは「アンモン」ず呌ばれ、ギリシャの最高神れりスず結び぀いた「れりス・アンモン」の像が䜜られた。

その顔は、叀兞的なひげを持぀れりスに、矊の角が付いおいる。

矊はアメンず結び぀く動物だが、アメンがい぀も矊頭で衚されたわけではない。人の姿で二枚の高い矜根を付けた冠をかぶる像も倚い。

だから矊角は、アメンの「本圓の顔」をそのたた茞出したものではない。

別の文化が、アメンを自分たちの神の顔の䞊で読める圢ぞ翻蚳した印だった。

神殿の奥では神像そのものを隠しおいた神が、遠く離れた䞖界では、角ずいうひず目で分かる印を持぀。

隠すこずず芋せるこずは、反察偎にあるようで、アメンの歎史では䜕床も隣り合う。

金の厚子をもう䞀床芋る

最初の祭りぞ戻る。

矊頭の船が進み、金の厚子が光る。人々はそれを芋る。しかし䞭のアメン像は芋えない。

最初は、この䞭心の空癜が気になった。

けれど、ここたでたどるず、空癜の呚囲のほうが気になっおくる。

神像を守る厚子。厚子を茉せる船。船を担ぐ人。神が通る道。途䞭で䌑む建物。人の蚀葉を聞く耳。王暩ず神を぀なぐ女性官職。神が䜏むずされた山。異文化で顔に付け加えられた矊の角。

アメンは、隠れおいたから瀟䌚から遠かったのではない。

姿そのものを簡単には芋せないたた、どこで、䜕を通しお、誰が神に近づけるか。その境界を、物ず空間ず制床が䜕重にも䜜っおいた。

「隠された者」ずいう名前は、暗闇の奥ぞ消えおいく神を想像させる。

実際に残っおいるものを远うず、少し違う。

䞭心は芋えない。

その代わり、䞭心の呚りに船があり、道があり、耳があり、圹職があり、山がある。

祭りの日に光っおいた金の厚子は、䜕も芋せない箱ではなかったのかもしれない。

芋せないこずで、呚囲のすべおを「アメンがここにいる」ずいう印ぞ倉える箱だった。



#アメン #叀代゚ゞプト #゚ゞプト神話 #カルナック神殿 #クシュ王囜 #䞖界史

いいなず思ったら応揎しよう