「💕欣子皇后の托卵」第3章 山崎清忠〔1793~1794〕、第4話(1) 町医山崎清忠、見合い
マガジン「💕欣子皇后の托卵」
※本作は実在の人物・時代・事件を題材にしておりますが、完全なフィクションです。史実とは全く異なる独自の解釈や創作を多分に含んでおり、実在の皇室や歴史的背景を貶める意図は一切ございません。
【一条家・近衛家家系図】
https://kakuyomu.jp/users/betaas864/news/2912051604508120346
【光格関連天皇系図】
https://kakuyomu.jp/users/betaas864/news/2912051604367045747
【霊元天皇から光格天皇までの系図】
https://kakuyomu.jp/users/betaas864/news/2912051604450145610
伏見宮、貞致親王
1632年7月14日(寛永9年)ー1694年6月10日(元禄7年)
https://www.his-trip.info/keizu/K802.html
伏見宮、貞致親王系図
https://kakuyomu.jp/users/betaas864/news/2912051604657291545
Wiki 伏見宮貞致親王
https://x.gd/3SEGM
第3章 山崎清忠〔1793~1794〕
第4話(1) 町医山崎清忠、見合い
《《京への潜入》》
寛政六年(1794年)春、山崎清忠(二十九歳)は、越後から信濃の深山を抜け、雪解けの道を辿ってついに京都へたどり着いた。東山を背に、ゆったりと流れる鴨川の川面を見下ろす三条大橋の袂に立つ彼の瞳には、医者としての再起への強い決意が宿っていた。
だが、越後長岡藩からの厳しい追撃を恐れる清忠は、宗門改めの人別帳に名を記さぬ「無人別」の者として生きる道を選ばざるを得なかった。
幕府と朝廷が交錯する京の都では、寛政の改革のもとで宗門人別改めが極めて厳格に行われていた。しかし、天明の大火以来の混乱と復興に伴う人口の流入により、戸籍に記載されない「無人別」の者が鴨川の河原や下京の裏長屋に溢れていた。
町人として正式に届け出れば長岡藩の探索網に足跡が残り、即座に捕縛される恐れがある。清忠は下京の四条河原町から少し入った、困窮した民が集まる泥深い裏長屋の一角に身を潜めた。
粗末な借家を借り、表札も出さず、裏口の板戸に小さく「医者」とだけ墨で書き残した。
長屋の住人たちは見慣れぬ東国育ちの新参者を怪しんだが、清忠は黙々と医術を磨いた。革袋には、越後から持ち込んだ傷薬と、野沢温泉の母娘から貰い受けた薬草や漢方生薬が詰まっていた。
父の遺言「医は命を救う道」という言葉が彼を支えていた。しかし、あの雪深き野沢温泉で過ごした舟とふみとの濃密な夜の触れ合いが、記憶の奥底で消えぬ火種のように残り続けていた。
《《流行り病と町医》》
寛政六年夏、大火の復興の遅れと猛暑が重なり、京の都を下痢と高熱を伴う「赤痢(疫病)」が激しく襲った。
下京の裏長屋に暮らす人々は、濁った井戸水を汲み、糞尿を路地の溝に流し、夏の腐臭が漂う劣悪な衛生環境の中で暮らしていた。細菌という概念など誰も知らず、汚れた手で飯を食い、病が広がると「祟り」や「悪霊の仕業」と恐れて加持祈祷に頼るばかりであった。病は井戸から井戸へ、隣家から隣家へと伝染し、幼い子供や老人が次々と倒れていった。
清忠は、かつて長岡の治水現場で家臣を救った記憶を胸に、自ら進んで診察を始めた。
「お代はいりません。命を繋ぐことこそが医の務めです」
艾と黄連を細かく煎じた漢方薬を無償で分け与え、高熱に苦しむ者には葛根湯を調合した。子供には薄めた薬を飲ませ、長屋の狭い土間に臨時の診療所を設けた。しかし、患者は汗と血便にまみれ、家族は看病の途中で次々と感染していった。
清忠は「井戸水は必ず一度煮立たせてからお飲みなされ」と懇切丁寧に説いたが、「水を煮るやなんて面倒でおます」「生水の方が冷とうて美味い」と最初は一蹴された。
ある晩、血便で瀕死の病床にあった老女を診た清忠は、彼女が震える手で差し出したわずかな銭を優しく押し戻した。
「お婆さん、生きておくれ。それが私への何よりの報酬です」
老女の息子である八べえはボロボロと涙を流し、自ら進んで清忠の助手を買って出た。八べえは鴨川の三十石舟を扱う船大工で、口は悪いが滅法義理堅い男だった。
髪結いの六衛門も清忠を支えた。噂好きだが根は優しく、客の髷を結いながら「裏長屋の山崎の先生はほんまに仏様や」と街中に言い広めた。六衛門の母でおせんは長屋の女傑で、甲斐甲斐しく清忠の身の回りの世話を焼いた。
ある日、おせんが息を切らせて診療所に飛び込んできた。
「先生、大変どす! 隣の与太郎が腹下して死にそうになってますねん! 助けておくれやす!」
与太郎は長屋で有名な飲兵衛で、赤痢にかかりながらも「酒で腹の虫を消毒するんや」と寝込んでいた。清忠が駆けつけると、与太郎は酒瓶を抱え、「これが一番の薬や!」とヘラヘラ笑っていた。おせんが怒鳴りつける。
「このアホたれ! 酒で赤痢が治るかいな! 先生の薬、黙って飲みなはれ!」
与太郎は渋々漢方を飲み、八べえが酒瓶を強引に取り上げると、「俺の命の水を返せー!」と喚き散らした。六衛門が笑いながら彼の髪を整え、「与太郎、命が惜しかったら酒は当分お預けやで」となだめた。やがて清忠の懸命な処方により与太郎が奇跡的に回復すると、長屋中がどっと歓声に包まれた。
この一件で、清忠は「銭を取らぬ名医」として下京中に名を馳せ、市が立つ日には子供たちが「山崎の先生!」と笑顔で彼の後ろを追いかけるようになった。
「💕欣子皇后の托卵」
https://kakuyomu.jp/works/2912051604101518442
【目次】
登場人物と年表
〔1740年代〜1790年代〕の物語の推移
〔1790年代〜1840年代〕の物語の推移
💕欣子皇后の托卵
托卵の仮説
§ 第1章 欣子入内前〔~1793〕
第1話 鄙びた生活 https://x.gd/1F75Z
※1793年、寛政五年のこと。五摂家一条家の筆頭富子の邸宅の話。
毒薬の伏線。
第2話 偽りの血脈 https://x.gd/jTen4
※1話の続き。富子は後桃園天皇の唯一の皇女欣子と侍女志乃に男女の理を話す。
さらに、近衛維子が産んだ欣子は後桃園天皇の子ではないという伏線。
第3話 絹と木綿 https://x.gd/RDc0C
※欣子と侍女志乃のあどけない会話と志乃の幼馴染の宗三郎に関しての話。
第4話 下品の草種も薬になる https://x.gd/VXWgo
※富子による後桜町上皇様の侍女頭、園子の毒殺。
富子の手下の修験者の伏線。
第5話 毒見 https://x.gd/ISH5o
※富子は自身の毒殺の暗躍を隠して、欣子と志乃に食事の際の毒見の法を伝授。
第6話 媚薬 https://x.gd/A3405
※欣子が媚薬の話を富子に聞く。
第7話 一条輝良(改) https://x.gd/dyASA
※富子と一族の一条輝良、そして、近衛家の人間しか知らない欣子の本当の父親の正体。
第8話 閑院宮の創設と幕府の影 https://x.gd/Es9oE
※1709年、宝永六年、7話までの70年前のこと。時の霊元天皇が皇位の断絶を恐れた。
天皇は、伏見宮の他の新しい宮家の創設を考えた。
第9話 新しい宮家 https://x.gd/VQa4H
※霊元天皇の意を受けた幕府・新井剥製は、閑院宮創設に賛同する。
第10話 土蔵 https://x.gd/bi48j
※第6話 媚薬の続き。媚薬を盗み出した欣子は志乃と宗三郎に媚薬を試す。
第11話 勧修寺婧子 https://x.gd/OUsWI
※光格天皇の側室となる権大納言・勧修寺経逸の娘・婧子の紹介。
光格天皇の皇后は欣子であり、跡継ぎ絡みで婧子はライバルとなる。
第12話(1) 後桜町上皇、緋宮 https://x.gd/HFGvT
※日本最後の女帝・後桜町上皇の生涯。
第12話(2) 後桜町上皇、伏見宮への疑念 https://x.gd/jivYi
※日本最後の女帝・後桜町上皇の生涯。
第12話(3) 後桜町上皇、勧修寺婧子 https://x.gd/cofmm
※日本最後の女帝・後桜町上皇の生涯。
第13話 欣子入内、内親王の中宮冊立 https://x.gd/K1Ph7
※欣子の嫁入り。
§ 第2章 光格天皇〔1794〕✿
第1話 欣子入内、光格天皇 https://x.gd/USFJI
※閑院宮家から即位した光格天皇の歴史的背景(伏見宮家を避けた事情)と、
侍従の視点から描かれる帝の容姿や、富子や後桜町上皇ら周囲への警戒心。
第2話(1) 欣子と婧子、典侍の仕事 https://x.gd/An5jR
第2話(2) 欣子と婧子、後宮の階層 https://x.gd/ipH5h
第2話(3) 欣子と婧子、初顔合わせ https://x.gd/87y8v
※光格天皇の側室となり、跡継ぎを巡って中宮・欣子の最大のライバルとなる
勧修寺婧子と、その背後にある勧修寺家の不穏な動向。
第3話 伏魔殿の夜伽 https://x.gd/bHAow
※中宮・欣子と光格天皇の間で繰り広げられる、愛憎と政治的計算が渦巻く
冷徹な寝所劇。その裏で、側室・婧子が着々と宮中での地歩を固めていく。
§ 第3章 山崎清忠〔1793~1794〕✿
第1話(1) 山崎清忠の逃走、越後長岡藩 https://x.gd/du788
第1話(2) 山崎清忠の逃走、越後長岡藩 https://x.gd/Ov7KI
第2話 山崎清忠の逃走、野沢温泉
第3話 山崎清忠の逃走、夢魔の夜
第4話(1) 町医山崎清忠、見合い ◀️今ココ
第4話(2) 町医山崎清忠、見合い
第5話(1) 町医山崎清忠、初夜の床
第5話(2) 町医山崎清忠、初夜の床
第6話(1) 追っ手の影と富子の影
第6話(2) 追っ手の影と富子の影
§ 第4章 勧修寺婧子〔1795~1846〕✿
第1話(1) 寛政十二年の皇子誕生✿
第1話(2) 寛政十二年の皇子誕生✿
第1話(3) 寛政十二年の皇子誕生✿
※寛政十二年、中宮・欣子ではなく、側室・勧修寺婧子が皇子(のちの仁孝天皇)
を懐妊・出産。一条家の「血の独占」計画に走る激震と、富子の狂気的な次の一手。
第2話 生母の苦しみ、一条家の算盤
※側室・婧子が産んだ皇子(寛宮)を、一条家の悲願(正統な血統の乗っ取り)を
果たすため、中宮・欣子の「養子(正嫡)」として籍に入れさせる冷酷な密約と駆け引き。
第3話 養母と生母の密室
※我が子でありながら母と呼べず「生母」の立場に追いやられる婧子と、
他人の血を引く皇子を自らの子として抱え込む欣子。二人の女の間に走る見えない火花。
第4話 文化の世の権力図
※光格天皇から仁孝天皇への譲位、そして後桜町上皇の崩御を契機に、
朝廷の主導権を巡る勢力図が大きく塗り替わっていく。
第5話 東京極院の最期と血の呪縛
※「東京極院」の号を授かられながらも、生涯宮中の闇と血統の枠組みに
翻弄された婧子の最期、そして次代へと受け継がれていく「托卵」の深き闇。
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