エッセイ⌇真夜中の目玉焼き
わたしの人生は、究極おいしい目玉焼きと白ごはんを食べれてたらいいのかもしれない。
久しぶりに卵を割って焼いて食べた目玉焼きのうまさったら、砂漠で飲む水とはきっとこういうことだと思った。
よくよく考えれば、わたしは目玉焼きがとても好きだ。
好きな卵があるスーパーを目掛けて買い物へ行き、それを買って目玉焼きにして、ごはんに乗っけて醤油をかける。これが主食であった。
そして今日。
夜中に猛烈にお腹が空いた。
恋人はリビングでぐっすり寝ている。
そうだ、そばめしを食べよう。
起こさないようにと思うが、絶対にいい匂いで目が覚めてしまうだろうな。
そして、この時わたしは奇しくも
「目玉焼きをトッピングしたい」
という生理前の悪しき欲望を閃いてしまうのである。
これは合法のドーピングではあるが、真夜中のギルティとも言えなくはない。
幾許か卵を持つ手が震え、
フライパンへ落とせば
油が跳ねて、白身が踊り出す。
結構大きな音がしているが、それでも恋人は起きない。それを確認したわたしは換気扇を容赦なく回した。
そばめしをあたためれば、
部屋はもういい匂いがしている。
なんだか、一人暮らしみたいだな。
これは、一見ネガティブワードに見えるが、わたしにとってはとんでもないポジティブワードである。一人暮らしでやるようなことをふたりの生活の中でやれることが、きわめて贅沢なことのように思える。
少し焼きすぎて黄身に火が通ってしまったが、本来目玉焼き単体で食べるならこれくらいが好きだし、いいとしよう。
そばめしの上に目玉焼きをのせる。
こういうのがいっちゃん美味いんやから。
そして香ばしい白身を引きちぎり、卵黄をそばめしに絡ませて口に運べば、脳内で何だかすっごいイイやつが大放出される。幸せが今ここに集約されるとき、すべての煩悩は住民票を失うのだ。
そして、わたしはまたもや生理前の悪しき欲望を閃いてしまう。
「もう一個だけ、味変して食べたい」
この卵が美味いことはもう確定している。
焼いて、半熟で、醤油だけかけて食べたい。
一応ChatGPTにも食べていいよね?と聞いておく。全然食べなって言ってくれたから、ヤツも共犯者だ。反対されてももうキッチンにいる。
そして二個目の卵を落とす。
彼はやっぱり起きない。
洗い物は明日のわたしに任せよう。
雨だ。雨がたくさん降っている。
雨ってきらいだ。まとわりつく湿気が。
人を鬱々とさせる理由を着せさせられて、天から地面へ落ちてゆく。あしの裏が暑くて眠い。昨日は10時間も眠ったのに。
白身がいい感じになったところで早めに引き上げて、醤油を垂らして食べる。うめえ。
うめえ以外の何者でもない。
この半熟具合ならさっきのそばめしに載せた目玉焼きと交換したいなってくらいのいい半熟具合だった。醤油のかかった卵黄を飲むのは非常にセクシュアルだなと思う。
やっぱり目玉焼きのことが好きだ。この生活のこともやっぱり愛していたい。退屈な人生を、わたしはけっこう楽しめるタイプだと思う。
それでも色々起きてしまうのだけれど。
眠い。今日は疲れていたから。
恋人はまだ起きない。
バンドTシャツのネオンが光っている。
