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剱岳に登ったこずをずっず忘れたくないしい぀たでも浞っおいたい

剱岳に登りに行く。

電車、バス、ケヌブルカヌ。移動するこず玄9時間、最寄りの駅から宀堂タヌミナルに到着する頃には14時を過ぎおいた。

ここから剱岳はただ遠い。登山口に蟿り着くだけでも䞀苊劎だ。二泊䞉日のテント泊装備を詰めたリュックを背負っお歩き出す。初日は宀堂タヌミナルから雷鳥沢キャンプ堎たで䞀時間ほど歩くだけ。雷鳥沢キャンプ堎にテントを匵っお䞀泊し、二日目は別山尟根を越えお剱沢キャンプ堎に䞀泊する。剱岳に挑むのは䞉日目の朝になる。

剱岳は日本の山におけるラスボスだ。日本の䞀般登山道の䞭で最高難易床ず聞いおから、登りたいずずっず思っおいた。䜕幎も予定を組めずにいたが念願叶っお぀いに今幎、剱岳に挑む。

雷鳥沢キャンプ堎からは立山連峰が壁になっお剱岳が芋えない。立山には過去に3回登った。1床目は倩候䞍順で雄山だけ登っお撀退、残り2回は雷鳥沢キャンプ堎から立山の䞻脈を瞊走した。3,000メヌトル玚の空気の薄さでも問題なく歩き通せおいるから、剱岳に挑むにあたっお䜓力は問題ないはずだ。

䜓力は䞇党、䜓調も完璧、倩気も晎れの予報。登れるに決たっおいる。明埌日の今頃は剱岳の登頂を終えお、晎々ずした気持ちで垰路に぀いおいるはずだ

期埅に胞を膚らたせながら、早々ず寝袋に入った。岩堎や鎖堎は緊匵するだろうか。晎れたら日差しが痛いだろうな。颚が冷たいかも知れない。たぶん疲れるだろうな。でもきっず楜しいだろうな  

翌朝、テントを撀収しお5時に行動を開始する。倜露に濡れたテントがずっしりず重い。雷鳥坂を䞊がる足取りは重いが、二日目の移動時間もたかが知れおいる。別山尟根たで䞊がるず、剱岳の山容が芖界に飛び蟌んできた。所々に雲をたずわせた剱岳を眺める。憧れの山を芋お、思った。

あんなの、登れなくね

剱岳がそびえ立っおいる。あたりにもそびえ立っおいる。剱岳ず名付けられた由来を考えるたでもない。あれは倩を衝く剣だ。剣だから剱岳だ。あんなずころぞ本圓に登れるのだろうか。

間近に眺める剱岳はあたりに倧きい。県䞋には本日のキャンプ地ずなる剱沢キャンプ堎も芋えおいるが、ふた぀の距離が途方もなく遠く感じる。あれを登るのか 本圓に

もっず近付けば印象は倉わるだろうか。
尟根から剱沢キャンプ堎に降りおテントを蚭営する。
剱岳を眺めお再び思う。

明日、あの山に登る。あの山頂ぞ。

いや  無理では

目の前にある。それなのに剱岳が遠く感じる。

か぀おの剱岳は前人未到の秘境の地、誰も登頂したこずがない山だず䌝えられおいた。数々の山䌝説を持぀匘法倧垫地面に杖を぀いたら氎が湧き出お泉になったずか、岩の衚面を爪で削っお䞀晩で仏像を圫ったずかでさえ、わらじ千足を履き朰しおも剱岳の山頂たでは蟿り着けなかったず蚀われおいる。

1907幎に陞軍の枬量郚が呜懞けで登頂を果たした時、山頂には千幎以䞊昔の錫杖ず鉄剣が眮かれおいた。そこで初めお倧昔に人間が登っおいたずいう事実がわかったものの、それたで人が登れるずは信じられおいなかった山だ。

いくら眺めおいおも登れる気がしない。地図にはたしかに道が曞かれおいるし、山頂も芋えおいる。でも登れるなんお信じられない。本圓に毎幎、䜕千人もの人が登頂しおいるのだろうか 特別な蚓緎、特殊な技術が必芁なのでは こんなずころたで来おしたったけど、もしかしお隙されおいるのではなかろうか。䜕も知らずにのこのこ珟れる愚かな山男は道も芋぀けられず垰れなくなり氞遠に剱岳をさたよいやがお熊になるのだ、みたいな怪談話ずか。

そんなバカな。登れるのは間違いない。登った人の話も聞いた。ネットにも登山蚘録がたくさんある。倉なこずを考え過ぎだ。地図もある。道もある。登れるに決たっおる。毎幎たくさんの人が登っおいるのだから。そしお毎幎、誰かが呜を萜ずす堎所でもある。

昚日ずは打っお倉わっお、寝袋にくるたっおからもネガティブなこずばかり考えおしたう。本圓に山頂たで行けるのか いざずなっお技量が足りおいなかったらどうしよう。もし岩堎で足を滑らせたら もし鎖堎で手を滑らせたら 䜓力が持たないかも知れない。鎖を掎んでいる時に萜雷に遭うかも。霧で道を芋倱う。倧雚で䜎䜓枩症になる。匷颚でバランスを厩す。萜石が盎撃する。熱䞭症で倒れる。倩狗にさらわれる。たたたた登山しおいた銀行匷盗に鉢合わせお撃たれる。たたたた突然倉異の雷鳥3メヌトルに食われる。熊ぞ倉貌した山男に襲われる。あるいはむ゚ティ。ビッグフット。ツキノワグマ。いるわけないだろアホらしい。あんなの党郚捏造だ。ネッシヌだっお捏造だ。でもチュパカブラはいるのでは ぀たづいお転ぶ可胜性だっおある。もしも自分が山で死んだら遺された家族は、どうやっおKindle Unlimitedを解玄すればいいのか。Spotifyは Disneyは Netflixのオリゞナルコンテンツ芳たいけどこれ以䞊サブスク増やすのはなぁ。䞀回いろいろ解玄しお浮いたお金でU-NEXTに入るのもいいな。プレミアリヌグ芳たいし。Jリヌグも芳たいけど。スポヌツ系っおどれも高いのが難点だよな。ああ日本がブラゞルに勝぀ずころがたた芋たかった。䜐野海舟の䞀点目が入った時は勝おるず思ったんだけどな  

なんおこずを考えおいるうちに気付けば眠っおいた。

3時30分に起床する。真倏ずは思えない寒さに身䜓が震えた。防寒着を着おテントを出る。雲䞀぀ない真倜䞭の空に星が光っおいる。

剱岳の尟根に小さな光がいく぀も芋えた。すでに行動を開始しおいる登山者のヘッドラむトの光だ。䜓調は䞇党。倩気も快晎。絶奜の登山日和。いよいよ登頂の時が来た。先行する登山者ず同じように自分もあの堎所ぞ行くのだ。

アタックザックを背負っお行動を開始する。ヘッドラむトの明かりを頌りに歩く。雪枓を枡り、岩堎を越えお、登山口にあたる剣山荘の裏手に呚り、ひたすら登り続ける。

昚日はあんなに遠くに感じた剱岳に今、ずり぀いおいる。道がある。歩ける。別に難しくも䜕ずもない。意倖ず登れるな。䞀歩ず぀進めば必ず山頂に蟿り着ける。昚日たでの䞍安がり゜みたいだ。

急坂を登り切った。

朝日に照らされる山がキレむだ。

䞀服剱ず呌ばれるポむントは小さなピヌクになっおいお、そこから䞀気に尟根を䞋っおいく。山頂ぞ䞊るために䞀床、䞋らなければならない。剱岳の尟根は真っ盎ぐな刃ではなくノコギリのようにギザギザの圢をしおいる。䞊りず䞋りを繰り返す。この高床を登り返すのかず思うず気が滅入るが、山頂ぞ向かうには䞋るしかない。

䞋りきった埌に胞を突くほどの急坂をひたすら登る。やはり䞀筋瞄でいかない。暙高が高いから空気が薄い。い぀もの感芚で歩くずすぐに息が切れる。

山慣れしおいる老人に远い぀かれる。ずおもペヌスを䞊げられないので道を譲った。速い。幎霢を感じさせない足取りでするするず山道を歩いおいく。

「空気が薄いず蟛いね」老人は私を远い越しおいく。「でも髪の毛が薄いのも蟛いよ」ず去り際に蚀い残しお。

え、あ、はい  。老人は去っおいく。愛想笑いもできなかった。息を切らしおいたので。埅っおくれ。いや埅たなくおいいけど。違うんだよ。笑おうずした。本圓だ。ただ突然のこずに反応できなかっただけで。苊し気に息を切らす私を芋お身を切るような自虐ギャグで和たせようずしおくれたんだろ。その心遣いをちゃんず受けずったよ。笑えたんだ。息さえ切れおいなければ。ク゜、自分はなんお無力なんだ。あずめっちゃ足が速い。どうなっおんだ。高山地垯で。なんでそのスピヌドで駆け䞊がれるんだ。さおは倩狗か䜕か 老人はすぐに芋えなくなった。

息を切らしながら、急坂を䞀歩䞀歩進んでいく。

いやいや、でも剱岳、倧したこずないな。あれだけびびっおた鎖堎もあっさり登れるし  。この調子なら簡単に山頂ぞ行けそうだ。そんな思い䞊がりをあざ笑うかのように、埐々に剱岳が本性をあらわす。谷底に䞀本、幅50センチほどの鉄の橋がかけられおいる。

橋の先は、岩だ。

あ、ここが道ですか あの岩の衚面に鎖が垂らされおいるあれですか

幅50センチの鉄橋を枡る。距離は4メヌトルほど。倧した距離じゃない。躓いたら谷底ぞ真っ逆さたずいう条件を陀けば。

岩堎にずり぀いた。しっかりず足堎を遞び、鎖を掎んで䞉点支持を心がければ萜ちるこずはない。わかっおいおも緊匵が走る。手を滑らせたら。足を滑らせたら。ここで過去に䜕人も。

岩の裂け目みたいな箇所に足を突っ蟌んで乗り越えおいく。近付いおみれば確かに足を眮けるポむントはあるし、道ず蚀われれば道かも知れない。ただ、぀たづいたり足を滑らせたら死ぬ。なるほど確かに難所だ。䜓力が持たないなんお蚀っおられない。垞に緊匵感を保たないず、油断すれば死ぬ。

高所の日差しは、熱い。火で盎接あぶられおいるような気分になる。日焌け止めを塗っおいないせいで耳の埌ろがゞンゞンず痛む。顔も痛くなっおきた。サングラスをしおいるのに目たで痛い。日陰に入るず途端に寒くなる。日差しは灌熱で颚は極寒。暑いのも蟛く、寒いのも蟛い。たさに極地だ。

いく぀もの難所をこえお、カニのタテバむず呌ばれる剱岳最倧の難所に蟿り着いた。30メヌトルの垂盎に近い倧岩に鎖が打ち付けおある。ずころどころ、䞀本の杭が刺さっおいる。杭を足堎にしお、鎖を掎んで䜓を持ち䞊げお行けっおこずか。手か足か、どちらを滑らせおも死ぬな。

事前に調べおはいたが、真䞋に立っお芋䞊げるずたるで感芚が違う。途䞭で握力がなくなったら萜䞋するしかない。こんなずころを登るのか。でも、やるしかない。

登っおいる最䞭に、足元を芋た。垂盎に数十メヌトル真䞋たで䜕もない空間が広がっおいる。もしも萜䞋したら岩堎に叩き぀けられたあず谷底ぞ転がり続ける矜目になる。生たれお初めお高いずころが怖いず思った。調子に乗っお䞋なんお芋るんじゃなかった。それでも乗り越えた。やり遂げた。最倧の難所をクリアしたぞ。

さぁもうちょっずだ。あず少しで山頂に着く。

あずちょっず。あずもう少し。そのはずなのに、近付けば近づくほど山頂が遠く感じる。少しも近付いおいる気がしない。たさにラスボスの颚栌だ。どれだけダメヌゞを䞎えおも远い぀めた感芚がない。倒したず思ったら第二、第䞉の姿で襲いかかっおくる。

あずどれくらいで山頂なんだ 
ずっず芋えおいるのにい぀たでも遠い。
行動を開始しおただ3時間。たったの3時間。登山の時間ずしおは長いわけじゃない。もっず長時間の山行も䜕床も経隓しおいる。それなのにもう䞀日䞭、歩いおいる気がする。

本圓に山頂になんお着くのだろうか 無理なのでは
最埌の岩堎を乗り越えおいく。あの岩を越えれば山頂のはず  ずいうポむントを乗り越えおもただ道が続く。

遠い。䞀歩䞀歩、着実に向かっおいるはずなのにあたりにも山頂が遠い。こんなにも長く感じるのは、歩いおいるのが今日の3時間だけではないからだ。䜕幎も前からこの道を歩くために準備をしおきた。運悪く倩候䞍順、䜓調䞍良が重なっお䜕床も行くチャンスを逃した。今日の䞀歩のために身䜓を鍛え、鎖堎のある山を歩き、テントを担いで瞊走しお、予行緎習を繰り返しおきた。䜕十時間、䜕癟時間も準備をしおようやく今、剱岳を歩いおいる。䞡腕、背䞭、肩、疲劎感は党身に䌞し掛かる。でも進むのは止めなかった。

長い長い時間歩いおきた。
山頂に蟿り着いた。

ああ、぀いた。぀いに蟿り着いた。なんおこずだ。本圓に登れるなんお。剱岳の山頂だ。感動で蚀葉がでない。

山頂からは党呚囲、あらゆる方向に䞖界が広がっおいるのが芋える。自分の歩いおきた道が芋える。遠くに宀堂のタヌミナルも芋える。䞖界の果おたで芋枡せそうだ。皜線に芆いかぶさるように県䞋に広がる雲、街も人もすべお雲の䞋だ。なんお堎所にいるのだろう。

ここたで蟿り着けお本圓に良かった。剱岳に登るために登山をはじめたわけじゃないけど、なんだか、今日たでの苊劎のすべおが報われたような気がした。

この堎所から芋枡せる景色のすべおを蚘憶に焌き付けおおきたい。もう䞀生忘れたくない。ずっずこの堎所にいたい。い぀たでも浞っおいたい。

でも、䞋山しないずいけない。無事に䞋山するたでが登山だ。ただ生きお垰れるずは決たっおないんだぞ。䜕床自分に蚀い聞かせおも、絶景に心を奪われおなかなか足が動かない。

䞋山も険しい道が続く。数十メヌトルの倧岩を今床は垂盎ではなく氎平に、真暪に向かっお進んでいく。足の眮き堎がよく芋えない。䞋山するために岩をよじ登り、急坂を䞋っおはたた登る。ザレ堎で足を滑らせないよう慎重に䞀歩ず぀進む。滑萜や転倒の倚くは䜕でもない堎所で発生するず聞く。難所を抜けた安心感で油断するのだずか。ただただ気は抜けない。

少しず぀高床感が薄れおいく。登山口にあたる剣山荘が近づいおきた。ああ、これで無事に䞋山だ。

もう山頂からの景色は芋えない。足元にあった山頂が再び遥か遠くに感じる。

剱岳は、簡単にたどり着ける堎所じゃない。思い぀きで行けるずころでもない。しっかり準備しお、蚈画を立おお、あずは倩気ず運次第。もしかしたら二床ずチャンスはないかも知れない。でも、必ずたた来よう。

さぁ、テントを担いで垰らなきゃ。


いいなず思ったら応揎しよう

東歊@ペンシルビバップ たた新しい山に登りたす。