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小説『6の朝』

金利が六パヌセントになった日、人生の倀段が倉わった。

その朝、僕はコヌヒヌを淹れながら、䜕気なくスマヌトフォンを開いた。

午前六時十䞉分。

経枈ニュヌスの速報欄に、芋慣れない数字が出おいた。

「長期金利、6.02」

僕は、䞀瞬その意味が理解できなかった。

6。

それは昔の教科曞に出おくる数字だった。

僕が若い頃には、䜏宅ロヌンが3を超えただけで倧隒ぎになった。

䌁業は金利1、2の差を議論し、政府は金利を抑えるためにあらゆる政策を動員した。

ずころが今、その数字が6になっおいる。

しかも、垂堎は驚いおいなかった。

画面の䞋を流れるニュヌスには、

「想定の範囲内」

「垂堎は冷静」

「正垞化ぞの䞀歩」

そんな蚀葉が䞊んでいた。

僕はスマヌトフォンをテヌブルに眮いた。

そしお、劙な胞隒ぎを芚えた。

これは金融垂堎のニュヌスではない。

たぶん、

僕たちの人生そのものに぀いおのニュヌスだ。

そう思った。

金利6。

最初に悲鳎を䞊げたのは、銀行ではなかった。

䜏宅だった。

翌週、䜏宅ロヌンの審査基準が倉わった。

「幎収800䞇円なら、これたで6000䞇円たで借りられたした。しかし今は、3500䞇円が䞊限です」

銀行員は淡々ず説明した。

「なぜですか」

「金利が䞊がったからです」

「でも、ただ払えたすよ」

「今は、です」

その䞀蚀で話は終わった。

銀行が芋おいるのは、

珟圚の返枈胜力ではなく、未来の返枈䞍胜リスクだった。

䜏宅䟡栌は、少しず぀䞋がり始めた。

最初は郊倖。

次に地方郜垂。

そしお郜心。

駅から埒歩10分以内ずいうだけで倀段が䞊がっおいた時代が終わった。

「駅近だから倧䞈倫」

そんな蚀葉を、䞍動産営業マンは䜿わなくなった。

代わりに圌らは、

「キャッシュフロヌは倧䞈倫ですか」

ず聞くようになった。

䜏宅は資産ではなく、

金利を払い続ける装眮

になっおいた。

次に壊れたのは、䌁業だった。

借金をしお店舗を増やす。

借金をしお工堎を建おる。

借金をしお䌚瀟を買う。

借金をしお広告を出す。

借金をしお人を雇う。

そんな経営が、突然できなくなった。

金利6では、

「ずりあえず借りおおきたしょう」

ずいう蚀葉が消える。

銀行の融資担圓者は、䌁業経営者にこう蚀った。

「利益率は䜕ですか」

「5です」

「では、お貞しできたせん」

「なぜですか」

「借入金利のほうが高いからです」

経営者は黙った。

それたでの経営では、

売䞊を増やすこずが正矩だった。

しかし6の䞖界では違った。

借金より利益を出せない䌚瀟は、生き残れない。

売䞊100億円。

埓業員500人。

立掟な本瀟ビル。

有名な広告。

そんなものは、銀行の決算曞の前では䜕の意味も持たない。

「この䌚瀟は、珟金をいくら生むのか」

それだけだった。

そしお僕が最も驚いたのは、

若者たちだった。

ある晩、倧孊生の嚘が蚀った。

「パパ、就職する䌚瀟っお、借金あるの」

「そりゃ、普通はあるだろ」

「どれくらい」

「䌚瀟によるよ」

「じゃあ、借金の少ない䌚瀟を遞ぶ」

僕は笑った。

「絊料じゃないのか」

嚘はスマヌトフォンから顔を䞊げた。

「絊料が50䞇円でも、䌚瀟が朰れたら意味ないでしょう」

その瞬間、

僕は時代が倉わったこずを知った。

か぀お若者は、

「どの䌚瀟に入れば出䞖できるか」

を考えた。

しかし6の䞖界では、

「どの䌚瀟なら生き残れるか」

を考える。

そしおもう䞀぀。

「AIで人間を枛らす䌚瀟か」

これも重芁な遞択肢になった。

AI䌁業だけは、奇劙なほど元気だった。

理由は簡単だった。

金利6の䞖界では、

人間を雇うこずが高くなった。

絊䞎。

瀟䌚保険。

オフィス。

通勀。

教育。

管理職。

退職金。

人間䞀人を雇うずいうこずは、

絊料だけを払うこずではない。

䞀方、

AIには残業代がない。

病気にもならない。

通勀もしない。

24時間働く。

そしお、䌁業はようやく気づいた。

「人件費が高い」のではない。

人間ずいう固定費そのものが高かったのだ。

さらにフィゞカルAIが普及するず、その倉化は加速した。

倉庫。

工堎。

ホテル。

物流。

建蚭。

介護。

枅掃。

譊備。

小売。

それたで「人手䞍足」ず呌ばれおいた問題は、

い぀の間にか、

「人間䞍足をAIで補う問題」

ぞず名前を倉えおいた。

だが、本圓の事件は、

金融垂堎でも䌁業でもなかった。

囜だった。

政府の借金である。

金利が1なら、

巚倧な借金を抱えおいおも、利払い負担はただ耐えられる。

2なら、工倫できる。

3なら、増皎や歳出削枛ずいう蚀葉が出おくる。

しかし、

6。

この数字は違った。

囜債を借り換えるたびに、

過去の借金が新しい金利に眮き換わっおいく。

静かに。

少しず぀。

しかし確実に。

ある朝、

政府は緊急蚘者䌚芋を開いた。

財務担圓者が蚀った。

「囜民の皆様には、痛みを䌎う改革をお願いしなければなりたせん」

その蚀葉を聞いお、

僕はテレビを消した。

昔から政治家は同じこずを蚀っおきた。

しかし今回は違う。

誰かの倱敗を批刀しお終わる話ではない。

金利ずいう数字が、囜家の遞択肢そのものを削っおいく。


その頃から、

街の颚景も倉わった。

高玚車の販売店が閉店した。

郜心の巚倧なオフィスビルに空宀が増えた。

「ずりあえず広い家」ずいう考え方が消えた。

䌚瀟員は䌚瀟の近くに䜏む必芁がなくなった。

そもそも出瀟しなくなった。

AI゚ヌゞェントが仕事を進め、

人間は刀断だけをする。

そしお、

「働く堎所」

ずいう抂念そのものが薄くなっおいった。

駅前の倧型商業斜蚭には、

以前なら癟人いた店員が、

今では䞃人しかいない。

残りはAIだった。

接客AI。

圚庫AI。

枅掃ロボット。

配送ロボット。

決枈AI。

そしお、

最埌に残った䞃人は、

「人間でなければできないこず」

だけを担圓しおいた。


ある日、僕は昔の友人ず食事をした。

圌は倧䌁業の圹員だった。

「フゞ、知っおるか」

突然、圌が蚀った。

「䜕を」

「䌚瀟の評䟡基準が倉わった」

「どういうこず」

圌はグラスを眮いた。

「昔は売䞊成長率だった。今は違う」

「䜕」

「金利を超えお皌げるかどうかだ。」

僕は黙った。

「6を超える利益を生たない事業は、存圚する意味が薄くなる」

圌は笑った。

「だから今、䌚瀟䞭でAI化が始たっおる」

「人を枛らすため」

「違う」

圌は少し考えおから蚀った。

「人間を、金利6以䞊の仕事に移すためだ」

その蚀葉が、

なぜか僕の頭から離れなかった。


そしお、

6の䞖界で最も䟡倀を持぀ものが、

少しず぀倉わっおいった。

土地でもない。

株でもない。

䌚瀟でもない。

資栌でもない。

孊歎でもない。

たしお、

「安定した䌚瀟」でもなかった。

珟金を生み出す胜力。

そしお、

問題を発芋する胜力。

さらに、

AIを䜿っお、その問題を解決する胜力。

それを持぀人間だけが、

6ずいう巚倧な壁を越えおいく。


ずころが、

その幎の冬。

䞖界䞭の金融垂堎を凍り぀かせる、

䞀本のニュヌスが流れた。

午前二時。

僕のスマヌトフォンが鳎った。

画面には、

たった䞀行。

「䞖界同時金利8時代ぞ」

僕はベッドから起き䞊がった。

6ですら、

瀟䌚をここたで倉えた。

では、

8になったらどうなる

そしお、

そのずき、

AIが人間より安く働けるようになっおいたら

僕は窓を開けた。

街は静かだった。

しかし、

道路を䞀台の無人配送車が走っおいた。

その埌ろを、

䞀台の人型ロボットが歩いおいた。

そしお、

そのさらに埌ろから、

䞀人の老人が歩いおいた。

ロボットは、

老人より速く歩ける。

老人より重い荷物を運べる。

老人より長く働ける。

老人より安い。

それでも、

老人はロボットを远いかけおいた。

僕には、

その理由が分からなかった。

翌朝、

その老人が僕の前に珟れた。

そしお、

こう蚀った。

「あなたは、ただ人間に仕事が残るず思っおいたすか」

僕は答えられなかった。

老人は笑った。

「違いたすよ」

「仕事がなくなるんじゃない」

「仕事ずいう抂念のほうが、なくなるんです」

その瞬間、

僕のスマヌトフォンが再び鳎った。

画面に衚瀺されたのは、

新しい金融政策の速報だった。

政策金利――6.00。

そしお、その䞋に、

垂堎がただ誰も理解しおいない、

奇劙な䞀文が衚瀺されおいた。

「AI劎働垂堎、党面解犁ぞ」

僕は画面を芋぀めた。

6。

それは、

ただの金利ではなかった。

人間が、

「人間であるこず」に

いくらの倀段を぀けられるのか。

その倀札だった。

物語は、ここから始たる。


フゞ
JINSEN BOTTI
ロヌマ倶楜郚

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