Photo by
pome31
忘れえぬ人
あれは小学校6年生の春のこと
クラスの女の子達の多くが ピアノを習っていて
発表会の翌日には、その時いただいた花束を持ってきて
教卓に飾るということが流行っていました。
当時の担任の先生はまだ若く、可愛らしく
優しさと厳しさを備えた素敵な女性で
皆が先生を喜ばせたい
褒められたいと 切実に思うような憧れの存在でした。
それはもちろん、私にとっても。
色とりどりのバラや百合の花束は
子供の目から見ても豪華で美しく
教室全体が明るくなるようなオーラを放っていて
先生も「綺麗ね」と笑顔を見せておられました。
その話を私は母にしたのかどうか
ちょっと記憶にはないのだけれども・・・
ある日、「これ、学校に持っていったら?」と
庭先から戻った母の手には
ミヤコワスレの花が 5,6本ほど束ねられていて。
私はなんとなく気が進まなかったけれども
言われるままにそれを手にして登校し
花瓶にさして教卓の上へ。
皆の反応は・・・
薄かったように思います。
どう見てもバラのような華やかさはなく
寂しげで見劣りのするものだったのだから。
なんで、持って来ちゃったかな
居心地の悪い思いと、少々母を恨む気持ち。
でも・・・
先生は 教室に入ってきた途端
ぱっと輝く満面の笑みで 言ってくれました。
「私は この花が、大好きなの」
たぶん
今までで 一番の、とびきり素敵な笑顔で。
そのたった一言で
周りの空気は一変して柔らかいものとなり
私の心に光が射したことは 言うまでもありません。
それが
まだ30代という若さで
そののち肺炎で亡くなってしまった、先生の思い出。
今でも忘れることのできない
先生と、母と、私の
あたたかくて、少しせつない 花の記憶。
楚々として
ささやくように風に揺れる
優しいけれど、強さを秘めた
薄紫の 花の記憶。
