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女子になった俺に、犬と狼が懐いてくるんだが。⑧

前回はこちら!


気まずい沈黙が漂うも、このまま乾の席に座ったままでいるわけにもいかないだろう。
乾とは目を合わせないまま、弾かれたように立ち上がり、スクールバックを引っ掴みながら自分の席へ飛びつくように座る。

穴があったら入りたいとはこのことを言うのだろう。
誰か、俺が入った穴を、そのまま埋めてコンクリートで固めてくれ。

クスクスとした笑いが、クラス内の雰囲気を支配つつある中、こちらを気遣ってか、乾が何かを言いたげに口を開きかけたところ、教室の前側の扉が、ガラガラと音を立てながら開いた。

「ホームルーム始めるぞ。.....お前ら、どうした?」

クラス内の雰囲気に違和感を感じたのであろう、担任の出口が訝しげに問いかけてくる。
いや、そんなこと聞くなよ!
カラカラとのどが渇き、再び顔が熱くなってくるのを感じる。

「いや、別になんでもないよ先生。ただ、俺が遅刻ギリギリだったから、先生が来るの遅くて助かったなってさ。ほら、俺、遅刻しがちでしょ?」

乾が、誰かが何かを言う前に、反射的に答える。

「ん?そうか?...まぁ、なんでもないなら別にいい。」

思わず乾の方をちらりと見上げると、乾はこちらを見ながら、いかにも「俺、やってやりました!」みたいな笑みを浮かべながら、親指をグッと立てている。

その様子が少し可笑しくて、フフッと笑ってしまう。
気が付けば、先ほどまでの焦りはどこかへ行ってしまったようだ。
こいつ、いい奴だな。

そのままホームルームが終わり、授業が始まる。
午前中は移動教室もなく、ありふれた授業を受けることとなった。

久しぶりに授業というものを受けたが、意外と面白かったというのが感想だ。
俺が以前学生だったときは、授業中は寝ているか、窓の方を見てぼーっとしているかで、真面目に授業を聞くことは少なかったな。

学ぶということ自体に興味がなかったし、テストだって、授業を聞かずとも適当に勉強をしておけば、なんとなく点が取れたから、なおさら授業を聞く必要性がわからなかった。

ただ、一旦社会に出てみると、授業そのものの構成を考えている先生の努力もよくわかるし、学ぶ姿勢そのものが、学業で学ぶ一番重要なものだともわかっている。

だから、一つ腰を据えて授業を聞いてみたわけだが、わかりやすくて楽しかったというのが、一番の印象だった。

途中、明らかにカツラの先生や、一呼吸置くたびに特定の口癖が出る先生がいたのは少し気が散ったが。

そんなこんなで、あっと言う間に昼休みがやってきたわけだが、どうしよう。
バックにお弁当が入ってない。

いや、受け取っていないのだから、そりゃ当然ない訳だけども。
恐らくいつもの癖なのだろうか、バッグを漁って改めて気が付いてしまったわけだ。

普段はきっと、母にお弁当を作ってもらっているのだろうが、今日は急いで出てきた上に、何かしらを叫んでいた母を無視して、強行突破をしてきたのだから、当然お弁当なんて持っているわけがない。

あの時母が言いたかったのは、「お弁当忘れているわよ!」だったのだろうか。
それなら受け取っておけばよかったな。

後悔は先には立たない。
少し落ち込みつつも、バッグの中から財布を取り出し、小銭入れを覗くと、なけなしの500円玉と、その他小銭が数枚。

いや、シケてんなー。女子高生のお財布事情。
しかし、背に腹は代えられない。
このままお腹がすいたまま授業を受けるのは、耐えられそうにないからな。

それに、朝のこともあるし、クラスを離れるいい口実になる。
昼休み中、ずっといじられ続けるのはごめんだ。

財布を持ちながら立ち上がると、紬ちゃんが話しかけてくる。

「悠香ちゃん!一緒にご飯食べよ!.......あれ、悠香ちゃんお弁当は?」

「あ~、家に忘れてきちゃったみたい。購買で何か買ってこようかな!」

あははと笑ってごまかしながら、その場を離れようとすると、紬ちゃんも財布を取り出し、にこやかに続ける。

「じゃあ私も行こうかな!プリン食べたいし!」

いや、君がきたら教室に戻らなきゃいけなくなるじゃないか。

「あ、待って。お腹痛いかも!ちょっとトイレ行ってくる!」

こうなれば今回も強行突破だ。
適当な口実を置き去りながら、勢いよく走りだす。

「え、ちょっ!?悠香ちゃん?!」

そしてまた、走り出してから気が付くのだ。

あれ、購買どこにあるんだ?

もう強行突破はしないようにしようと、俺は心に誓った。
多分、もうやらないはずだ。...........たぶんね。


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