女子になった俺に、犬と狼が懐いてくるんだが。⑩
前回はこちら!
会計を済ませ、購買を大上と共に出る。
パンは、なけなしの小銭で何とか買うことができた。
メロンクリームパンに、トリュフたまごサンドと、かなり豪勢なくせに、値段は良心的だ。
普通にパン屋さんで購入するとすれば、おそらく2個で1000円弱は下らないだろう。
こういった激安価格設定は、学校内の購買の特権だろうが、果たして本当にうまいのか。
安かろう悪かろうでなければいいのだけど。
両手に持つパンを見て、財布の中を思い出す。
これで空腹は満たされるだろうが、しかしその代わりに、懐の寒さが半端じゃない。
いくら安いとは言え、貧乏人にとっては痛い出費だ。
社会人だった時は、給料もそれなりによく、お金の心配をすることは殆ど無かった為、こんな思いをするのは学生の時以来であり、えらく久しぶりだ。
あの時はバイトしつつも、何とかやりくりしていたっけ。
部活動もあったから、バイトができる時間も短く、そこまで稼げなかった覚えがある。
そう言えば、この身体は部活やバイトをやっていたりしたのだろうか。
そこらへんの身辺調査も、早いうちにやっておかないと、この先大変な目に遭うだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、突然大きな壁にぶつかる。
イタタと鼻をさすりながら上を見上げると、大上が立ち止まり、こちらを振り向いていた。
「ねぇ、痛いんだけど?」
「あぁ、すまない。…ところでなんだが……。…やはり、何でもない。」
「ちょっと、何?はっきり言ってくれないとモヤモヤするんだけど?」
でかい図体でナヨっとするなよ。
頼れる男かと思ったら、意外とそんなことないのか?
「…なら聞くが、お前、いつから一人称が『俺』になったんだ?」
「………え?……えっと、何のこと?…ちょ、ちょっとこっち来て!」
いきなりの通達に、目を白黒とさせながら、慌てで大上の腕をつかみ、人気のないところへ誘導するため、足早に歩き出す。
ちょっと待ってくれ、こいつ今なんて言った?
俺が『俺』と言ったって?
いつそんなこと、……あ、あの時か。
人混みに揉まれながら、腕を伸ばしていた時を思い返すと、確かに言っていた。
無意識に口走ってしまったことだったから、今まで忘れていたのだ。
思い出すと同時に、額から変な汗が吹き出してくる。
いや、別にバレちゃいけないとか、そんなことを厳密に思っていたわけではないが、何というか、イメージに関わってしまう。
俺は、この身体の元のイメージをなるべく崩したくないのだ。
何となくだが、心の片隅で、そんなことを強く思っている自分がいる。
元の人物がどこへ行ってしまったのか、全く皆目見当もつかないが、この子の中身が返ってきた場合、周りのイメージが、以前とあまりにもかけ離れていたら、可哀想だ。
イメージを守るためにも、どんな言い訳をしようか必死に考えているところ、大上は素直についてきながら訝しげな視線を向け、何かを言いたげな表情を見せるが、一度言葉を飲み込んで口を開く。
「すまない。詮索するようなことでも無かったな。…人の一人称なんて、個人の自由だ。今のは忘れてくれ。」
「..........…聴いてたの?…しっかり?」
質問を受けるも、俺の足は止まらない。
このまま話題を続けるには、少し人気がまだ多すぎる。
「…あぁ、なんだか、朝からいつもの七瀬らしくなかったからな。たまたま耳に入りやすかった。…ところで、どこまで行くんだ?」
おいおい、やっぱり違和感丸出しだったらしい。
いや、完璧に切り抜けられたとも一切思ってはいなかったが、男子に気が付かれたということは、女子友達なんて、今までの行動だけで、どこまで丸裸にされているのか、想像するのが怖いくらいだ。
問題は、このことをどこで話し合い、口止めをするかだが、どこがいいだろうか。
大上の質問を無視しつつも、どこかいい場所がないか、キョロキョロと辺りを見まわしてみる。
「おい、聴いているのか?…、まったく。こっちだ。」
大上はそんなことを言うと、俺を追い越し、立場を逆転させて、今度は俺を引っ張りながら歩き出す。
「あ、ちょっと!」
「人の目があると話しづらいのだろ?校舎端の階段を上って、屋上の扉前まで行けば、流石に誰もいないだろう。」
「あ、うん。」
ぐうの音も出ず、俺はただ大上に手を引かれていく。
俺はこの学校に来るのは今日が初めてだし、このまま大上についていった方が、理想の場所にたどり着けるだろう。
さっきもこの構図見たな、などと思いながら、ふと歩幅がきつくないことに気が付く。
この足長背高のっぽの歩幅に合わせたら、今の自分の身体では、ついていくのが大変なはずであろうに、全然そんなことがない。
こいつ、エスコートし慣れていやがる。
屋上の扉の前までは、到着するまでさほど時間はかからなかった。
着くなり、大上はこちらへ振り返り、壁に寄りかかりながら、何も言わず目線だけ投げてくる。
こちらが口を開くまで待つつもりなのだろう。
さて、どんな風に口止めをしようか。
俺は、大上を丸め込むために、頭を回転させながら、口を開いた。
普段は、考察系のnoteを投稿しています!
こちらの記事、おすすめなのでもし良かったら、是非ご覧ください!
スキ・フォロー・コメントお待ちしております!
