女子になった俺に、犬と狼が懐いてくるんだが。 ④
前回はこちら!
さて、母に色々聞いてみようと考えたが、何を聞こうか。
まさか、俺が誰なのかなんて、ストレートに聞くわけにもいかないだろう。
まあ、考えても始まらない。
何とかなるだろ。
っていうか、前髪邪魔だな!!!
目の前をふぁっさふぁっさ鬱陶しい!!
机の上にある、髪留めをイライラとしながら手に取り、自然な動作でそれを口に加え、慣れた手つきで髪を後ろへまとめ上げる。
あれ、俺髪の毛なんて結んだことないんだけどな。
なんでこんなに簡単にできるんだ?
そんな疑問を浮かべながら、慣れ親しんだドアノブを開け、廊下へ出てみる。
するとそこには、以前とどこも違わない、よく見知った実家の廊下と階段があった。
強いて言えば、去年実家に寄った時よりも、なんとなく綺麗な気がするくらいだ。
階段を降りると、エプロン姿の母親が、台所で洗い物をしているところだった。
「おはよう母さん。」
「おはよう。ほら、ちゃっちゃと食べちゃいなさい。あんた早く準備しないと遅刻するんじゃないの?」
「えっと…..遅刻?何に?」
「はぁ?あんた学校に決まってるでしょ!!」
「学校?…いやだって、もうとっくに社会人…….じゃなかったっけ?」
すると、母は呆れたようにため息をつく。
「何言ってんの、あんたまだ高校生でしょ!まだ寝ぼけてんのね!とりあえず顔洗ってきたら?」
「あぁ….うん。そうしてみるよ。」
そう答えると、母は怪訝そうな顔を一瞬見せたが、何も言わずにテーブルにつき、朝ごはんを食べ始めた。
…….怪しまれたか?
てか、高校生だって?
そりゃ体も軽いわけだ。
洗面台で、いつも通りの洗顔料を使って、顔を洗っていく。
冷たい感覚が心地よく、段々と頭が冴えてくるのがわかる。
そういえば、母も最期にあった時より若い気がするな。
となると…..過去か?
そうであれば、捨てられたはずの俺の机があることも、家の内装が綺麗になっていることも、母が若返っていることも辻褄が合う。
しかし、この身体は何だ?
俺だけがおかしい。
俺は、過去に女子だったことなんか一度もないのだから。
ならば一体、この身体は誰のものなのだろうか?
とりあえず、現在における、『悠馬』としての俺の所在を確認してみるかな?
顔を洗い終え、タオルで水気をふき取ると、乳液と化粧水をつけ、リビングへ戻り、母の向かい側に座る。
「ねぇ母さん、痩せた?」
「あら!わかる?褒めても何もでないわよ?チョコレートくらいしか。最近ダイエットしててねぇ。悠ちゃんも一緒にやる?」
そういうと、母は小躍りで冷蔵庫へ行き、チョコレートの小包装を手に取ると、にこやかに俺に渡してくる。
ところで、そんな場所にチョコレートなんて常備してたら、いつかダイエット失敗するんじゃないですかね?
「いや、お…..私はいいよ。そんなに太ってないし。」
あ、やべ。
これは、お母さんが太ってるって言いたいわけ?とキレられるパターンだ。
そう身構えていると、母は予想外な反応をとってくる。
「そうねぇ、悠ちゃんはもう少し食べないとね。栄養しっかり取らないと、後で後悔することになるわよ?女の子は体調管理難しいんだから。」
「え、……へぇ、そうなんだ。」
虚を突かれて、間の抜けた返答をしてしまう。
「あんた、さっきからどうしたの?体調悪いの?」
「いや!全然そんなことないよ!げんきげんき~。」
まずい、完全に挙動不審がバレてる。
話題を逸らさなければ。
「あぁ!そういえば!悠馬はどこに行ったんだろう!」
まずいな、焦りすぎて口走ったけど、唐突だったか?
すると、母はこれを聞いて、さらに怪訝な表情を強くする。
「悠馬って誰よ?」
それを聞いた瞬間、俺の頭から完全に血の気が引いた。
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