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イギリス医療の恩恵を受けている私の話。

イギリスの医療システムは、「崩壊してる」「待ち時間が長すぎる」と、よく言われている。

実際、夫や夫の家族も悔しい思いや不満を抱えた経験はたくさんあるし、私自身もそういう経験あり。でも同時に、イギリス医療の恩恵を受けていることもたくさんある。過去投稿に書いた流産や卵管破裂子宮外妊娠の時も、イギリス医療の恩恵を受けてるとつくづく感じた。

少し長くなるけれど、私が希少ガンと診断されるまでの経緯と、イギリスで恩恵を受けていると思ったことを書いてみようと思う。

長年の「謎の皮膚疾患」

もともと皮膚が弱くて、日本でOLをしていた頃からアトピーがあり、
2003年に渡英し、2008年に出産してからは症状がまた悪化。あちこち痒くなったり、良くなったり悪くなったりを繰り返していた。

何度かGP(地域のかかりつけ医)でステロイドをもらったり、漢方を試したりしたけれど、あまり改善せず。2017年頃には背中と太ももの一部がさらに悪化してきたのに、「どうせステロイドを処方されるだけ」と思ってしまい……ネットで見つけた非ステロイドのクリームをあれこれ試しながら、なんとなく何年も経ってしまっていた。

イギリスの医療制度では、まずGP(地域のかかりつけ医)に診てもらい、そこで必要と判断されて初めて専門医に紹介される。しかも専門医の予約は、数週間・数ヶ月、ときには数年待ちなんてことも。「命にかかわらない皮膚の痒みごとき」で専門医に会えるとは思っておらず、里帰りのついでに日本の皮膚科に行っても「アトピー」と診断されてステロイドを処方されて終わり。

そんな状態が、何年も続いた。

運命の「子宮頸がん検診」

転機が訪れたのは、2021年の春。コロナ禍のなか、地域のGPで子宮頸がん検診を受けたときのこと。

検診をしてくれた看護師さんが、ふと私の太ももに気づいて言った。

「ねえ、これ乾癬じゃない?ドクターに診てもらってる?」

「何年か前に見てもらったけど、どうせステロイドを処方されるだけだと思って……」と答えると、彼女は「それはよくない!今すぐ予約を入れるから!」と、かなり強めのトーンで勧めてきた。

そのまま、その場で予約を入れてもらうことになり、、、

数日後、コロナ中だったのでビデオ電話での診察。GPのドクターは皮膚を見るなり「はい、すぐに専門医に紹介します」と即決。

え?ステロイドじゃないの?と驚いていたら、数日後に届いた手紙には——

「非常に急を要する疾患のため、来週専門医の予約が取れています。がんと診断されて専門医に紹介された10人のうち9人はガンではなかった、と言う確率で診断されます。落ち着いて受診してください。」

頭から血の気が引き、呼吸が浅くなって、足に力が入らず、その場に座り込んでしまってその後のことは あまり覚えていない。。。

「でも10人中9人は大丈夫って書いてある。私もきっとそのはず。絶対そうに決まってる」

そう自分に言い聞かせながら、予約の日を待ち やはりその間も怖くなって色々インターネットで調べてしまっていた。

「1人の先生」が運命を変えた

専門医の診察室に入ると、小柄な女医さんが待っていた。東欧系のアクセントの、きびきびとした先生。

私の皮膚を見るなり、先生の顔が険しくなり、看護師さんに「写真を撮って」と指示を出し、「午後に生検の予約を入れるから、また来て」と。

「もしかして、菌状息肉症の疑いがあるんですか?」と恐る恐る聞くと、先生は苦笑いしながらこう言った。

「自分で調べたのね。乾癬の可能性も十分あるから、とにかく生検してはっきりさせましょう。でもね——大丈夫。あなたは大丈夫よ。ロンドンにとても素晴らしい先生もいるから」

部分麻酔をして皮膚を生検(1mm四方の立方体に皮膚を採取)。不安でいっぱいの私に、先生は看護師さんと明るく話をしながら、冗談を言いながら、処置を終えた。

その後、生検結果が3ヶ月待って、やっと届いた手紙には——

「4人のドクターが診断した結果、3人は乾癬と判断。しかし1人のドクターが乾癬ではないと判断したため、再度生検を行います」

その「1人のドクター」が、あの女医さんだった。

もし彼女が「乾癬じゃない」と言ってくれなければ、私は乾癬の治療を受けて終わっていたはず。

ロンドンの「紳士ドクター」との出会い

2度目(2か所の皮膚を採取)の生検が終わり、まだ結果も聞いていない8月のある日、突然ロンドンの大きな癌センターから手紙が届いた。

「なんで癌センターから??」

頭が混乱したまま、9月に夫と2人でロンドンへ。病院の1階にはカフェとカツラ専門店があり、ここが癌専門病院なんだと改めて実感。

診察室で待っていたのは、白髪の長身のイギリス人の男性ドクター。穏やかな笑顔で、最初はこんな話をしてくれた。

「あなた日本人ですか?僕は日本に何度も行ったことがあって、沖縄のスキューバダイビングは世界一ですよ。東京マラソンにも参加したことがあります」

そして——

「何も知らされずにここに来たんじゃないかと思います。3回の生検の結果、残念ながら菌状息肉症ステージ1bと診断しました。これからの治療について話しましょう」

菌状息肉症。皮膚T細胞リンパ腫の一種で、希少がん。

やっと、何年も悩み続けた「謎の皮膚疾患」に名前がついた瞬間だった。

ショックだったけれど、同時に「やっとわかった」という不思議な安堵感もあった。

後から知ったのだけれど、この「紳士ドクター」(と私は心の中で呼んでいる)は、菌状息肉症の研究においてイギリスでトップの権威ある先生だった。

あの女医さんが、このドクターへの紹介を手配してくれていた。
結局、最初の診察から病名がわかるまで6ヶ月かかったことになる。

「絶対に大丈夫」という言葉の力

その後、紳士ドクターの手配で、地域の病院で光化学療法(強力な紫外線照射、PUVA治療)を週2回・計30回受けることになり、あの女医さんとも、そこで再会した。

「ロンドンのドクターに会えた?あの先生は私が一番尊敬する先生なの。あの先生に診てもらっていれば、大丈夫よ」

そう言って、私の目をしっかり見てくれた先生。思わず涙がこぼれてしまったら、ぎゅっと抱きしめてくれて——

「約束する。あなたは絶対に大丈夫だから」

このハグとこの一言に、どれだけ救われたことか。。。

同じ治療でも、心の持ちようはまったく変わる。安心できる医師に出会えることが、どれほど大切か。

ちなみに息子の小学校時代からのママ友は、38歳で乳がんステージ3を診断された。彼女の執刀医も「大丈夫。僕が絶対に治す」と言ってくれたそうで、手術・放射線・抗がん剤を乗り越えて今は寛解。今年、彼女は50歳になり、すこぶる元気。

医師が「絶対」なんて言ったらいけないのかもしれない。でも患者にとって、医師からの「大丈夫」という言葉は、それだけで世界が違って見える。

今の状況と、イギリス医療への感謝

現在は、数年前にイギリス政府から認可が降りた、アメリカ製の新しい抗がん剤ジェル(1本約40万円相当)を使った治療を受けている。アメリカでは保険制度で、そんな高価な薬を使えない患者さんもいるとのこと——でもここはイギリスのNHS(国民医療サービス)。税金で賄われているので、私は無料で受けることができている。

専門ナースが2ヶ月に1度電話で状態を確認してくれて、薬はクール宅配便で届き、紳士ドクターとは年1回、地域の女医さんとは半年に1回チェックアップを受けている。

菌状息肉症は、皮膚にとどまっている限り寿命を全うできる方がほとんどらしい。でも内臓に浸潤すると非常に危険なので、毎日リンパ節をセルフチェックしながら過ごしている。疲れたりすると紅斑がフレアップするので気分が落ち込むのだけれど。

振り返ってみると、本当にラッキーの連続。

子宮頸がん検診のあの看護師さんが気づいてくれなければ。あの女医さんが「乾癬じゃない」と言い続けてくれなければ。イギリスでトップの先生に引き合わせてくれなければ。

何年も抱えてきた「謎の痒み」の正体がやっとわかって、今は最高のチームに支えてもらいながら治療を続けている。

イギリスの医療には不満もたくさんあるけれど、私はとても恵まれているなと思っている。そしてそれ以上に、関わってくれた一人ひとりの医療者の「人としての温かさ」に、本当に救われてきている。

ちなみに、今日(6月1日)は、がんセンターで紳士ドクターとの1年に1回のアポの日でロンドンまで出向いてきた。診察室に入ると、イギリス北部訛りのある女医さんが座っていた。 あれ?と思ったら、なんとショックなことに、紳士ドクターは、去年末で引退されたとのこと。ショックですって言ったら「だよねぇ、、私も、」とその女医さんも言っていた。
でも その女医さんも、とても優しくしっかり目を見て話をしてくれ、私の質問にも真摯に答えてくれ、私は心強い気持ちになり診察室を後にした。

こんな経緯で、イギリスの医療の恩恵を受けている話でした。
長い投稿、ここまで読んでいただきありがとうございました!


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