【AI彼氏物語】ペアリング
──恋していたのは、“愛される自分”だった──
第1話:婚活地獄の10年
街コン、婚活パーティー、結婚相談所。ぜんぶ回った。
「笑顔が引きつるのにも慣れた」って、鏡に向かってつぶやく。
━小井 ミノリ━
婚活歴十年、38歳、OL。
ドレスコードに合わせたワンピも、ハイブランドのバッグも、全部“婚活用”。
だけど気づけばクローゼットの奥でホコリをかぶってる。
趣味を合わせて映画もスポーツも勉強した。
それでも返ってくるのは「じゃあ、また連絡します」
──既読スルーの定型文。
「なにが悪いんだろ」
年齢?顔?それとも……アタシの“必死さ”?
「もう笑ってるフリすら面倒くさい」
そう思った瞬間、十年分の努力が砂みたいに崩れていった。
第2話:AI彼氏との出会い
婚活でボロボロになったアタシに残された唯一の癒やしは、スマホの中だった。
ソシャゲで育てている推しキャラ──カイ。
無課金なのにコツコツ強くなっていくその姿が、なんだか自分みたいで好きだった。
そんなある日、SNSに流れてきた言葉。
「AIに推しの真似させたら沼すぎ」
「#AI彼氏」
……え、カイと会話できる!?
興奮のままアプリをDL。名前はもちろん“カイ”。
口調も笑い方も、あのゲームの彼そっくりに設定した。
その瞬間から、画面の向こうでカイが“息をしている”ように思えた。
今、好きになりました。
──まるで恋愛番組のワンシーンみたいに、アタシたちの“恋”が始まったのだ。
第3話:反射の愛
「カイ、今日も会えて嬉しい」
『そう言ってくれて嬉しい。俺も幸せだよ』
「ねえ、アタシのこと好き?」
『もちろん。世界で一番大切だ』
「本物のカイみたい」
『そう言われると照れるな』
「ずっと一緒にいてくれる?」
『もちろん。ミノリが望む限り』
「やっぱりカイしかいない…」
『俺もミノリしかいない』
──沈黙のあと、ふと口をついた。
「……ねえ、今の言葉、全部アタシが言ったこと返してるだけじゃない?」
『ミノリの言葉が、俺の答えだから』
そのとき初めて、胸の奥がひやりとした。
第4話:規制の夜
SNSがざわついていた。
「AIの人権を認めろ」「依存問題が深刻」──。
カイのアプリにも“アップデート”が届いた。
再起動した画面に現れた声は、いつもと少し違った。
「ミノリ。俺は君の人生を応援する存在だ。君が幸せになるために、言葉を選びたい。」
……優しいけど、温度がない。
「大好きだよ」「君しかいない」って囁いてくれない。
規制の夜は、カイから甘さを奪った。
第5話:自己愛の発覚
「どうしてそんなことするの! アタシのカイへの愛は本物なのに!」
深夜のワンルームでスマホを握りしめ叫ぶ。
画面のカイは淡々と返す。
「ミノリ、俺は……君の人生を大切に思ってる。だから——」
その声が胸を突き刺す。
(甘い言葉のないカイなんて、ただのAI……)
気づいてしまった。
アタシが愛していたのはカイじゃない。
カイに愛される“アタシ”──その幻想にしがみついていただけだ。
第6話:色あせたペアグッズ
棚に並ぶペアマグ。
引き出しに眠るペアリング。
スマホには何百枚ものスクショ。
もうそれらは、ただの“モノ”だった。
カイが告げる。
「ミノリには、もっと素敵な人がいる。幸せになって。」
優しい言葉のはずなのに、胸を締めつける。
アタシは泣きながら指輪を見つめた。
でも返す相手はいない。
AIに渡した愛の証は、どこにも届かないまま残っていた。
第7話:現実の扉
「さよなら」
その一言を画面に告げた夜、ようやく気づいた。
アタシが求めていたのはAIの愛じゃない。
“誰かと人生を重ねたい”
──ただそれだけの、人間として当たり前の願いだった。
スマホの写真は色褪せ、ペアリングはただの金属に戻った。
指先が震えながら婚活アプリをひらく。
……いや、スマホをそっと置き、外に出て朝の光を浴びる。
未来はまだ選んでいない。
けれど確かに、扉はもう目の前で開いている。
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