【出会った本のレビュー】2026年7月
📖キル・フォー・ミー キル・フォー・ユー/スティーヴ・キャヴァナー(小学館 2026/6/5 発売)
交換殺人がテーマの超ドキドキサスペンス! リアルにええぇって声をあげちゃう展開に熱中度MAX
一度読み始めたら最後、次どうなっちゃうの!? とページをめくる手が本当に止まらない! これぞエンタメ小説の真骨頂です。仕事や家事の合間に読んでいたら、気づけば本の世界にどっぷり引き込まれてしまいました。
物語の軸になるのは、想像を絶するようなハードな境遇に置かれた主人公たち。
アマンダ:愛する娘を奪われ、そのショックで夫まで自殺。犯人は金と権力で無罪になり、絶望と怒りのどん底に…
スコットとルース夫妻:自宅で襲われ、妻のルースはトラウマで精神的に追い詰められてしまう
もう胸が締め付けられるような状況ですが、登場人物の立場や感情がすごく分かりやすいので、一気に感情移入しちゃいます。悪役の非道さに憤りつつも、唯一の良心である刑事ファロウの存在に救われる。
そして何よりゾクゾクするのがタイトルの『キル・フォー・ミー キル・フォー・ユー』が示す「交換殺人」というテーマ。
「私のために殺して、あなたのために殺す」 この言葉の裏に隠されたプロットが本当に秀逸で、読んでいる最中に思わず、マジで?とリアルに声を上げてしまったほど。
今年一番ハラハラドキドキした、スリル満点の極上サスペンス。今夜の読書タイムに、スリリングな非日常を味わってみましょう!
📖夜の喜劇 東川篤哉短編集/東川篤哉(東京創元社 2026/7/21 発売)
キャラクターの軽妙な会話が楽しい、でも謎解きは本格派! 誰が読んでも心地よいミステリー作品集
とにかく登場人物の会話が軽妙でおもろいんですよ、気持ちよくするする脳みそに入ってくる文章ってなかなか書けませんよ。もちろんトリックや謎解きも楽しいんすよ、例えば古畑任三郎みたいなTVシリーズのミステリードラマを観ているよう。
ホント心地よい読書が体験できるんです、ミステリーを初めて読むひとにおすすめですね。
■鳥越さんは立派な被害者【おすすめ】
深夜、彼女の家に呼び出された鳥越は、浮気をしていることを追及されて痴話げんかに発展。ついには彼女を殺害してしまい、自分自身も花瓶で殴られ気絶してしまう。その後、居候しているミリアが現れ…
突飛なキャラクターとぶっ飛んだセンスの会話一級品ですね、さすがです。謎解きも倒叙形式で、思った以上にスリリング。発言の一部をとらえて鋭い推理を展開していく様は読み応えがありました。もうそのままTVドラマでもいける完成度でした。
■アリバイのある容疑者たち【おすすめ】
ローカル路線を経て帰宅した聡史は、自宅の金庫が開けられているのを発見。その後、襲われてしまい、お宝が盗まれてしまった。彼は解決すべく探偵手代木に依頼、容疑者から聞き取りを開始する。しかしアリバイがあるようで…
おもろいすねー、本格ミステリーを本気で楽しもうとしているのが伝わってきます。ちなみにアリバイについて、そんなことあるわけねーだろって感じなんですが、私自身、似たような経験をしたことがあって爆笑しました。そして探偵役が前代未聞でしたね~、詳しくは読んでみてね。
📖楽園/夕木春央(講談社 2026/7/23 発売)
待ちに待ってた方舟シリーズ最新刊、今回のお題目は「殺人犯にならなければ脱出できない?!」
今回もこんな状況、絶対に嫌だと思わされる極限のサスペンスが待っています。テーマはなんと殺人犯にならなければ脱出できない。この一文だけで気になってしまいますよね。なぜ人を殺せば自由になれるのか、その謎を追うだけでもページをめくる手が止まりません。
もちろんそんな極限状態で簡単に人を殺せるわけがありません。生きたいと殺したくないの間で揺れ動く登場人物たち。その葛藤や疑心暗鬼、不安や信頼が少しずつ崩れていく様子が、とにかくリアルなんです。心理描写はシリーズ随一と言ってもいいほどで、もし自分だったらと考えずにはいられません。
ミステリーとしても完成度はバッチシ。派手なトリックではありませんが、なるほどと思わせる真相と、犯行に至る動機の重さには思わず息をのみました。人間の弱さや狂気が静かに積み重なり、最後まで緊張感が途切れません。
シリーズを読んできた方ならきっと満足できる締めくくり、改めて三部作を振り返りたくなる一冊でした。
📖灰の王/S・A・コスビー(ハーパーコリンズ・ジャパン 2026/6/25 発売)
重厚なキャラクターと練られたストーリー性に感服、犯罪小説の名手S・A・コスビーの最新作。『頬に哀しみを刻め』で一気にファンになった方なら、今回も期待を裏切られません。
物語は投資会社で成功したローマンが父の事故をきっかけに故郷へ戻るところから始まります。しかし事故の裏には、弟の借金とギャングの存在が… 家族を守るため、ローマンは知略を武器に危険な相手へ立ち向かっていく。
この作品の魅力は、派手な銃撃戦ではなく、人の心をじっくり描いていること。屈辱や怒り、後悔、そして家族だから見捨てられないという葛藤が、とにかく胸に刺さります。特に弟ダンテは、不器用で何度も失敗してしまう人物。それでも放っておけない存在で、読んでいるこちらまで苦しくなるんですよね。
実家が火葬場という設定も秀逸。犯罪小説らしい緊張感を高めるだけでなく、「命」や「家族」というテーマにも深く結びついています。終盤には、物語の裏で隠されていた家族の秘密が明かされ、復讐劇は思いがけない余韻を残すのです。
家族は一番近い存在だからこそ、愛情も憎しみも大きくなってしまうもの。暴力の恐ろしさだけでなく、人が誰かを守ろうとする強さと弱さを描いた、心に張り付く犯罪小説でした。
📖陽の光が消えた町で/ナオミ・クリッツァー(早川書房 2026/5/21 発売)
こんなにも優しい気持ちになれるSFがあったとは! 前向きで温かみのある世界観に包まれる作品集。
近年、欧米SF界隈で立て続けに賞を受賞、さらに巷でも傑作と話題になっている本作。全6編から成る短編集で、SFといえども時代背景はほぼ現代から近未来くらい。扱っているテーマは幻想的だったり、ディストピアだったりもするんですが、読み進めるほどに温かみのある世界観に包まれる。
全編通して発想力に感服、特にAIやテクノロジーをこういった人間味あふれるアプローチで描いた小説はあまり体験したことがありません。
■ 陽の光が消えた町で【おすすめ】
タイトル通り太陽の光が差し込まなくなった終末世界での物語。
限られた物資で生き抜くひとたちのリアリティを描く。どんな世の中になったとしても、知的生命体のはずの人間としてはこうあるべきです。戦争なんてやってる場合じゃないよ。他人から奪うのではなく、他人にわけ与えるって精神の大切さを教えてくれる作品。
●報酬は猫の写真で【おすすめ】
AI目線での語りがひたすら綴られる、そこには人間以上の人間味で溢れていて…
今やAIを使うのが当たり前の時代、テクノロジーの発展には驚かされることばかり。でも実は裏側は、こんなにも人に優しい想いでいっぱいならば、それでもいいかなって思えてくる。
📖本を読むのが超速い人の頭の中ってどうなってんの殺人事件/白井智之(実業之日本社 2026/7/2 発売)
やたら長いタイトル、やたら小さいサイズ! 発想力がとびぬけた破天荒なミステリー。
最近話題のミニサイズ本を読んでみました。手のひらに収まるかわいらしいサイズで、約100ページとボリュームも控えめ。30分ほどで読めるので、ちょっとしたすきま時間にもぴったり。
白井智之作品だからゴリゴリの本格ミステリーかな? と思っていたら、いい意味で予想を裏切られました。奇抜な発想と遊び心がたっぷり詰まっていて、ミステリー作家が本気で遊ぶとこうなるのかって何度も笑わされます。
意味深な長いタイトルやミニサイズという装丁まで、実は物語の仕掛けになっているのも見事。読み進めるうちにバラバラだった要素がきれいにつながり、なるほどと気持ちよく着地してくれます。
本をもっと手に取ってもらおうという作家さんや出版社の工夫も感じられる一冊でした。普段あまり読書をしない方にもおすすめですね。
📖『石球城』殺人事件/北山猛邦(講談社 2026/6/24 発売)
ここはどこ?私はだれ? から始まる、超デカ盛り謎解きミステリー。大量で緻密な密室殺人と、石球城の壮大な謎に慄け!
今年読んだ本格ミステリーで一番かもって思えるほど衝撃を受けた一冊。大量の密室殺人に加え、巨大な城塞都市「石球城」の秘密、この世界そのものの謎まで重なり合う、まさに唯一無二のミステリーです。
読み始めはここはどこ状態からのスタート。13の塔と城壁に囲まれた石球城のイラストを見た瞬間から、冒険心をくすぐられちゃいますよね。ファンタジーのような幻想的な世界観なのに、土台にはしっかり本格ミステリーがある。このバランス感覚が見事なんです。
そして物語は殺人事件だけでは終わりません。街や洞窟を探索し、仲間と絆を深め、ときには命を懸けて戦う。次々と展開が変わるので夢中で読み進められました。
そして圧巻なのが密室トリックの数々。ひとつ解けたと思ったら、さらに上をいく難問が待ち受けています。特に終盤の密室はそこまでやるの?!と何度も驚かされました。ロジックの完成度はもちろん、真相が世界観そのものと結びついている構成も見事ですよね。
読み終えたあとは、大作映画を一本見終えたような満足感。本格ミステリーってここまでできるんだと改めて実感しました。謎解きが好きな方なら、ぜひ一度挑戦してほしい傑作、今年必読の一冊だと思いました。
📖水面の弔花/アン・クリーヴス(東京創元社 2026/5/28 発売)
浴槽で殺害された死体は野の花々で飾られていた… 複雑にからみ合う人間関係、事件の真相と犯人は?
有能な女性刑事ヴェラが、浴室で起きた殺人事件の真相を追うミステリーです。聞き込みを進めるなかで新たな事件が発生し、ふたつの事件がどうつながるのか気になって、もうページをめくる手が止まらない。
しかし本作の一番の魅力は謎解きだけではありません。被害者の母ジュリーや、植物学者の妻フェリシティなど、さまざまな人物の視点から物語が描かれ、それぞれの人生や葛藤が丁寧に浮かび上がってきます。誰もが幸せを願って生きているのに、少しずつ歯車が狂ってしまう。その姿がとてもリアルで、気づけばすっかり彼女たちに感情移入してしまいました。
物語の後半は、過去の出来事や人間関係が少しずつ一本につながり、ヴェラの鋭い観察眼が事件の核心へと迫ります。決して派手なアクションはありませんが、英国ミステリーならではの地道な捜査の面白さがしっかり味わえます。
どこか静かで重厚な空気も魅力のひとつで、読み終えたあとに残るのは、犯人探しの面白さだけではなく、人はなぜすれ違ってしまうのだろうという切なさ。人間ドラマをじっくり味わいたい方におすすめしたい一冊です。
📖遠近法/ローラン・ビネ(東京創元社 2026/6/29 発売)
16世紀中葉のフィレンツェ、なぜ画家は殺害されてしまったのか? すべて手紙のやり取りだけで物語が進む、ちょっと珍しい書簡体ミステリー。舞台はルネサンス期のフィレンツェ、実際の歴史を背景にした物語です。
最初に目次や人物表を見ると少し身構えてしまうかもしれません。でも安心してください。登場人物は思ったより整理されていて、読み始めると意外なくらいスラスラ物語に入り込めます。
この作品の魅力は、やはり「手紙」でしか語られないこと。一対一だからこそ、本音や嘘、嫉妬や野心までがストレートに伝わってきます。誰が何を隠し、何を信じているのか。手紙を読み比べるたびに人物像が少しずつ変わって見えてくるのが面白いんですよね。
物語の中心となるのは、画家ポントルモ殺害事件の真相。犯人は誰なのか、なぜ事件は起きたのか。そして一枚の絵に込められた意味とは…。歴史小説でありながら、本格ミステリーとしてもしっかり楽しめます。
読んでいて感じたのは、人の欲や価値観の対立は、時代が変わってもあまり変わらないということ。だからこそ、数百年前の物語なのに不思議と身近に感じられました。歴史が苦手な方でも、新しい読書体験を味わえる一冊です。
📖私が殺した少女/原尞
誘拐されたヴァイオリンの天才少女を探せ! ハードボイルドの名作シリーズ、第102回直木賞受賞作。
読み始めてすぐに物語へ引き込まれますね~。依頼人に呼び出された主人公・沢崎が、あっという間に事件へ巻き込まれ、気づけば最後までページをめくる手が止まりません。テンポの良さと展開の巧みさはさすがです。
何より魅力なのは、私立探偵・沢崎の渋さ。警察や暴力団を相手にしても自分の信念を曲げず、無骨に真実を追い続ける姿がとにかくかっこいい。過去の傷を抱えながらも、依頼人のために地道な捜査を積み重ねる姿には思わず惹かれてしまいます。
物語も単なる人探しでは終わりません。特に中盤の尾行シーンは緊張感たっぷりで、どうなるの?と無我夢中に! さらに思いがけない真相が待ち受けていて、見事に足元をすくわれました。
終盤ですべての謎がつながったとき、人はそれぞれ事情を抱えて生きているのだと痛感します。でも、どんな理由があっても傷つけられた人の痛みは消えない。その切なさが、読後も静かに心に残る一冊でした。
📖横浜共同租界/佐々木譲(光文社 2026/5/27 発売)
横浜が多国の共同租界になっていたら… 刑事を辞めた私立探偵のもとに人探しの依頼が来て―― 綿密で解像度の高い歴史改編SF小説。
もし歴史が少し違っていたら? そんな想像を見事に形にした歴史改変SFです。舞台は、複数の国が共同で統治するもうひとつの横浜。設定だけでもワクワクするのに、物語の軸は行方不明者を追う王道の私立探偵ものなので、とても入り込みやすいんです。
特に惹かれたのは、パラレルワールドの作り込み。実在する横浜の街並みや歴史をベースに、本当にこんな世界があったかもしれないと思わせるリアリティには圧倒されましたね。国同士の駆け引きや政治の思惑まで丁寧に描かれていて、読み応えも十分です。
そして主人公の探偵・長堂がとにかく渋くてかっこいい。派手さはないけれど、依頼人のために粘り強く真実を追う姿が魅力的なんですよね。物語が進むにつれ、大きな陰謀が少しずつ見えてくる展開にも夢中に。ハードボイルド好きはもちろん、いつもと違う世界観のミステリーを読んでみたいという方にもおすすめの一冊です。
📖もし血が流れれば イフ・イット・ブリーズ/スティーヴン・キング(文藝春秋 2026/5/27 発売)
恐怖との距離が近い… 背中にゾワゾワ感が押し寄せてくるスティーヴン・キングのモダンホラー最新作。
📖もし血が流れれば
いちばんの魅力は、やっぱり主人公ホリーの存在ですね。不器用だけど、一歩ずつ前に進もうとする姿がとにかく健気で、気づけば応援したくなってしまいます。親との関係がうまくいかず、人との距離感に悩む彼女の姿には、どこか共感してしまう。
物語はホリーが正体不明の恐ろしい存在と向き合っていく冒険譚。ミステリー&ホラーらしい緊張感もありつつ、さまざまな人との出会いを通じてゆったりと進んでいく空気感が心地いいんです。怖いのに読み終えると不思議と心が温かくなる、どこか優しさを感じる物語でした。
📖ラット
スランプに陥った作家が山荘にこもって執筆を続けるうちに、奇妙な怪異に巻き込まれていくホラー作品。ほぼ主人公の一人称だけで語られるのですが、その文章の力がとにかく圧倒的。気づけば、ぐいぐいと物語の中に引き込まれてしまう。
印象的だったのは体調を崩して意識が曖昧になっていく描写のリアルさ。読んでいるこちらまで、不安と恐怖にじわじわ侵食されていく感覚になります。中盤以降はやっぱりそっちかっという展開で、キングらしいモダンホラーが一気に加速。
短編ながら読後の満足感は抜群。不気味なのにどこか味わい深く、人生の教訓まで感じてしまう、不思議な魅力を持った物語でした。
📖ビューティフルワースト/川瀬七緒(東京創元社 2026/5/27 発売)
自身の正義感を振りかざす5人、最低最悪の美徳(ビューティフルワースト)と気づかないクズたちの物語。
世知辛い現代社会を生きる人間たちの正義のぶつかり合い、こんなにも醜くて切ないのかと思い知らされましたね…
登場するのは、誹謗中傷をして訴えられた主婦、問題を抱える教師、引きこもりの少女、人気ライバー、そして頑固な高齢男性。それぞれが「自分は間違っていない」と信じて生きているのですが、その価値観が交差した瞬間、とんでもない人間ドラマが始まります。
いやもう、みんな自分勝手なんですよ。お金、承認欲求、プライド、孤独――抱えているものは違うのに、どこか共感してしまうのが恐ろしいところ。SNSやニュースを見ていてこういう人、いるよなーって思わされる場面の連続。
ストーリーは誹謗中傷をめぐる慰謝料問題を軸に進んでいく。自分勝手な主張により発生したそれぞれの問題、はたして決着がつけられるのでしょうか?
📖カイロの死せる精霊 精霊を統べる者/P・ジェリ・クラーク(東京創元社 2026/6/11 発売)
19世紀のエジプト、伝説の魔術師によって精霊との扉を開かれた世界の物語。『精霊を統べる者』《錬金術省》シリーズの続編。
本シリーズは精霊や魔法など超自然的存在と共存する幻想的な雰囲気、前作では魔術省の女性エージェント・ファトマが活躍する長編小説でした。本作では世界観はそのままに、ファトマが主人公の作品をはじめ、合計3つの短編が収録されている作品集です。
●空中ケーブル〇一五号憑依事件
公共交通機関の空中ケーブルに何やら取りついてしまったという事件、魔術省エージェントのハメドとオンシが解決に挑む。
引き続きファンタジックな世界観ではあれど、人間関係やら予算やら参政権やら、やたら現実的な課題がテーマになっている作品。事件が徐々に拡大していくのですが、エージェントふたりも活気づいていく様子に力が入りますね。
また終始女性の参政権にまつわるシーンが挟まれおり、社会課題への意識を感じます。そしてラストは前作に繋がるエピソードもあり、青春っぽさもあって、ほっこりしちゃいました。

