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日本はSoft Defined Radioの研究環境が地雷だらけ


昔から日本の電波法は厳しい

 私が若い頃から,日本の電波に関する法律は厳しいと聞いておりました.小さい頃は,パソコンに課せられていたVCCI規格(いわゆるEMC規格).各パソコンメーカーがVCCI規格に対する適合を競い合ってました(NECよりシャープの方が高い規制をクリアーしていたはず(X1turboとかX68000とか)).他にも,電波に関する法律は総務省が管轄で,世界基準よりも厳しい基準で運用されています.自動車開発エンジニアだった頃には,ミリ波レーダーの話もたくさん見聞きしたり,開発の現場にも立ち会いましたが,日本市場向けだけミリ波レーダーの周波数が異なるためにリリースが遅くなったとか,そんな話はザラでした.
 一方,インターネットが当たり前になった現代でも無線技術は社会生活に不可欠なものとなっております.更に,最近の無線機は,Soft Defined Radio(SDR)タイプが中心となっております.ものすごく多機能,高性能です.アマチュア無線機であれば,現行機種のほとんどがSDRタイプになっています.

日本ではSoft Defined Radioの自由が無い現実

 その一方,数千円から始められるSDRキットも出ております.もちろん,技適シールなんて貼られておりません.すなわち,
「総務省の基準をクリアーしていることが認められない機材で電波を発射した瞬間に不法開局となり,電波法違反で1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金(実刑のみ,執行猶予無し)」
です.私を含め,電波や周期的な波形を扱う研究者にとっては,SDRは研究ネタが詰まっている宝の山です.しかし,うっかりすれば人生を詰んでしまうリスクと隣り合わせです.毎日が地雷除去の気分です.
 情報処理学会で,こんな論文が出ておりました.以下PDFを直リンク.
「インターネットとオープンな無線技術の今後」
(力武健次(力武健次技術士事務所,GMOペパボ株式会社 ペパボ研究所))

https://rand.pepabo.com/papers/iot51-jj1bdx.pdf

この論文の中で,私が首を何度も上下に振るしかなかった,共感した一文を引用させて頂きます.

すでに21世紀から無線機はSDR化に伴い単機能から複合機能化そしてコンピュータによる仮想化へと向かっており,従来の無線技術応用製品もSDRとして作られることが一般的になっている.受信機だけでなく送信機のSDR化も進み,電波をハックする行為が技術的にも経済的にも誰でも可能な状況になりつつある.このSDR普及の状況下においては,使う可能性のあるすべての方式を事前に網羅して許可を受けた上で無線局を運用するというde jure原則のみに依拠した日本の1950年以来の電波法による電波監理体制は維持が困難になっていると言わざるを得ない.有害な混信防止の抑止という大原則を守りつつ,より自由な電波の利用について,現在のような例外として認める方式ではなく法律の根幹原則から見直して変えていかなければ,技術の発展に日本だけ付いていけなくなっているという状況が今後も続くであろう.

力武健次,インターネットとオープンな無線技術の今後,情報処理学会研究報告, 2020. 

高等教育の分野でいえば,無線機メーカーの技術者が大学教員になった場合のように「メーカーでの有形無形のノウハウを使って研究を進める」ならばともかく,そうでない研究者が新たに無線工学の分野に足を踏み入れるには「最初の一歩を踏み出すつま先には地雷が既に仕掛けられている」という状況です.いわんや,趣味で電波の送受信をしようとしている人をや.
 この電波法という名の地雷を除去する方法を考えてみると…例えば,擬似空中線(ダミーロード)をアンテナ端子に接続して電波の発射が生じないようにしつつ,発射電波の回り込みを阻止しつつ受信も同時に出来るような回路を整えてから,初めてSDRキットやGNU Radioを使うことが出来るようになるという…なんというか,「最初に足元の地雷除去をしてから仕事を始めましょう」と言わんばかりのこの状況.電波は有限な資源。故に資源の無駄使いをしてきた人間達のせいで今の日本社会になってしまった。私が小学生だった1980年代は日本人は科学技術に対して好奇心が旺盛だったのに、その勢いはどこへ消えてしまったのか。

今の日本にしてしまった社会人達のツケを除去したい

 確かに不法電波はいけません.今でも,頻繁に取り締まられているアジア系外国製無線機の不法利用や,市民ラジオの不法改造を大型貨物車両に搭載して走行しながらノイズをまき散らしながら走行している状況は,決して許されるものではありません.1か月の間に四アマ,三陸特の両方の講義を集中的に受講して感じた事です.
 一方で,そういう時代背景があるために,今の日本の無線工学に関する科学技術振興が諸外国より遅れているという状況もまた真なり,と,私は感じます.
 今回のこの記事が出来た背景は,私自身の研究テーマを思案していた際に思い浮かんだ事を書き留めておこうとしたことがあります.実は,私自身の研究分野の1つに「廉価なシステム構成で実現可能な高精度周波数解析手法」があります.特許も出願しています(昨年夏に出願して,今朝,優先出願に関する弁理士さんとの打ち合わせも実施しました).この研究分野をアマチュア無線も含めた無線工学に活かせればと考えていた中で,このnoteのネタが出来ました.
 今後,自分の研究テーマを広げていくために,近畿総合通信局へ問い合わせて,安全に研究を進めていくための相談を継続しながら,研究費によるSDR開発環境の導入と,研究室としての無線局の開局,主任無線従事者(=自分)の届出,卒研生の監督を出来るように実現したいと考えています.その中で,日本を今の状況にしてしまった社会人達のツケ(という名の「地雷」)を除去しながら,日本の無線分野(アマチュア,業務問わず)の発展に高等教育の現場から貢献したいと考えています.

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