【エッセイ】本当の優しさって?
ウルトラマンは、なぜ怪獣を倒すのか?
地球守るため?人類を守るため?
地球人はみんな「ありがとう!」とウルトラマンに感謝していた。
けれど、ウルトラマンがなぜ戦ったのかを知る人はいないのではないか。
小学生になる前だから、多分5歳くらいの時だろう。母は教習所に通っていた。泣き虫だった俺は、母の講習時間の間、いつも待合室で「お母さんが居なくなった」と、泣きながら待っていた。そんな俺に、母はウルトラマンの絵本を買ってくれた。泣き虫だった俺は、それを読めば怖くなんてなかった。幼いころの記憶はあまりない。それでも、教習所で唯一、助けてくれたウルトラマンは、俺のヒーローだった。
だからなのか、幼少期には戦隊ものや仮面ライダーが大好きだった。青年期になるとジャンプの「努力、友情、勝利」な漫画が好きになった。
毒手という中国の暗殺拳がある。様々な毒が入った砂に、毎日手刀を繰り返し、すこしづつ毒に対する耐性をつけていくのだ。俺の心には「困っている人はほうっておいてはいけない」というヒーローという名の毒が練りこまれていった。
「優しい」
「思いやりがある」
その結果、周囲からそんなレッテルが貼られ、俺という人間が出来上がっていった。小学校の時は学級員に何度も選ばれ、生徒会長にも推薦された(もちろん投票で落ちた)。もともと童顔で、たれ目だった俺は、見た目にも「優しい男」だったのだろう。
兼業農家の7人家族。夕食は畑や山で捕れたものが多かったが、時々ごちそうがある。でも、だいたい母のメイン料理は、量も少なく、そもそも無いことが多かった。自分だけ美味しいものを食べることに気が引ける。
「この唐揚げめっちゃ美味しいよ!お母さんも食べてみてよ!」
と無理やり、2個のうち1個を母のお皿に入れる。
「別に母さんいらんからあんた食べられぇ」
と言いながら、母は嬉しいのか困ったのか良くわからない顔するが、俺は母を気遣う自分が誇らしかった。別に見返りもいらないし、自分がしたいからそうしているだけなんだ。俺は正義の味方なんだから。
「誰でも彼でもお人好しするなよ、自分が損するぞ」
一度父に注意されたこともある。でも、学校で大きな花瓶に水を入れろ!と言われている女子を見て見ぬふりなんて出来ないじゃないか。
それに、悪い奴や理不尽な出来事には、どうしてもイライラするし腹が立った。
人生すべてがそうだったわけじゃない。若い頃には女性に優しくない行動や態度をしていた時期だってある。それでも、心に練り込まれたヒーローという名の毒は消えることなく、俺は大人になっていった。
「ねぇ、もう少し厳しく言って?甘やかしすぎよ」
甘やかしている。
今まで「優しい」と言われ、やってきた事を、家族や部下にすると、
「お前は甘い」
と、言われてしまう事が増えた。
俺は家族の為なら自分が損しても苦労しても別にかまわない。
明日雨だけど送っていこうか?
それ持ってやるよ?
次からは気を付けろよ、今回は大目に見てやるから。
そうか、大変だったな。まぁプリンでも食えよ。
俺が気に入ってる人や、家族には、気が付けば気を使い、優しく接してあげてしまう。
でもそれだけじゃただのバカだ。
もちろん叱ることもあるし、躾だってまぁまぁ煩いはずなんだ。
「それじゃ、人は育たないよ」
それくらい俺だってわかっている。
わかっているんだ。
なぁ…、
ウルトラマンは地球人を甘やかしていたのか?
それで助けられた地球人はどうしたの?
成長したの?
「お父さん!今日暑すぎて死んだ!迎えに来て?宿題も沢山出てるんだ」
夜ご飯の準備中、娘からLINEが入る。
「いいよ。19時くらいには到着すると思う、まってて」
…。
その日の夜、娘はスマホをいじっていた。
「勉強は…?」
喉まで出かかったが、俺はその言葉をコーヒーで押し込んだ。
