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第15話 AIのボケは大喜利で通じるか

AIによる文章作成能力は、加速度的に向上している。事務的な報告の文章なら、人間が書いたものと見分けがつかない程の精度で作成できる。ところが物事を俯瞰して、本質を見抜き、一言で説明するような場合、同じAIかと思う位、能力が低下する。いったいこの差はどこから来ているのか。この能力は、大喜利で面白い回答を出す能力に似ていないか。

イカす!大喜利天国というのがある。SNSで笑点の大喜利と同じように司会者がお題を出し、読者が答えるというものだ。

題:面接
面接官:「尊敬する人は?」 
就活生:「_______」
面接官:「・・・・えっ⁉」

多数の回答が寄せられたが、あまり面白いものは見受けられなかった。長すぎるもの。説明を要するもの。単に変な名前を並べたもの。面白さとは何かをまるで理解していない解答者がほとんどだった。

中でも最も多かったのが、「あなたです。」という回答。

意外性のある答えをすれば面白いだろう。ならば、歴史上の偉人ではなく、今いる人はどうか。目の前に面接官がいる。それで、完成だ。上手く行った。このような思考回路で作ったはずだ。出来上がったイメージがとぼけたものでなく、面接官に媚を売った、後味の悪さが残る。浮かんだイメージが面白いかどうかの検証がなされていない。言語だけで組み立てるからそうなるのだ。

ここは場違いな回答でボケるところだ。

そこで、AIなら何と答えるか聞いてみた。

面接官:「尊敬する人は?」 
就活生:「御社の面接で落ちても、また応募してくる人です」
面接官:「・・・・えっ⁉」

悪くない、ほとんどの人間の回答より面白い。ただし、少し、考えて作った印象を受ける。面白さとは何かを分析して、そのデータを元に再構築した感じだ。発想は面白いが、ボケ切っていない。面接―会社の枠からはみ出していない。

人間の作った面白い答えがこれだ。

面接官:「尊敬する人は?」 
就活生:「仏陀です」
面接官:「・・・・えっ⁉」

これは瞬間のひらめきだろう。爆笑を誘う回答ではないが、ヘンな回答であることは確かだ。

う、う。確かに尊敬に値する人物には違いない。
でも、この人、出世する気があるのか。
入社して何を目指すのか。
昇進も給料も気にしないということか。
そもそも働く気があるのか。

世俗的な面接官を軽い混乱に陥れる。
だから「・・・・えっ⁉」につながる。

大喜利で、粋な回答を出すのは難しい。一般人にはほぼ不可能に近い。笑いを誘うコマーシャルや仮装大賞では、優れたユーモアセンスを発揮するが、それは一部の限られた人だけだろう。
一般人の回答は言語の組み立てだけを使っている。ああだからこうだと、理屈で答えている。
その中で、AIはかなりいい線をいっている。
ただ、言語の組み立ての域を出ていない。その中では最上級に属することは認められるが。

一方で、「仏陀です」のような飛躍した回答は、人間にしかできない。飛躍したイメージの言語化が出来る人の回答だ。このような人は、面白そうなイメージを頭の中で高速でスキャンする。そのなかで、一番面白いと思ったものを選ぶ。決して言語で組み立ててはいないのだ。

会社の面接の状況で、面接官が期待している答えは、以下のあたりか。
渋沢栄一
徳川家康
福沢諭吉
期待された答えから、どう場違いに外すかがボケにつながる。
外し方が近すぎれば、それがどうかしたか、と無視される。
遠すぎれば、関係があるのか、といぶかしがられる。
笑いにはちょうど良い場違いの距離が必要なのだ。

「仏陀です」の距離はちょうど良く、「あなたです」は遠すぎる。

仏陀と聞いた時、一瞬ひるむ。
言ってることは間違っていない。
でも、ここは会社だ。世俗的な場所だぞ。
利益を求める、欲望渦巻く世界に、解脱を説く存在を持ち出すのか。
なにか微妙にズレている。
こいつが正しければ、俺たちが間違っているのか。
考え始めると、どんどんズレていく。

こうしたとぼけた飛躍は、AIにはできない。

「仏陀です」という回答に飛躍があるのは、対象の本質を右脳でイメージとして捉えているからだ。イメージは縦横無尽に表れる。その一つを捉えて言語化し、再び聞き手がイメージを再生する。言葉で組み立てたものではない。

AIも惜しいところまではいく。しかし、右脳でイメージを生成していく人と、左脳で言語を組み立てていく人の間には深くて大きな溝がある。

大多数の人間とAIは左脳派だ。その中でAIは最上級の能力を示す。しかし、右脳派には、決して追いつかない。

やはり、左脳派のAIには、大喜利は難しいようだ。

追記

AIが左脳派だという仮説は、マイケル・ガザニガの分離脳実験からも見えてくる。
分離脳とは、右脳と左脳をつなぐ脳梁を切断した状態をいう。ガザニガは、脳梁を切断された被験者に対して、右脳と左脳に別々の情報を与える実験を行った。
そこで明らかになったのは、答えがわからない問題に対し、左脳は「知らない」と言わず、あとから物語を作ることだった。
右脳にだけ情報が与えられ、左脳はその理由を知らない。それでも、なぜその行動をしたのかと聞かれると、左脳は分からないとは答えない。もっともらしい理由をつけて、創作物語を作ってしまう。
この働きをガザニガは「インタープリター」と呼んだ。
AIの返答もこれに似ている。知らないことを知らないまま、言葉だけで筋の通った説明を作る。空白を空白として残さず、物語で埋めてしまう。
その意味で、AIは右脳を持たない左脳と言える。

マイケル・S・ガザニガ
『左脳と右脳を分けてみたら――意識はどこから生まれるのか』抜粋







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