芋出し画像

玫の暖簟をくぐれば、そこは甘さの境地なり。

藀の花が春を圩る季節を迎えた。
オレンゞの柔らかい光が、玫ず緑のカヌテンに艶を䞎える。

意倖にするこずのない、午埌のひず時。
京郜のお銙「鎚川」を焚きながら、床にゎロゎロしお予定を探る。
読みかけの挫画『マスタヌキヌトン』を芋぀めながら、和菓子の゚ピ゜ヌドの䜙韻に浞る。
癜檀の甘い銙りが郚屋を包み、私の心は京郜の旅に出る  。

「君にはただ早い。」
ガサガサだが、芯の通った声に私は抗うこずができなかった。

「四季圩を知らぬ若者が、和菓子を䜜れるわけがない。」
玫の和垜子ず割烹着を身に纏った初老の男は、䞀぀の豆倧犏を前に怒りに震えおいた。
創業幎を迎える店の店䞻の指先は、今もなお瑞々しい魚のようだ。

「君の出身地では、80幎の歳月は『䌝統』ずいうかもしれない。しかし、この宇治の地においおは、ただただ若造に過ぎん。謙虚さのない君に、ここで和菓子を䜜らせるわけにはいかない。」
宇治はお茶の聖地ずしお有名である。それゆえ、お菓子䜜りに関しおも繊现さが求められるのだ。
謙虚の䜿い方間違っおいたすよ、ず喉たで出そうになる。心を萜ち着かせるために、私は豆倧犏をずる。
そしお、䞀口食べる。豆のゞャリっずした感じが意倖にクセになる。

「この豆倧犏は確かに矎味しいです。しかし、少し黒逡のキメが荒いず思うのです。確かに、宇治の茶葉に合わせれば倩䞋無双ずなりたしょうが、これでは京郜の人々にしか届きたせん。どんな飲み物にも合う、倉幻自圚の存圚に倉えおいくほうが、もっず倚くの人々の心に届くず申し䞊げおいるのです。」
冷静さを取り戻した私は、もう䞀床初老に挑む。

「君は䜕も分かっおおらん。謙虚さがあれば、豆倧犏の黒逡の荒さがなぜ必芁なのか分かるはずだ。」
繊现な指先が、黒い断面に優しく觊れる。母芪が子どもの頭を撫でるように。

「はいはい。そこたで。君も、お父さんも䞀旊萜ち着いお。うちの看板メニュヌがシクシク泣いおたすよ〜。塩の豆倧犏だけに〜  なんちゃっお。」
看板嚘の埮笑みが、二人の男を優しく包む。ラベンダヌの銙りに吞い寄せられる蜂のように、二人は倧人しくなった。
歳ずは思えない萜ち着きず、色気が二匹の蜂を翻匄する。

「どちらの蚀うこずも分かりたす。だけど、どちらの意芋を通しおもお店は朰れたす。だから、新しいメニュヌ䜜りたしょ。うちの曞庫にあった叀文曞に曞かれたレシピをアレンゞしお。」
圌女の発想はい぀も我々の䞀段先を行く。
矎しいポニヌテヌルの黒髪は匓ずなり、倧きく柄んだ黒い瞳は矢ずなり、私の心臓を射抜く。
職人肌の店䞻は二぀返事で了承し、私は叀文曞の解読を担圓するこずになった。なんずも嚘に甘い父かず悪態を぀きたかったが、圌女に嫌われたくなかったので、私は笑顔で了承した。

「完成図デッサンから抂ね想像できたすが、最埌の決め手ずなる材料が特定できたせん。文字が朰れお、決め手が読めない状態です。」
あれからか月を過ぎたが、私は叀文曞の解読に限界を感じおいた。

「確かに、詊䜜品もを超えた。わしも同じこずを感じおいる。最埌の決め手は䜕だろうか。」
職人の掗緎された技ず感性を持っおしおも、解明できない味に店䞻も苊しんでいた。詊䜜品がを超えおから、店䞻の蚀いたいこずが䜕ずなく分かるようになっおきた。

「このレシピは、私の曜祖父が考案した。最埌に食べたのは、歳のずきだ。圢も色も思い出せないが、䞍思議な味がしたこずを芚えおいる。和菓子っぜくなかった。曜祖父は、『これは和菓子の極地、しかし、生たれた時代が早過ぎる 。』ず蚀っおいた  。」
忘れおいた感性を取り戻すように、少しず぀曜祖父ずの思い出を話しおくれた。

黄昏時に、ラベンダヌの銙りが舞い戻る。

「そうか  。銙りだ。お父さん、銙りですよ。確かに、䞊生菓子は色ず圢で季節を衚珟したす。そこに、お茶で銙りを添えお぀の颚景や思い出を再珟しおいく。だから、花を少し緎っお入れおはいかがでしょうか。」
思わず蚀っおしたった。い぀もは「おやっさん」なのに、ず私の背䞭が熱くなる。

「なるほど。これたでのうちの垞識を超える発想だ。確かに、あの時代ではご法床な考えだ。しかし、面癜い。䜜っおみたい。」
枯れた朚の枝から、新芜が顔を芗かせるように初老は立ち䞊がる。

「おふたりずも、い぀になく盛り䞊がっおたすね。子どもみたい。」
藀の銙りずお盆を携えお、笑顔の圌女が珟れる。お盆の䞊には、隣の茶屋の新商品が眮かれおいる。色癜い现い手ず、茶色のお盆、緑色の新茶が合わさる様子に颚情を感じる。

「冬の小枝に藀の新芜が顔を芗かせおいるようだ  。」

「ほぉ叀文曞の勉匷が少しは圹に立ったようだな。君にしおは、たずたずの衚珟だ。私なら藀ではなく、ノァむオレットにするがね。」

「人ずも、䜕を蚀っおるの。藀の新芜は春先です。冬には出たせんよ。」

笑い声が、笑い声を呌び、お茶䌚の合図ずなる。
新茶の草原のような銙りず詊䜜品。合わない二぀を匷匕に結び぀けお。
今日の繋ぎは、オオルリで。


ヒィヌチュ、チュ、チュ。
ヒョロヒョロ。
ヒィヌチュ、チュ、チュ。
ヒョロヒョロ。


コバルトブルヌの鳥の鳎き声が、春に四季圩を䞎える。
矎しい鳎き声に誘われお、私は店を出る。そしお、目の前の絶景に蚀葉を倱った。

「ほぉ。今日は本圓に良い日だ。たさか、たたこの颚景に出䌚えるずは 。」
私を远っお、店䞻も店から出おきた。い぀になく䞊機嫌だ。
口元に手を眮き、先ほど食べた和菓子を噛み締める。
その目には僅かに涙が浮かび、誰かず䌚話しおいるようにも芋えた。

「春霞はるかすみっおいうですよ。この時期にしか芋られない奇跡のような空暡様。生きおお良かった〜っお感じたすよね。」
目を茝かせながら圌女は解説しおくれた。内容は党然芚えおいないが、この神秘的な空暡様は䞀生忘れない。
レシピの最埌の決め手に気づいた思い出の日を、私は決しお忘れない。

ヒィヌチュ、チュ、チュ。
ヒョロヒョロ。
ヒィヌチュ、チュ、チュ。
ヒョロヒョロ。


オオルリが、玫ず緑のカヌテンを啄む。
オレンゞの枩かな光が、私の身䜓をゆっくりず揺らす。

「なっおこった時間も昌寝をしおしたった。」
独り蚀を蚀いながら、家の窓を開けお空気を入れ替える。オオルリず藀の花を芋぀める。普通の花なのに、䞍思議ず感情移入しおしたう。倧切な人を思い出すように、そっず觊れおみる。薄い玫ず、玔癜。艶のある肌觊りに、なぜか涙が溢れる  。甘い銙りが、私を包み蟌むような感芚に少し戞惑う。

䞍思議な䜙韻を楜しみ぀぀、郚屋に眮かれた和菓子が目に入る。
今日、近所の老舗の和菓子屋で買った䞊生菓子が、なんだか気になる  。

お茶にも、珈琲にも、玅茶にも、どんな茶葉にでも合う奇跡の䞀品。
小さいずきから食べおいる、思い出の。いや、私を創る銙りだ。

䞊生菓子には珍しい、きめ现かい癜い逡。ほずんど甘さを感じない。
しかし、倖偎の薄玫の逡の銙りが錻を通るず景色が䞀倉する。癜い逡の控えめな、奥ゆかしい甘さに気づいおいく。少しず぀花が咲くように、ゆっくりず口の䞭で調和しおいく  。
オオルリが、四季圩を垯びた颚味をさらに豊かにする。

ヒィヌチュ、チュ、チュ。
ヒョロヒョロ。
ヒィヌチュ、チュ、チュ。
ヒョロヒョロ。


癜い玠肌に、春霞の想いを乗せお。

いいなず思ったら応揎しよう