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永遠みたいな酩酊(2055文字)

noteの自己紹介文に、「シメイブルー、ギロチン、デリリウムが好き」と書いているのだけど――、そしたら先日、「シメイブルー、ギロチン、デリリウムとはなんですか?」とのご質問をいただき――、なので、この記事にて回答させていただきます。

シメイブルー、ギロチン、デリリウムとは、ベルギービールの銘柄であります。

シメイは、ベルギーの、とある修道院がこしらえているビールで、レッド、ホワイト、ブルー、その他――の色があるのですが、中でもブルーはストロングなタイプです。
甘いフレーバーで飲みやすいようにも思うのだけど、とても深く酔えます。

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ギロチンは、「断頭台の絵」が描かれたラベルの、これまたストロングなビールで、シメイのようには甘くなく、いくらかお香のような香り方をするビールであると個人的には感じています。
僕が悪いことをしちゃって、首を落とされることになったら、断頭台に上がる前に、このビールを1本、麻酔がわりに飲ませてほしいなあ――、だなんて思います。そのくらい酔えるビールです。

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それから、デリリウム。ピンクのゾウやらが描かれたかわいらしいラベルでありますが、シメイブルーやギロチンに劣らず深く酩酊させてくれます。
それもそのはず。「デリリウム」とは、「アルコールによる震えや幻覚」という意味なのだとか――。

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――いろんなビールを飲み比べてきましたが、シメイブルー、ギロチン、デリリウム、これらはみな間違いなく「美味しい」ビールです。

「旨い」んじゃなくて「美味しい」んです。

渇きを癒したり、喉ごしを楽しんだり、そういう飲み物では断じてありません。

深夜に独り、ジャズかアルゼンチンタンゴでも聴きながら、時間を掛けて味わうべきものです。

アルゼンチンタンゴと書きました。

いくらか唐突に思われたかもしれません。

なぜアルゼンチンタンゴなのかというと、そのむかし、サラリーマン編集者をしていた頃通っていた店が、アルゼンチンタンゴを流す喫茶店(でありかつ僕にとっては昼間から飲める飲み屋)であったからです。

『ミロンガ・ヌオーバ』という店です。

神保町の、めっちゃ狭い路地裏にある、煉瓦敷きの床がガッタガタな、しかし天板の厚いどっしりとしたテーブルが魅力的な――、隠れ家のごとき店なのでありました。

移転して今は少し別の場所にある、と聞いています。

隠れ家みたいな――、と書きましたが、文字通り隠れていました、当時の僕は、ミロンガ・ヌオーバの、通りからは死角になっているテーブル席に。

でもって白昼堂々(いやまあいくらかこっそりと)、勤務時間中に、ある日はシメイブルーを、ある日はギロチンを、ある日はデリリウムを飲んでいたのであります。

だなんて書くと、仕事をさぼっていたのだね――と誤解されちゃうかもだけど、さぼってなんかいません。

映画を観たり、合コンしたり、そういうさぼり方は別にしていたけど……、ミロンガ・ヌオーバでさぼったことはございません(笑)!

子供向けのエンターテイメント誌に在籍していたのですが、本業である雑誌の企画や漫画とは別に、年に数冊、ムック本や書籍を出す機会があり、そういうときは、まるひと月くらい休まず、例えばそれが年末ならデスクで除夜の鐘を聞き、社屋の地下でシャワーを浴びて、仮眠室という名のカプセルで朝方から眠る――みたいなありさまで、そんな日々の慰めとして、アルゼンチンタンゴを聴きながら、原稿を書いたり、校正刷りに赤入れをしたりしていたのでありますボクハダンジテサボッテナイ。

ミロンガ・ヌオーバは、僕にとって、戦場における慰安テントのような場でありました(クラスに馴染めない子の保健室みたいな場であったかもしれません)。

あの空間があったればこそ頑張れたのだと思われます。

また、言い訳でなく、仕事の効率もすこぶる上がったのですよ?

なんとか剤とか――、そういうのは勿論知らないけれど、そういうやつってアタマが冴えるし、疲れが吹き飛ぶとかいうじゃないですか。

アルゼンチンタンゴとベルギービールの組み合わせは、まさにそんな効果を発揮してくれるのでありました。

よい原稿が書けるし、誤植に対する神経も研ぎ澄まされるのでありました――ボクダケ?

てなわけで、シメイブルーとギロチンとデリリウムのフレーバーは深く香るのでありました。

神保町の、床ガッタガタの隠れ家――、を思うと、切ないくらいの懐かしさに胸がきゅんとしちゃいます。

初恋や失恋のきゅんじゃなくてすみません。

会社を辞めて、締め切りに追われることもなくなり、移住したからもうミロンガ・ヌオーバに通うこともありません。

月(month)に1、2度、妻が寝たあと、出てたら月(moon)と差し向かいで、アルゼンチンタンゴを流しながらシメイやギロチンを楽しんでいます。

永遠みたいな時間だなって、そんなとき思います。

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