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第8話 時間どろぼう

大切な一冊に「モモ」がある。

モモはボロボロの服を着た女の子。
なんにも持っていないけれど、
時間だけはたっぷりとある。

ある時、モモの町に
灰色の男たちがやって来た。

男たちは、
「無駄を減らしなさい。
将来のために、もっと時間を貯金しなさい」
と宣伝する。

大人たちは仕事に精を出した。

常連客とのおしゃべり、ペットのお世話、
子供が寝る前の本読みを削って…

           *

2025年12月、テトは生後6ヶ月のヤンチャ盛り。

パソコン作業の監督くらいなら可愛いもので、

ある時は、水質検査官気取り。
飲み水に手を入れて、最初はパシャパシャと。
次第にエスカレートして盛大にバシャバシャするうちに、
ウォーターボウルをひっくり返して割ってしまった。

またある時は、探検家。
入念に足場を探しては、
3段シェルフ、冷蔵庫、食器棚、祖母の形見の箪笥と、
次々と高みを制覇していく。

ある日、テトは
キッチンの蛇口から噴き出す水に恋をした。
洗い物をする度に忍び寄る影。
隙を見せたら、ダイブするに違いない。

はたまた別の日に、
テトが二階の腰壁に飛び乗るのを見たときは、
内臓が浮くような思いがした。

躊躇なくジャンプする、その得意げな様子から、
どうやら登ったのは初めてではないらしい。

いくら猫だって、2階から落ちたら
骨折くらいはするかもしれない。

かくして、大の大人が夜な夜な
猫対策会議をすることになる。

まず、キッチンの出入り口に、
ネット状の柵をDIYすることにした。

リノベーションしたときに取っておいた障子の桟を、
本棚の後ろから引っ張り出し、
ホームセンターに行って適当なネットを探した。

あれでもないこれでもないと見て回るうちに、
農業資材の獣除けネットが目についた。

このネットを障子の桟にタッカーで留めれば、
エアコンの風も届く上に
テトが登っても耐えられそうだ。

簡単に開いてしまわないよう、
マグネットまで取り付けた。

次は階段の腰壁。

吹き抜けの家も多いからか、
子供の転落防止用ネットというものが売られていた。

踊り場付近にこれを取り付ければ、
万が一足を滑らせても安心だ。

頭上に白いネットが張られた階段は、
どこか船室を思わせる風情に仕上がった。

どちらもなかなかの力作である。

それなのに、
ほんの小さな隙間に手を差し込んで、
テトがキッチンの柵を開けるまで、
1週間とかからなかったのだから、トホホである。

結局シンクには、
スノコを被せることで折り合いをつけ、

もはやテト専用のクライミングウォールと化した
侵入防止柵を未だに撤去出来ずにいるのだから、
我ながらかなりの親ばかだと思う。

転落防止ネットだって、
それを張ってからというもの、
腰壁に乗るテトの姿を見たことがない。

これでは、転落防止ネットは、
ただのマリーン風インテリアである。

こうして日夜繰り返される知恵比べを
知らない人が見たら、「何と物好きな!」と思うだろう。

          *

「モモ」の話だが、

町の人たちは、
時間貯金が増えるにつれて不機嫌になった。

なぜかって?

常連客とのおしゃべり、ペットのお世話、
子供が寝る前の本読み…

一見、面倒で無駄に思えることが
本当はとても大切だったのだ。

だから…

だからうちのテトは、
断じて時間どろぼうなんかじゃないのです!


              tête-à-tête より

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