47.7%が「就活に影響」――アトピー性皮膚炎が生む“見えない社会的損失とは?
「アトピー性皮膚炎」と聞いて、みなさんはどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか?「肌が赤くなる病気」「かゆくて皮膚が荒れてしまう体質」といった、表面的な皮膚の問題として捉えている方が多いかもしれません。しかし、当事者のみなさんが日常で向き合っている辛さは、単なる見た目の肌トラブルにとどまらない、とても深刻で複雑な側面を持っています。

日々襲いかかる激しいかゆみや湿疹は、精神面や生活の質(QOL)に大きなダメージを与えます。そして何より切実なのが、大人になって社会に出たとき直面する「就職活動」や「職場での日々の勤務」、そして将来を見据えた「キャリア形成」という仕事の現場において、人知れず大きなハンディキャップや生きづらさを生み出している点です。

この記事では、サノフィ株式会社が2026年に発表した「アトピー性皮膚炎患者と就労白書」を通じて患者さんが抱える切実な実態や専門家・関係者の声、そして企業や社会、当事者自身がこれから目指すべき未来について解説したいと思います!
調査の全体概要〜400名の患者と400名の一般就労者のリアルな回答〜
今回の解説のベースとなっている「アトピー性皮膚炎患者と就労白書」は、サノフィ株式会社によって2026年4月にインターネット上で実施された大規模な調査に基づいています。この調査の素晴らしい点は、実際に社会の中で働きながら病気と向き合っている当事者のリアルな姿に真っ正面からスポットを当てているところだそうです。

調査の対象となったのは、中等症以上のアトピー性皮膚炎を抱えて働く20代〜50代の就労者400名(男女各200名)と、比較対象としての一般就労者400名(20代〜50代、男女各200名)の、合計800名です。
ここで注目したいのは、患者群の抽出にあたって「POEMスコア」という、患者目線で症状の程度を測定する客観的な評価指標を用いている点です。これにより、POEMスコア8点以上という「中等症以上」の症状を抱える患者層を厳密に定義し、信頼性の高いデータを集めることができています

単に「アトピーであるか」を聞くのではなく、「働きながら症状とどう付き合っているか」にフォーカスし、一般の働く人々とのデータを比較・分析することによって、当事者だけが抱え込んでいた課題や周囲との意識の温度差が、数字としても言葉としても明確に可視化されました!
発症時期の実態〜70%以上が小学生までに発症する長期的影響〜
アトピー性皮膚炎という疾患を理解するうえで、決して見過ごすことができない重要な特徴があります。それが「発症時期の早さ」と、それに伴う「付き合う期間の圧倒的な長さ」です。大人になってから突然始まる病気とは異なり、人生の初期段階から病気と共に歩んできた人が大半を占めています。

白書の調査結果によると、アトピーの症状がある人のうち「最初にアトピーが出た時期」として最も多かったのが「小学校入学以前」でした。さらに「小学生のとき」と答えた人を合わせると、実に約70%以上の患者さんが小学生までに発症していることが分かったのです。つまり、多くの当事者にとってアトピーは、社会に出てから始まったものではなく、幼少期や児童期からずっと生活の一部として存在し続けてきた「非常に厄介な存在」であると言えます。
幼少期の記憶、思春期の繊細な時期、進学や部活動に打ち込んだ学生時代、そして大人になって就職活動や職場に飛び込むまで……このように長期間にわたって病気と付き合い続けてきた経験は、患者さんの価値観や性格形成、進路選択、そして就職活動における行動パターンにまで深く影響を及ぼしています。
就職活動時の実態〜約7割が症状を抱えて挑む試練の就活〜
学生生活から社会人へと足を踏み出す人生の大きな分岐点、それが「就職活動(就活)」です。エントリーシートの作成、企業研究、説明会への参加、そして連日の採用面接と、ただでさえ多忙を極め、精神的にも強いプレッシャーがかかる過酷な時期と言えます。では、アトピーを抱える患者さんたちは、この試練の時期をどのような状態で迎えているのでしょうか。

調査結果を見てみると、驚くべき、そして切ない現実が浮かび上がってきました。就職活動を行った際、実に約7割の患者さんが「アトピー性皮膚炎の症状(見た目の肌荒れや強いかゆみなど)があった」と回答しているのです。人生を左右するような超ストレスフルな時期に、約7割もの当事者が身体的な症状や苦痛を抱えたまま、求職活動に臨まざるを得ないという厳しい現実に直面しています。
採用面接という場では、第一印象や好印象を与えることが重視されます。しかし、まさにその大切な局面で、顔や首元、手元といった隠しきれない露出部位に赤みや発疹が出てしまったり、面接の真最中に激しいかゆみが襲ってきて集中が途切れそうになったりといった困難が立ちはだかります。社会への一歩を踏み出すスタート地点から、患者さんは一般的な求職者とは全く異なる大きなハンディキャップと心身のストレスを背負いながら、就職活動という試練に挑んでいるのです。
就職活動への具体的影響〜「半数が影響を実感」と答えた背景〜
就職活動時にアトピーの症状があった患者さんのうち、実に47.7%(約半数)もの人が「症状が就職活動に直接的な影響を与えた」と明確に回答しています。では、具体的にどのような場面で、どのような影響や悩みに直面していたのでしょうか?

最も高かった回答は「肌の状態など見た目の印象が採用に影響すると感じた」、次いで「面接などで自分に自信が持てなかった」や「身だしなみの準備や皮膚のケアに多大な時間がかかった」という項目が上位に並んでいます。採用選考において、世間一般で言われる「清潔感」や「明るい第一印象」を過剰に気にせざるを得ず、自分が本来持っているスキルや人柄、熱意を正しく評価してもらう前に「見た目の肌荒れだけでマイナス評価をされてしまうのではないか」という強い不安に苛まれてしまうのです。

また、毎朝スーツを着る前の念入りな保湿ケアや薬の塗布、服についた落屑(フケのように剥がれ落ちた皮膚)の清掃などに多大な時間を奪われ、精神的にも時間的にも余裕を失ってしまう実態があるそうです。症状に対する不安や引け目が自己肯定感を下げてしまい、面接での自己PRやアピールを消極的にさせてしまうという「負のスパイラル」があるとのことです。
就労後の業務への影響〜約6割が感じる仕事上のパフォーマンス低下〜
厳しい就職活動を乗り越え、無事に社会人として働き始めた後も、アトピー性皮膚炎による影響が消え去るわけではありません。むしろ、毎日の勤務や業務の現場において、継続的な課題として当事者に重くのしかかってきます。調査において「アトピーが理由で仕事に影響が出た経験がある」と答えた患者さんは約6割にのぼりました。

具体的な業務上の支障として、最も多く挙げられたのが「集中力が落ちた」という回答です。続いて「仕事の効率が落ちた」「仕事に対して自信や意欲をなくしてしまった」「遅刻・早退・仕事を休むことがあった」といった回答が続いています。皮膚の耐えがたいかゆみや不快感はもちろんのこと、特に夜間のかゆみが原因で十分な睡眠が取れない「睡眠障害」が引き金となり、日中の勤務時間に高い生産性や集中力を維持することが極めて難しくなってしまうのです。

業務パフォーマンスが低下してしまう原因は、決して本人のモチベーション不足や怠慢ではありません。病気による不可避な身体的症状に起因しているのです。しかし、疾患への理解が乏しい職場においては、そうした背景が見えづらいため「やる気がない」「ミスが多い」「自己管理ができていない」と誤解されてしまうリスクを常に抱えており、働く当事者にとって精神的な大きな負担となってしまっています。
ストレスと症状の悪循環〜8割以上の患者が直面する悪影響〜
仕事の現場において、アトピー性皮膚炎と「仕事上のストレス」の間には、非常に深刻で断ち切りがたい悪循環(負のループ)が存在しています。職場で発生するさまざまなストレスが、直接的に症状を悪化させる引き金になっているのです。

今回の調査において、「仕事のストレスによってアトピーの症状が悪化した経験がある」と答えた人は、実8割以上という圧倒的な割合に達しました。プレッシャー、複雑な人間関係、責任のある仕事を任されたときの緊張感など、働く中で避けられない心理的ストレスがかかると、自律神経が乱れたりして、皮膚の炎症や激しいかゆみが引き起こされ、不快な症状が悪化すると、今度は「かゆくて夜眠れない」「顔の赤みが気になって人前に出るのが苦痛だ」といった新たなストレスが発生し、そのストレスがさらに皮膚の状態を悪化させる……という負の連鎖にはまり込んでしまいます。

身体的な苦痛が心理的な負荷を生み、心理的な負荷がさらに身体症状を重症化させる。この悪循環は、患者さんが個人の「気持ちの持ちよう」や「気合・我慢」だけで抜け出せるようなものではありません。ストレス対策と同時に、医療の力で皮膚の炎症を根本からコントロールすることの重要性がここにあります。
キャリア形成への阻害〜半数以上が「キャリアの障壁」と回答〜
アトピー性皮膚炎が与える影響は、日々の業務効率の低下にとどまらず、長期的・将来的な「キャリア形成」の面にも暗い影を落としています。自分の思い描くキャリアを築いていくうえで、病気が大きな壁として立ちはだかっているのです。

調査によると、半数以上の患者さんが、アトピーについて「自分のキャリア形成における障壁になっている」と回答しました。さらに衝撃的なデータとして、アトピーの症状悪化やそれに伴うメンタルヘルスの不調が直接的な原因となって、「休職をしたことがある」と答えた人が約1割、「退職や転職を余儀なくされたことがある」と答えた人が約1割存在することが判明しました。
重度の症状悪化によって仕事を一時的、あるいは永久的に離脱せざるを得なくなり、本来であれば得られるはずだった昇進やステップアップの機会、望んでいた職務経験を失ってしまう現実は、患者本人の人生設計や経済的安定に甚大な不利益を与えるだけでなく、企業にとってもせっかく育てた貴重な人材を失うという、非常に大きな損失となっています。
職場の支援体制の現状〜約8割が「支援がない・わからない」〜
社会や企業の中でダイバーシティ&インクルージョン(多彩な人材の尊重と包摂)が叫ばれるようになった昨今ですが、アトピーを抱える社員に対する日本企業の支援体制は、お世辞にも十分とは言えません。
自社にアトピー性皮膚炎のある社員に向けた支援制度や配慮があるかを尋ねたところ、「支援をしていない」と答えた企業が79.0%、「わからない」と答えた企業が15.0%となり、両者を合わせると実に94%の職場において、実質的な支援が行われていないか機能していないことが判明しました。

「明確に支援をしている」と回答した企業は、わずか6.0%にとどまっています。近年、がんや糖尿病といった生活習慣病、あるいはメンタルヘルス疾患を抱える社員に対する「仕事と治療の両立支援」や合理的配慮は急速に進んでいます。しかし、アトピーをはじめとする皮膚疾患は「命に直接関わる病気ではない」「個人の体質の問題」と軽視されがちであり、会社の制度的な配慮から取り残されてしまっているのが実情です。
患者と周囲(一般就労者)の認識ギャップ〜配慮の意向と理解不足〜
白書の中では、病気を抱える患者側の意識と、一緒に働く周囲の一般就労者側の意識との間にある「認識のギャップ(温度差)」についても興味深いデータが示されています。職場におけるすれ違いの構造が、ここから見えてきます。

一般の就労者400名を対象に行った調査では、51.0%(過半数)の人が「アトピーの症状を持つ同僚に対して、何らかの配慮が必要だ」と考えていることが分かりました。つまり、周囲で働く人々の半数以上は、困っている同僚を助けたい、配慮したいという温かく肯定的な気持ちを持っているのです。その一方で、患者側の21.4%は「職場における周囲の理解不足」に対して強い不安を感じながら働いています
周囲に「配慮したい」という思いがあるにもかかわらず、なぜ患者側は不安を感じ続けてしまうのでしょうか。その背景には、疾患に関する正しい知識が社内で共有されていないことや、かゆみによる睡眠障害や精神的苦痛といった「見えない辛さ」を職場で口にするのが難しい風土があると考えられています。
矢上晶子教授の提言〜「社会的な損失」と見過ごせない疾病負荷〜
記者会見において、藤田医科大学ばんたね病院総合アレルギー科の矢上晶子教授は、非常に示唆に富む重要な指摘と提言を行いました。矢上教授は、「アトピー性皮膚炎が原因となって、志半ばで仕事を辞めざるを得なくなったり、社会へ踏み出すこと自体を諦めてしまう人がいる。これは決して個人の努力不足や個人の問題にとどまるものではなく、社会全体における極めて大きな『社会的な損失』であり、絶対に見過ごしてはならない課題だ」と強く訴えました。

矢上教授の提言は、アトピーを単なる「個人の医療・健康問題」として閉ざすのではなく、深刻な労働力不足に直面し、D&I(多様性の尊重)を推進する現代社会が正面から向き合うべき「構造的・経済的課題」として捉え直す必要性を明確に示しているといえます。
治療の最新動向と認知の課題〜分子標的薬を知らない人が約85%〜
長年アトピーに悩んできた患者さんにとって、朗報とも言える変化が起きています。近年、アトピーの治療法は目覚ましい医療の進歩を遂げており、治療の選択肢が大きく広がっているのです。

従来の塗り薬(ステロイド外用薬など)を中心とした対処療法に加え、近年では皮膚の炎症を引き起こす特定の物質をピンポイントでブロックする「生物学的製剤(注射薬)」や「JAK阻害薬(内服薬)」といった「分子標的薬」が登場しました。これにより、中等症から重症の患者さんであっても、これまでとは一線を画す高い症状改善効果が得られるようになっています。実際、患者の70%以上が「新しい治療薬が出たらぜひ試してみたい」と前向きな姿勢を見せています。

しかし、ここに大きな情報の壁が存在しています。中等症以上の患者さんのうち、これら最新の分子標的薬の特徴について「知らない(49.0%)」、あるいは「名前は知っているが詳しくは知らない(36.3%)」と答えた人が、合わせて約85%(85.3%)にも上ったのです。劇的な改善が期待できる医療技術が存在するにもかかわらず、正しい情報が当事者に届いていないために、昔ながらの治療で我慢し続けているという重大な課題が浮き彫りになりました。
医療費と自己投資の考え方〜長期的なQOLと成果を見据えて〜
飛躍的な効果が期待できる最新の「分子標的薬」ですが、実際の普及においてもう一つの大きな壁となっているのが「薬剤費(治療費用)」の問題です。これらの新薬は高額療養費制度などの公的保険制度を利用できるものの、患者さんの自己負担額としては月々数万円程度の費用がかかる場合が多く、経済的な躊躇が生まれることがあります。

このコスト面の問題について、矢上晶子教授は視点の転換を提案しています。「10年後、20年後の自分の人生や、健康に働き続けられる姿を考えたとき、最新の医療を受けて症状をコントロールすることは、自分自身に対する『価値ある自己投資』だと捉えてほしい」とアドバイスしています。
また田野成美氏も、「かゆみから解放され、夜ぐっすり眠れるようになって仕事や生活の質(QOL)が飛躍的に上がることを実感できれば、一見高く見える薬代も決して高くはなく、むしろ十分に価値があると感じられるはずです」と、当事者の実感のこもった声を伝えています。適切な医療費の支出によって健康と働く力を取り戻すことは、生涯にわたる収入やキャリアの維持・向上に直結するという長期的視点が大切ということですね!
企業・HRが取り組むべき職場環境づくり〜具体的な配慮と制度〜
アトピーを抱える社員が、安心して自身の能力を発揮し成果を出せるようにするために、企業やHR(人事担当者)にはどのような具体的な取り組みが求められるのでしょうか。明日から取り組める実践的なアプローチがいくつか存在します。

第一に求められるのは「柔軟な働き方の容認と推進」です。定期的な通院のための休暇取得や、天候やストレスで症状が悪化した際のリモートワーク(在宅勤務)、時短勤務の柔軟な活用が挙げられます。第二に「オフィス環境の適正化」です。適切な温湿度の管理や、エアコンフィルターの定期的な清掃、清潔で埃や粉塵の少ない空間の維持は、皮膚への物理的な刺激を大幅に減らしてくれます。
第三に「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)研修などを通じた疾患理解の醸成」です。見えにくい慢性疾患を抱える社員に対する理解を深め、無知からくる不適切な発言やハラスメントを防ぐ風土を作ることが不可欠です。まったく新しい制度を作るだけでなく、すでに存在する休業や短時間勤務制度の対象として皮膚疾患を正しく認識し、個別の合理的な配慮について対話できる体制を整えることが、企業の責務と言えます。
おわりに〜患者が自分らしく働き続けられる社会を目指して〜
サノフィ株式会社が発表した「アトピー性皮膚炎患者と就労白書」が明らかにした真実は、私たちに多くの気づきと、具体的な行動を起こす必要性を強く訴えかけていると思います。幼少期から始まり、就職活動、日常の勤務、そして長期的キャリアの各段階において当事者を悩ませてきた「目に見えない負担」。これは、適切な医療介入と社会・企業の温かい理解が組み合わさることで、必ず軽減し、解消していくことができるものだと思います。95.8%もの患者さんが胸に秘めている「現状を変えたい」という強い願いに応えるために、医療技術の進化と正しい治療情報の普及、そして企業における柔軟な就労支援体制の構築を、今こそ加速させていかなければならないと思いました。
アトピー性皮膚炎であることを理由に、自分の持つ可能性や選択肢を制限されることなく、すべての人が自身の持つスキルや人柄を存分に発揮し、自分らしく輝いて働き続けられる社会へ。この白書とNote記事をきっかけとして、一人でも多くの方がこの問題に関心を持ち、職場で、あるいは日常で、考える契機になれば嬉しいです!!
参考文献
☑︎ 時事メデイカル アトピー患者の半数、就活に「影響あった」 ~専門医「社会的な損失」~
☑︎ サノフィ、「アトピー性皮膚炎患者と就労」白書を公開 | サノフィ株式会社のプレスリリース
タイトル画像に使用した写真
☑︎ ダイアモンド・オンライン 内定がない…3月から逆転できる就活生の特徴
☑︎ ふくろうの森クリニック 大人になってからのアトピー性皮膚炎、原因や治療する方法を解説
