『決闘』
決闘
「てめぇは俺が、ぶっ潰すっ!」
大勢が見ている酒場で、
背中の入れ墨を見せて、そう大声で啖呵を切った。
って、ところまでは…覚えている。
日時も覚えている。
確か…今日の 11 時。
だが、肝心の場所が、どぉーしても思い出せない。
知らない街の酒場だ。
周りの奴らに知り合いは居なかった。
「びびって逃げんなよ?」
「逃げたらてめぇーは、一生笑いもんだかんな!」
「あと、遅れてきたら、てめぇーの母ちゃん、デベソ決定だかんなっ!」
…とまで、言っちまったのを思い出した。
なんてこった。
しこたま酒を飲んでいたとはいえ、場所がわからねぇ。
決闘まで、あと 30 分。
宮本武蔵方式で、まだ遅れても遅刻の言い訳はたつ。
それに、母ちゃんは少しデベソだから……まぁ、しゃーんめぇ。
うぅ〜まだ走れば、間に合うはず。
こっちは既に戦闘準備は万端なのだ。
拳にはがっちりまいた包帯、腰には木刀、ポケットには勝利の缶コーヒー。
しかし……場所が、まったくだ。
だんだん俺の決闘イメージが動きだす。
俺にぶっ飛ばされ、大の字に血溜まりの中で倒れていたはずの奴が、少しずつ形を変えだしたのだ。
奴は膝をつき、震えた膝をたて、立ち上がりだす。
奴の顔についた真っ赤な血が、逆再生の様に引いていく。
…焦る。
10:58
10:59
11:00
すっかり血が引いた奴の顔が、勝ち誇った様に、ニャリと笑う。
「うわああああぁぁ……! あんなに格好よく啖呵を切ったのによぉ……!」
俺は頭を掻きむしり、部屋の壁を思いっきり蹴った。
ドゴォン…
壁は揺れ、賃貸の壁に穴が開いた。
『…あぁーははは、あぁーははは。』
揺れた拍子に落ちた笑い袋が、笑い出した。
踏み潰そうと、右足を上げたが、動きはとまった。
4年前に別れた彼女と買ったお土産だった。棚の上に置いてあったのだ。
『あんた、まだ馬鹿やってんの?』
彼女の呆れた顔が浮かんできた。
…うむっ。そ、そうだな。
俺も…大人になるかぁ。
命拾いしたな。
まぁ、今回は、彼女に免じて…許してやるか。
プシュッ。
男は静かに木刀を置き、缶コーヒーを開けゴクリッと飲んだ。
その頃、町の反対側では。
「……あれっ、決闘、今日だっけ?」
